16-5.悪役令嬢、聖女と最終対決をする
ぼた、ぼたぼたぼた
眼帯をかけたアギトに見惚れ、
ルドは飲もうとしたコップの水を床に盛大にこぼした。
呪力を使いすぎたアギトの左目は一時的に視力を失っていた。
「ルド?どうした?」
「あっ!えっと…その…」
(いやいや今は見惚れてる場合じゃない!自分のせいでアギトの視力を奪っておきながら、オレの脳みそは何してんだ!)
イケメン好きの業は深かった。
床を拭くメイドに「ごめんね」と謝ると、コップをテーブルに置いて
ルドは自分の頬をばちん!と勢いよく叩く。
「ルド?」
アギトに両手を拘束され、説明しろ、と目で訴えられる。
「…アギトの眼帯姿、カッコいいなって見惚れてました。ごめんなさい」
と、ルドはスライディング土下座をかまそうとした。
アギトは驚き、拘束していたルドの両手を掴んで抱き寄せる。
「お前はまた、突拍子もないことを…」
「ごめん。だって、目が見えなくなったのオレのせいなのに…」
「気にすることはない。お前を守れたんだ。後悔はない。例え視力を失っても、守りたかった」
アギトがルドの頬を撫でる。
くすぐったさに、「ん」とルドが声を漏らす。
「呪力の使い過ぎって、どのくらいで治る?」
「2~3か月で戻るだろ」
「そんなにっ!?」
甘く見積もっていたルドはさらに顔を暗くした。
「ルド、こんなことは何でもない。片目は見えるんだ。」
「でも、色々不便でしょ?深夜にトイレの扉にぶつかるとかあるでしょ!?」
アギトはキョトンとして「……お前の心配は、いつも妙だな」と返す。
「オレ、出来ることなんでもするから。言って。」
ルドはアギトの手を握り、上目遣いで言った。
それを傍から見ていたオルフェウスとアレクシスは呆れた顔で
二人を見ている。
「何故あの色気が女の時に発揮されなかったのだ。魔性の男ではないか。」
「さあ?令嬢時代は“屈指の猿”と領内では有名でしたが、やれば出来るものですね」
ククッとアレクシスが笑う。
「猿っ…!確かに猿だったな!それも指折りの」
「妹のことは諦めていただけますね?」
「まあ、アレを見せられては……諦めるしかあるまい。」
アレクシスはため息をついて、渋々言った。
「おい、ルド!そろそろ仕事を手伝え!」
アレクシスは声を張り上げて、ルドを呼ぶ。
「え?殿下が初めてルドって言った!?今、ルドって呼びましたよね?」
ルドがやっと認めてもらえた、と顔を綻ばせ
アレクシスの周りをチョロチョロと歩き回る。
「ルルー!お父様だよ!やっと青の王国の流民対応が終わって帰って来たよ!」
全速力(とはいえ100メートル30秒)で駆けてくる父と
その後ろに母と伯父が居た。
「おかえりなさい!」
久しぶりに家族全員が揃い、公爵家は一気に賑やかになった。
笑い声と食器の音が混じり合い、灯りの下には穏やかな時間が流れる。
やっと終わったのだ、聖女の残した呪いの脅威も、聖女との対決も。
ルドたちは久しぶりに心の底から笑いあった。
最後までお付き合いいただきありがとうございました!
後日譚をアップ予定です。




