後日譚2(赤の王国のその後)
聖女の排斥から、ルドの名誉は回復し、今や彼は世界の英雄扱いだった。
金の王国としては、
その人気にあやかり、なんとしてもルドを国に留め置こうという動きが活発化した。
なぜか愛妾にしろ、などという馬鹿げた意見も出たほどだ。
その対策として、アレクシスが助け舟を出してくれる。
それが金の王国の外交親善大使という名誉職だった。
用は、諸外国へのお使いだ。
主な活動場所は黒土。黒土でアギトと一緒に、金の王国への道の整備や、貿易、各部族のまとめ役の選定などを行う。
聖女の一件が落ち着いたら、ルドはアギトと共に黒土を拠点に
旅をする予定だった。
英雄などと持ち上げられなければすぐにでも国外に出る予定、だったのだ。
「アギトと一緒に居られるのは嬉しいけど、これって要は体のいい“おつかい”だよねぇ」
調整作業に次ぐ、調整作業にルドはぐったりと机にうつぶせる。
「もっと、ワクワクするような新天地への冒険とか、楽しい旅行を想像してたのにぃ」
「それは冒険者か旅行者でないと無理だろう」
アギトの冷静なツッコミが痛い。
「ほら、しっかりしろ。そろそろ赤の王国の使者がくるぞ」
「はーい」
ルドは背筋を伸ばし、座り直す。
ここは赤の王国にある金の王国大使館の屋敷の一角である。
親善大使として赤の王国を訪問する間、ルドとアギトはこの屋敷を拠点として動く。
「ルクレツィア親善大使、赤の王国の使者がお見えになりました。応接室へどうぞ」
外交官の一人が、ルドを呼ぶ。
ルドは今、友好関係を示すため赤の騎士服を着ている。
赤の布地に金の刺繍の騎士服はルドをキリリと引き立たせる。
室内へ入ると、金の王国の特命全権大使(在外大使)であるイザベル・ラングレーが赤の騎士 ― レオン・ヴァレンタインと談笑している。
「ヴァレンタイン騎士団長、お久しぶりです」
「ルド殿、先日は赤の王国をお救い下さり、ありがとうございます。お礼が遅くなって申し訳ない。」
立ち上がって握手をする二人に、ラングレー大使が椅子をすすめ、「では、私は仕事に戻りますので」と、出て行ってしまう。
応接室にはレオンとルド、そしてアギトが残された。
あとは給仕のメイドがいる。
「お元気でしたか?あれから国はどうでしょうか?」
「ええ、おかげさまで。聖女の魅了を解除した後は、すこぶる体調がよく。王との不和も解消されました。」
「それは良かった。で、本題ですが、どこまで出せますか?」
「青の王国への支援ですね。こちらも厳しい状況ですと言いたいところですが。
ルド殿には恩もある。小麦の余剰分100トン、金貨は100ゴールドまで無期限の利子ナシで貸し出しましょう」
「そうですか。まあ、共倒れになられては困ります。無理していただかなくて結構。利子は頂きましょう。青の国は観光と魔導大国。小麦はなくとも魔道具があります。魔道具の輸入にご興味は?」
「それはありがたい!しかし私では力不足です。詳しい者を呼びます。よろしいですか?」
「もちろん。こちらも後は、ウチのラングレー大使を通してください。彼女は私の元侍女でして私の意図を良く汲んでくれるので重用していたのです。」
ルドは悪気のない顔で続ける。
「お妃教育の為に育てていた侍女にもっとやりがいのある仕事の斡旋が出来てホッとしています。」
「そ、それは…なんと言ったらいいか」
本当に、王太子妃の教育の為に育てていたのなら、次代の王妃の側近レベルである。
それを危険の伴う海外の在外大使などに任命してしまうのだ。
コノヒト、合理主義すぎてなんかコワイと赤の騎士レオンは思った。
「では、お仕事の話はこれでおしまいですね。」
ルドはぽんと手を叩き、メイドに茶を注がせる。茶菓子は赤の王国で王室御用達のお菓子屋のものだ。ほろほろと崩れ落ちそうなクッキーにルドは釘付けになる。
「美味しい!」
「ルド、口についている」
「ん、ありがと」
なんと、二人はレオンを前にイチャイチャし始めた。
アギトがルドに近づき、口の端についた粉を親指で払う。
目の前で繰り広げられる光景に、レオンは退出したい気持ちでいっぱいになる。
「あの、まだ何かお話が?」
「はい。ヴァレンタイン騎士団長には私と同じ役職について頂きたい。」
「は?」
「サムターンの呪いを死滅させる方法は死海にあります。しかし、民が1人で黒土を渡り死海まで行くのは難しい。まだ構想段階ですが、近い内に金の王国発案で各国に要請にするつもりです。ヴァレンタイン騎士団長には赤の王国側の陣頭指揮に当たって頂きたい。」
ルドは拭いてもらった顔をあげ、レオンに向かってにっこりと笑う。
「もちろん、緑の神聖国と青の王国にも要請するつもりです。四国共同の慈善事業です。」
「そ、それはまた…大きく出ましたね」
「そうなんですよね。でも赤の王国と青の王国は私に恩があるので、実質断れないですよね。神聖国はこういった慈善事業は大好きなはずですし。」
人差し指を頬にあて、ルドは無邪気に言った。
これも仕事の話では?とレオンは思ったが、言葉に出さなかった。
なぜだろう、目の前の少年に言い包められる気しかしない。
「これは慈善活動です。信頼できる友人であるあなたに、お任せしたいんです。」
「わかります?」とルドは首を傾げる。
ただの気のいい少年、と思っていたが、なかなかに食えないようだ。
営利目的や政治に利用されたくないので、友人として頼んでいる。報酬も出ないし、なんなら私財をなげうって協力してくれといっているのだ。
「わかりました。参加致しましょう。」
レオンは少し考え、意趣返しに一言付け加える。
「そのような言い方をされずとも、貴方が一言、“お願い”をすれば、喜んで協力致しますよ。」
そして暗に、ルドへの好意を仄めかす。
「…そういう好意の使い方はあまり好きではありません」
ルドは半眼になって、けれども少し頬を染めて答えた。
その顔はやはり憎めない少年のようだった。




