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悪役令嬢、断罪されたので男になりました!?   作者: 雨水卯月


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9/62

5-3.悪役令嬢、運命に出会う

旅の終わりは壮大な景色と共に訪れた。


海だ。


黒土の真ん中に大きな、水平線が続いている。湖かと思ったが、引いては寄せる波がある。


「わあー!海―!!うみだー!!」


ルドは海に向かって走った。波に触れようとして、急ブレーキをかける。


(あれ?ここ、黒土の海だよね?入って大丈夫?毒とかない?)


すると、突然、アギトに持ち上げられる。米俵のように運ばれ、海に落とされた。


「え…わぷっ……ひ、酷っ!!」


しばらく、落ちた場所で抗議していると、肌が焼けるように痛くなってきた。


「いっ!痛っ!いたたたたたた…!」

「ここは死海だ。死んだ霊が宿る海。」


「サムターンの風は、呪いだ。解呪するには術をかけた本人か、呪いを吸い取ってくれる媒体が必要だ」

「死霊ってなに!?こわっ!」

「怖がる必要はない。呪いを喰らうだけだ。」

「いやいや、怖いって!」

「死霊は呪いを喰って、天に帰る」


「ほら」と、アギトが見上げる先に、白い煙が天に昇っていく。


これはWin-Winの関係なんだろうか。でも怖い。霊とか聞いてない。これ乙女ゲームじゃなくて、ホラーゲームでしたっけ?と、ルドは身震いする。


痛いのも嫌だけど、心霊現象も嫌だ。


「ここに一か月も居れば、癒えるだろう」

「い、いっかげつぅ!!」


目を瞑っていたルドは目を見開いて、アギトを信じられない!と見た。なんでそんなに平気そうなの?死霊だよ!幽霊だよ!THAT’S GHOST!


「そういうことは、先に言ってよ」


死海の波打ち際の洞窟で、ルドは抗議した。アギトが不思議そうな顔でルドを見返す。


「呪いとか、死霊とかさ…」

「先に言ったら何か変わるか?」

「変わんないけど…変わんないけどさあ!心構えとか色々出来るじゃん!」

「心構えが必要か?」

「アギトには必要ないかもだけど、オレには必要ですぅ!」


あ、と思う。アギトと呼び捨ててしまった。しかも命の恩人に随分な言いようだ。しかし予想に反して、アギトは笑った。初めてかもしれない。


「それでいい」

「え?」

「名前、初めて呼んだな」

「あ、うん。アギトって呼び捨てしていいってこと?」

「それがいい。お前には名前で呼ばれたい」


アギトが今度こそにっこりと笑った。ルドは少しの間、その笑顔に呆けた。


(こ、この男は~///)


そして、突然の甘い言葉に赤面した。



**

それから一か月、ルドは日がな一日、死海で浮いていた。


プカプカ浮かぶ。

元の世界の死海と同じで塩分濃度が濃いのだろう。ちょっと頑張らないと、浮きながら全身浸かれない。


(人間って慣れるもんだなー…)


ルドは、最初怖がっていた死霊にお別れの挨拶が出来るくらいには慣れた。よく見ると、海

の中に黒く蠢く影が見える。その影はルドの皮膚に触れて、白い煙となって、空へ登る。その時に顔が見える霊がたまにいるのだ。


あれは人だったのだ。そして、どうしていいか分からず死海を彷徨っている人だったもの。

自分も乙女ゲームの世界で迷走している。少しだけ親近感を覚えた。


痛みの次はかゆみに悩まされることとなった。肌がペリペリとかさぶたのように捲れる時期にかゆみを伴う。ゆっくり剥がれ落ちるのを待つのはしんどい。


「か、かゆい…」

「掻くなよ」

「え、掻いちゃダメなの!?」


なら、ムヒちょうだいよ!と心の中で叫ぶ。


「掻くと、皮膚が再生する前に剥がれて、死海に入る時に激痛だぞ」

「う…がまん、します。」


ハハ、とアギトが笑う。最初、能面のようだった表情はずいぶん豊かになった。ルドはアギトにすっかり心を許していた。たとえこの後売り払われたとして、アギトを恨むことはないだろう。それぐらいに良くしてもらっている。



夜眠る時は、アギトに抱き込まれて眠る。しかしある時、はた、と気づいた。


(あれ?一緒に寝る必要ある?)


「も、もう平気だから、一人で寝る」

「嫌か。」


嫌が嫌でないか、で言えば…


「や、じゃない…嫌じゃないけど……」

「なら、いいだろう。」


アギトは平気な顔して、ルドを抱き込む。ふわりと潮の匂いがする。

こんなに甘やかされて大丈夫だろうか。前世のおよそ三十年間も含め、他人とこんな濃密な付き合いをしたことはなかった。毎日一緒に居て、抱き合いながら眠って…


(一人になった時、寂しくて眠れないとか、勘弁なんだけど…)


アギトは一体何を考えているのか。問いかけても大抵の答えは二単語くらいで返すので、話が弾まない。これは徹底的に詰める必要があるかもしれない。


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