第1話 コーヒーと君
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私、水野奈々は、佐藤優斗といつものように、とある小さな喫茶店で待ち合わせをしていた。
私が着く前に、いつも先に優斗が着いて座って待っている。
待たせないように気を遣ってくれているのかもしれない。
「奈々!」
優斗が手を大きく振った。
「優斗」
私も手を胸の前で小さく振りかえす。
「昨日も夜勤の研究補助バイト?」
「うん。あんまり寝てない。なかなか実験データが届かなくて困ったよ」
そう言って優斗は笑ったが、眠そうだった。
「疲れてるのに、ごめんね」
私は椅子に座りながら、優斗に謝る。
「いいよ。……ちょっとトイレ」
優斗が少しよろけて立ち上がり、トイレに席を外す。
(いつもながら優斗疲れてるな……)
ふと、出会った時のことを思い出していた。
私には歳の離れた弟がいて、弟の家庭教師を探すのに登録したアプリで、優斗と出会った。大学院に通う医大生らしい。
いつもバイトで疲れてそうなのに、丁寧な指導をしてくれた。私はそんな誠実な態度に好感を持っていた。
ある日、家庭教師のキャンセルをし忘れて、優斗が来てしまったことがあった。
「ごめんなさい。今日の授業、キャンセルし忘れていました」
「そうなんですか」
「お金は払いますので、このまま帰ってもらってもいいですか?」
優斗は、変なことを聞いてきた。
「凪くんは今日はいない?」
「いないです。今日は誰も……」
「もしよかったら、コーヒーご馳走になってもいいですか? いつも奈々さんが淹れてくれるコーヒーが美味しいから」
「インスタントですけどいいですか?」
「奈々さんが淹れてくれるなら」
私は、《二人っきり》ということに、少し緊張していた。
ダイニングの椅子に優斗を座らせた。
奈々がコーヒーを淹れながら聞いた。
「いつものようにお砂糖とミルク入れますね……」
すると、後ろから優斗が抱きしめてきた。
私は、体に力が入る。耳元で優斗の優しい声が響く。
「いつもコーヒー出してくれてた時、照れてたよね。いつも可愛くて……」
私の心臓の鼓動が速くなる。
(優斗さん、私の気持ちに気付いてた?)
「優斗さん……」
優斗が唇を重ねる。何度も愛撫のようなキス。
「みんな何時に戻る?」
「夜にならないと戻らないわ」
「奈々ちゃんの部屋に行きたい」
私は頭がぼーっとしたまま二階の部屋に行くと、そのまま夜まで優斗と過ごした。
――あれからそろそろ一年だ。凪も進学して家庭教師からも卒業した。
「奈々? どうした?」
私は、優斗に話しかけられていることに気づいた。
「優斗と出会った頃のこと思い出してた」
優斗が微笑んだ。
「そっか……じゃあ、そろそろ行こうか」
会計は、いつも全て私持ち。優斗の少しでも力になりたいと私なりの決意。
私の車で、いつものホテルに向かった。
いわゆるそういうホテルだが、忙しくて会う時間がないからどうしてもこうなってしまう。
部屋を選んで、部屋に向かう。廊下は静かだった。
部屋の中に入る。
「シャワー浴びてくる」
私がいうと、優斗が「俺も一緒に」と言った。
◇
ベッドで優斗の腕枕で、優斗の横顔を見つめていた。
優斗の容姿は、率直に言って《かっこいい》と思う。
将来、モテモテのお医者様になるんだろうなあ。と思った。
「来週、再来週は研究補助バイトがあるから会えないな」
「うん。わかった……時間できそうになったら、また連絡して」
私は優斗にキスした。
「好きだよ」
「うん。好き」
私は名残惜しいけど、優斗を車で送った。
いつも家まで送るというけれど、優斗は駅まででいいと言う。
「じゃあ、またね」
「また連絡するよ」
私は優斗に手を振った。
優斗は微笑んでいた。
でも、車から離れると振り返らず、足早に歩いて行ってしまう。
(デートはいつもホテル。この関係ってまるで不倫!?……)




