5-2.悪役令嬢、運命に出会う
「…ん……ぅん………うん?」
ルドは自分の寝言で目を覚ます。目を擦ると、目の前に黒い何かがいる。それを抱え込んで横たわっていた。
「えっ!?はっ?…な、に!?」
ルドが飛び起きると、男はのそりと起き上がった。
「あの…なんで?」
「お前がそのまま寝てしまったから、一緒に寝た。」
この人には常識とかないのかな?心配だなーと思いつつ、ルドは素直に謝った。
「えっと…ごめんなさい」
「謝ることはない。悪くなかった。」
何が…とは聞けない。なんだかイケナイ領域に手を出してしまいそうで。
「でも、ごめんなさい。オレ、触っちゃって…」
腕を捲って皮膚を見せる。以前、両親に見せた時より酷くなっている。皮膚、というより鱗のように隆起した部分と、ぐじゅぐじゅと膿んだ部分が混在している。基本的には患部に触れなければ感染しないはずだが、それでもだ。
「サムターンの呪いにかかっているのに…」
「知っている。」
「え?」
知っていて、ルドの手を拒まなかったのか。正気の沙汰ではない。ルドは顔面蒼白になって、アギトを見返した。アギトは何のことはないように、自分の首元を緩めた。鎖骨のした辺りの皮膚を見せ、言った。
「あ…!それ!!」
ルドは思わず、手を伸ばした。伸ばして、気づく。触れてはいけない。
アギトがルドの引き返した手を握って、鎖骨に導く。ルドが力いっぱい拒否しても、びくともしなかった。
「ちょっと!」
抗議しても、手は離されない。
「大丈夫だ。触れてもうつらない。」
ルドが力を抜く。アギトの鎖骨の下あたりはごつごつとしていたが、乾いていた。ルドとは違う。しかし、同じ病の跡。
「これって…!?」
「ああ、完治している。治す方法も知っている。」
「ほ、本当?…治るの?」
ルドは震える手で、アギトの皮膚を撫でた。
――治る!やった!!治るんだ!!
なでなでと皮膚に触れている内に、気づく。こんなに人と触れ合うことなどなかった。しかも、いつのまにかアギトに抱き込まれるような形になっている。ルドは赤くなって、アギトの胸を押した。
「ごめん、離して」
「何故?」
アギトは心底不思議そうに聞いてきた。
「オレ、男だけど」
「見ればわかる」
「昨日会ったばっかりだよね?」
「そうだな」
「え、そっちの人?」
「そっちとは?」
埒が明かない。ルドは、「はあー」と盛大なため息をついた。諦めよう。なんかこの人は変だ。でも、初対面で触れたり、抱き着いたり、自分だって変だった。諦めよう。
「コレ、どうしたら治るの?」
アギトはやっとルドを下ろし、片づけを始めた。
「ついてこい。」
説明はしてくれないらしい。ルドはアギトの半歩後ろを歩いた。
一人、と二人は随分違う。同じ荒野、同じ太陽、同じ風、そして得体のしれない男と一緒なのに、ルドは心が浮き立つのを感じた。一歩一歩が軽い。そういえば、昨日はしっかり眠れた。不眠は精神的ものも重なっていたのかもしれない。
奇妙な旅は3日3晩続いた。
夜は男に抱きこまれて眠った。最初は拒否していたものの、何故か男の肌に触れると熱を持った皮膚の痛みが和らぐのだ。
「鎮静作用がある」
「完治した人の肌に?あの噂って本当だったんだ」
「噂?」
「完治した人が薬として売られてるって」
「そうだな」と男が答える。その瞳はどこか遠くを見ていて、それ以上聞いてくれるなと言っているようだった。ルドは、一つの答えを見つけたような気がした。男は自分を薬として売る気なのではないだろうか。しかし、何故かそれを尋ねる気になれなかった。




