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第16話 合同任務

 カラン、カラン、カラン、カラン――!!!


 冒険者ギルドに、耳をつんざくような鐘の音が鳴り響いた。


 ベルファストでの生活が始まって一週間。  


 俺とヴィオラが、のんびりと採取クエストの依頼書を眺めていた平穏な時間は、その無機質な警報音によって強制終了させられた。


「緊急招集! 緊急招集です!」


 ギルド職員が顔色を変えてホールに駆け込んでくる。


「街道にて大規模な『ゴブリンロード』の群れを確認! すでに商隊が襲われ、被害が出ています! 現場は近隣の岩窟! ギルドマスターの権限により、これより緊急討伐隊を編成します!」


 ゴブリンロード。  

 ゴブリンの上位種であり、群れを統率する厄介な個体だ。


金級以上で構成された冒険者パーティーなら群れごと単独で殲滅可能な相手だが、現在このギルドの実力者達は別任務で出払っており、今ここにいるのは銀級以下の者たちだけだ。


 職員はホールにいる冒険者たちを見渡し、声を張り上げた。


「銀級以上は主力部隊へ! そして銅級は『荷運び』および『後方支援』として徴用します! これは強制任務です! 拒否権はありません!」


「はぁ……?」


 俺は思わず声を漏らした。  


 荷運び。


 つまり、戦力外の雑用係として戦場へついてこいということだ。  

 拒否すれば、ギルドの規定違反でライセンス剥奪もありえる。


「……マコト様」


 ヴィオラが、まるで汚物を見るような目で職員を見ている。


「不愉快な騒音ですね。あの男の喉笛を潰して、静寂を取り戻しましょうか?」


「やめろ。……仕方ない、従うぞ」


 俺はため息をついた。  


 目立ちたくはないが、ここで騒ぎを起こして追い出される方がリスクだ。


 荷運びなら戦わずに後ろで隠れていればいい。

 そう割り切るしかない。


 ◇


 ベルファストの街道から森へ抜けて進むこと約一時間。  


 俺たちは、臨時混成パーティーの最後尾を歩いていた。


 今回の主力は、銀級パーティー『灰狼の牙』。  


 リーダーで戦士のマックスを筆頭に、ベテラン揃いの中堅チームだ。


 彼ら『灰狼の牙』と鉄級パーティーが二組、そして俺とヴィオラの銅級コンビが一組だ。


 灰狼の牙のメンバーは俺たち二人を仲間として見ていなかった。


「おい、そこの銅級」


 前を歩く狩人ハンターのデレクが、振り返りもせずに言った。


「遅れるなよ。お前らはただの荷物持ちだ。戦力なんて期待してねえから、戦闘が始まったら物陰に隠れてろ。邪魔だけはするな」


 罵倒ではない。  


 ただ事実として、「お前らは役立たずだ」と突き放す、冷徹なプロの言葉だった。    


 彼らにとって俺たちは、予備の物資を運ぶための使い捨ての駒に過ぎないのだ。


「……了解です」


 俺は無能な一般人を演じ、愛想笑いで頷いた。


 隣のヴィオラが無言でデレクの背中を凝視している。  


 その指先が微かに動く。  


 デレクの首を空間ごとねじ切るための予備動作だ。


 俺は慌てて彼女の手を握り、止める。  


 ヴィオラは不満げに俺を見つめ返したが、しぶしぶ殺意を収めた。


 ◇


 目的の洞窟に到着した。  


 切り立った岸壁に、黒々とした穴が口を開けている。  

 中からは、腐った生ゴミのようなゴブリン特有の悪臭が漂ってきていた。


 そして話し合った結果、マックスたち『灰狼の牙』と二組の鉄級パーティーが洞窟内に侵入、三組でロード含むゴブリンの群れを討伐。


 俺たちは洞窟入口で待機して後から侵入してくるゴブリンがいないか警戒にあたることになった。


 素晴らしい。実にいい作戦だ。これなら何事もなくクエストは終わるだろう。


 ゴブリンロードの脅威度は銀級、群れを従えていることを加味すると銀級パーティーが単独で相手にするには不安があるが、灰狼の牙のメンバーはベテラン揃いだ。


 それに今回は鉄級パーティー二組の支援もある。

 遅れを取ることはないだろう。


「それではこれより突入する……行動開始!」


 マックスが気迫のこもった号令をかけると、冒険者たちは見事に統率の取れた動きで隊列を組み、洞窟に入っていった。


 さすが本職の冒険者だ。このような合同任務も初めてのことではないのだろう。


 俺は素直に感心しながら彼らを見送った。


「……さて、と」


 俺は傍らに仕えるメイドに声を掛ける。


「行ったな。ヴィオラ」


「ええ、マコト様。まったく不快なゴミ虫共でした……マコト様の御慈悲がなければ、あのような不敬な輩、即座に処分したのですが……」


「それは絶対にやめろ。で、どうだ? 周囲にモンスターの気配はあるか?」


「いえ、ありません。モンスターの気配はこの洞窟の中のものですべてです。ただ……」


「? なんだ? なにか気になるのか?」


「……いえ、失礼しました。何も問題はございません。私はマコト様の身を守ることに全霊を尽くすのみです」


「そうか、ならいいんだが……」


 ヴィオラの言葉に少しの違和感を感じつつも、俺たちは洞窟の入口付近に並んで座りながら、彼らの帰りを待つことにした。


 木々の隙間から陽光が木漏れ日となって俺たちに降り注ぐ。爽やかな初夏の風が心地よい。


 気持ちのいい陽気の中で、仮にもモンスター討伐のクエスト中だというのにも関わらず、俺はウトウトと寝てしまいそうになっていた。

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