14-3.悪役令嬢、ディスる
兄の執務室にはひっきりなしに王宮からの使者が訪れていた。
ルドは兄の手伝いをしながら、疑問を投げかける。
「兄さま、聖女はとっくに国外へ逃げていますよ。
今更、貴族の家宅捜索など意味はないのでは?」
「意味はある。叩けばホコリが出るようなやつらばかりだ。これを機に勢力を削いでおく」
「そして、何故殿下がこちらにいらっしゃるのでしょう?」
「王宮は聖女の騒動で機能しておらぬ。こちらの方が、執務は捗る」
ルドの疑問に答えたのは、アレクシス殿下だった。
あの日から、何故か殿下は兄の執務室に入り浸っている。
「まあ、いいんじゃないか。決裁が取りやすくて助かるし」
兄は涼しい顔で頷く。
(色々あるじゃん!?権威とか、体裁とか、セキュリティとか!!)
ルドの脳内ツッコミが虚しく木霊した。
しかし、「じゃあ、お前がやれ」と言われかねないので、ルドは沈黙を貫いた。
「聖女はどこに逃げたと思う?」
「青の王国かと。」
アレクシスに問われ、ルドは正直に答える。
「いつ捕まるか分からないこの国に居る理由はありません。赤の王国は聖女への宣戦布告を明言していますし、緑の神聖国も白の王国も入国者へは門戸を固く閉ざしています。聖女は今サムターンの呪いにかかっています。呪いを癒すことを最優先して、安全圏である青の王国へ隠れると考えるのが妥当でしょう」
聖女の背後に呪術師が居るのであれば、
サムターンの呪いで倒せるとは思わない方が良い。
「ふん、忌々しい。」
「あの…いまだに信じられないのですが、本当に聖女の魅了にかかっていないのですか?」
「あんなもの、かかる方がおかしいのだ」
「それ、赤の王国で言わないでくださいね」
(ヴァレンタイン騎士団長がぼっこぼこに凹むから)
「そなたこそ、猫かぶりはもういいのか?」
「あれは令嬢らしくしていただけで、猫かぶりではありません!」
「いや、あれは立派な猫かぶりだっただろ?」
兄が余計な口を挟む。ルドがギロッと睨むと首を竦めて黙った。
「そちらの方が良い」
「殿下に良いか悪いか判断していただかなくとも結構です」
「性別も、この際どちらでもよい気がしてきた」
アレクシスの真剣な眼差しに、ルドはぞわっと鳥肌を立てる。
「いやっ、そこは気にしろよっ!」
ルドが必死に突っ込んでも、兄はペンを走らせ続け、アレクシスは意味深に微笑む。
この部屋で正常な神経を保っているのは、ルドただ一人だった。
(アギトっ…なんでこんな時に限って居ないの!)




