14-5.悪役令嬢、ディスる
青の王国は雪に閉ざされ、飢えと呪いに蝕まれながら――静かに滅びへと進んでいた。
情報収集に当たっていたアギトからの手紙を受け取り、
ルドたちは眉をひそめた。
アギトの使いは今回も大鴉だったが、
手紙を渡すとそのまま飛び去っていった。
(……喋れることを知られたくないのか)
ルドが手紙を開いて内容を読み上げると、
兄の執務室に沈痛な空気が漂った。
『青の王国――冬の食糧難に加え、サムターンの呪いが蔓延。
流民が雪崩のように押し寄せる恐れがある。』
「まずいな。オルフェウス、国境の兵を強化しろ。食糧は備蓄から回せ。」
アレクシスが低い声で命じる。
「まさか流民を受け入れるおつもりですか?」
兄が顔をしかめる。声は冷静だが、指先は書類を握りしめ、白くなっていた。
「見殺しにすれば、必ず恨みが国境を越えて返ってくる。だが受け入れれば……呪いの感染が一気に広まる危険もある。」
緊張で空気が張り詰めた。
国を守るか、人を守るか――二者択一のように思える問いに、兄の吐息が荒くなる。
「感染対策も徹底して行え。神聖国と赤の王国にも情報を伝えろ。赤の王国はルドヴィカの恩を返せと脅してでも、引っ張り出させろ」
兄がため息をつきながらも頷く。
アレクシスはルドに向き直った。
「ルドヴィカ、サムターンの呪いはどう治す?」
「黒土にある死海に浸かれば治ります。」
「死海……?」
アレクシスが鋭い視線を寄越す。
「はい。死海の位置は黒土の調査で確認済みです。兄さま、報告書はすでにまとめてありますよね?」
不機嫌そうに唇を歪めながらも、オルフェウスは頷いた。
自分の調査が“切り札”として搾取されるのが気に食わないのだろう。
ルドは兄を無視して、話を進める。
「殿下、国境警備兵の外に、荷馬車を準備してください。感染者は死海まで送ります。」
「荷馬車は現地で徴収しろ。農閑期の農夫と馬が使えるはずだ」
「殿下…民はサムターンの呪いを恐れています。自ら危険を冒す者はいないでしょう。それとも…兵を使って無理にでもということで?」
兄がアレクシスに抗議し、また盛大なため息をつく。
(兄さまったら、殿下が何か言う度に、ため息と嫌味ったらしい文句言って。…殿下にちょっと同情しちゃうな)
「農夫へは報酬を国庫から出す。オルフェウス、サムターンの呪いの治癒方法も各国へ情報開示しろ。調査にかかった公爵家の費用も補填しよう。」
「…国家機密扱いにせず、良いのですか?」
アレクシスは盛大に眉を顰めた。
「お前の利点はいつでも金勘定が出来るところだが…サムターンの呪いが我が国で流行した場合の損失は計算出来ないのか?」
二人の間に空気がピリリとひりつく。
「心配せずとも後で青の王国へ請求する。交渉材料が出来たと思え。」
「それでしたら…」
(で、殿下が譲歩した!!あとウチの兄、普通に人でなしだな)
ルドはアレクシスをちょっとだけ見直した。
そして、兄をちょっとだけ軽蔑した。




