第11話 ミックスジュース
都内某スタジオ。
私、奈々は写真撮影の仕事をしていた。
ファッション誌の撮影だ。モデルがカジュアルな服にキュートな化粧を施し、家のリビングのセットのソファに座り、口を尖らせポーズをしている。
モデルの女性は慣れたように、シャッターのたびに静止し自由にポーズをとる。
「かーわいいよ」「いいね」「最高!」
しゃがんだり立膝になったり、モデルの内面を引き出し、輝く一瞬を捕まえるのに精を出していた。
「よし! ちょっと休憩ね」
今撮影した写真のチェックをするのにモニターを見つめていた。
スマホが鳴った。
優斗だった。私は、一瞬躊躇したが、ラインした。
『仕事中だから、終わったら電話する』
仕事の集中が途切れてしまう。
バーで別れてから、優斗とは連絡をとっていなかった。
(――奥さん……絵里さんとなんかあったんだろうか)
「水野さん、衣装のイメージってこれであってる?」
スタイリストのアユミに声をかけられ、はっとする。
「ええ、イメージ通りよ」
私はモデルの髪に目が行った。
「髪型、もう少しふわっと出来ないかしら」
少し離れたヘアメイクのジュンに声をかける。
「オッケー、やってみる」
「よろしく」
(……優斗どうなったのかな。いや、今は仕事中だし、あんな嘘つき……)
モデルの子の髪が、動くたびに揺れていた。
「いいね、可愛い。イメージ通り」
「さあ、再開しましょうか」
そう言って私はカメラに手をかけた。
◇
美咲と絵里は、ファミレスで同じテーブルに座っていた。
休日の夜もあり、結構混んでいた。
美咲が絵里を呼んだのだ。美桜と大地もいる。
「急にごめんなさいね」
絵里は美桜を抱っこしながら座った。
「ベビーチェア借りてくるわ」
美咲が店員に声をかけに行く。
大地が「ごはん食べる」という。
「わかった、何食べる?」
絵里は、メニューを大地に見せる。
絵里はまだ呼ばれた理由が分からず、困惑していた。
(でも、断れない……。優斗と一緒にいたいとか? それとも騙されたから訴えるとか?)
考えれば考えるほど、分からなくなっていた。
美咲がベビーチェアを重そうに持ってきて設置した。
「ありがとう」
そう言って絵里は美桜を持ち上げてベビーチェアに座らせる。
「まま……」
美桜は何か感じたのか少し嫌がったが、レジ前で美咲がおもちゃを買ってきたらしく、美桜に渡すとそれを握って大人しく座った。大地には車のおもちゃ。
美桜はおもちゃをいじっている。
「可愛いわね……何歳?」
「一歳と三ヶ月よ。上の子は三歳。もうちょっとで四歳」
「そう……。今日は、お願いがあってきたの」
「……」
「私がいうのもなんなんだけど……、優斗……さんとは終わったから……」
大地が反応した。
「パパ?」
「う、うん。でも、関係ないのよ」
絵里は誤魔化す。
美咲が茶封筒を絵里に渡す。
「これで……無かったことにしてもらいたいの」
絵里が中身を見ると、一万円札がかなり入っていた。百枚あるかもしれない。分厚い札束が、輪ゴムで留められていた。
絵里は、しばらく考えた。
美咲が切り出す。
「実は、私にも旦那がいてね……要は黙ってて欲しいの」
絵里はようやく話が飲み込めた。
「私も……優斗と……子供の前だと言いづらいんだけど」
絵里は美咲に顔を近づけて小声で言う。
(別れようと思うの)
「だから……ありがたく受け取っておきます」
「そうなんだ。覚悟決めたのね……。 あ、飲み物食べ物いろいろ頼みましょうよ。大地くん? 食べるもの決まったのかな?」
美咲は吹っ切れたように機嫌が良くなった。
「これ」
大地はメニューを指差した。
「食べ切れるの? お子様セットにしたら?」と絵里。
「じゃあ、お子様セット二つ頼みましょうか。私たちもなんか食べましょ。私が奢るわ」
絵里も少し笑顔が戻ってきた。
「じゃあ、私はオムハヤシにする」
「もっと豪華なやつ頼めばいいのに」
美咲がそう言うと、絵里は少し笑った。
「じゃ頼むわね」
美咲はタブレットで手早く注文した。
「ドリンクバー行ってくるわ」
絵里が立とうとすると、
「絵里さんは座ってて。子供見てないと」
と美咲がいう。
「何飲む?」
「じゃあ、私はウーロン茶、子供は二人オレンジジュースで」
「オッケー」
美桜がいじるおもちゃで絵里があやしている。
(こんなことになると思わなかったわ……)
でも、絵里は不思議と悪い気はしなかった。
(なんでだろう? 一瞬憎いと思っていたのに、面と向かうと憎めないし、逆に親近感が湧いてくる)
四人で食べる夕飯は、美咲が気を遣ってくれたからか、美味しかった。
家路の方が絵里には重かった。




