14-4.悪役令嬢、ディスる
雪がちらつく石畳の街路には、人影がまばらだった。
青の王国の冬は長く厳しい。鎖国の影響で輸入は途絶え、倉庫の穀物は底を突きかけている。飢えた民衆の目は荒み、道行く者は互いを疑うように距離を取る。
そこにさらに追い打ちをかけたのが――サムターンの呪いだった。
皮膚に紫黒の斑点が浮かび、数日のうちに全身に広がる。
接触によって次々と感染が拡大し、八割が死に至ると恐れられる病。
街角では泣き叫ぶ子どもを抱いた母親が、人々に石を投げられて追われていた。
「触れるな!呪われるぞ!」
悲鳴と罵声が冬空に木霊する。
その元凶――聖女は今、王城の奥にあった。
白い寝台に凭れ、頬を紅潮させながら爪で自らの腕を掻き毟る。皮膚には黒い病痕が浮かび、治癒魔法を施してもじわじわと広がっていく。
ルドへかけた呪いが跳ね返され、呪詛返が
自身を蝕んでいる。
「どうして治らないのよ……!」
瓶を叩き割り、聖女が悲鳴をあげる。
「呪術師!出てきなさいよ!」
しゅるしゅると空間が歪んで、小さな子供が現れた。
子どもの外見をしているが、目の奥は
少しも光りを宿さない深海のような黒一色だ。
「呪術師!この呪いを解呪して!」
「出来ぬ。それは呪詛返だ。跳ね返された呪は己に返る。逃れる術はない。そもそも呪とはそういうものだ。最初に説明したはずだ」
「そんなこと知らないわよっ!なんとかしなさいよ!」
「お金ならあげるわ!この宝石も!ほら!」
呪術師は首を振る。
「出来ぬものは、出来ぬ。」
「そんな…」
「それ以上、用がないならば、帰る」
「待って!」
呪術師は来た時と同じように空間を捻じ曲げ、しゅるしゅると消えていった。
「ユリウス!ユリウス!!…ユリウスを呼んで!今すぐ!」
聖女は廊下の騎士を怒鳴りつけた。
「ユリウス、この呪いをどうにかして!」
その側で書類を抱えて佇むのは、青の王国宰相補佐――ユリウス・アーデルハイド。
青ざめた表情のまま、しかし冷静に言葉を選ぶ。
彼も、この国の誰ももはや聖女の魅了にはかかっていない。
恐ろしいこの聖女を持て余し、ひっそりと西の塔に閉じ込めている。
「聖女様、どうかお静まりください。病の流行は、民衆を御身の御力に依存させる絶好の機会にございます。治せると示せば、彼らはより深く縋るでしょう」
「治せないから、お前に頼んでるのよ!!」
聖女は泣き叫び、ユリウスを睨みつける。
悔しさに唇を噛み、毛布を握りしめる。
(なんで、なんで、今回は思い通りにならないのよ……!)




