14-2.悪役令嬢、ディスる
応接セットを挟んで、ルドとアレクシスは対面した。
アレクシスは寝室から出てきたルドを見て、何かを言おうとし
しかし、アギトを見た瞬間、むっつりと押し黙ってしまった。
(一体何の用で来たんだろう…?)
「息災であったか?」
「え?あ、はあ…そうですね。なんとか」
体裁を繕うこともせず、ルドは答えた。
「聖女の脅威は去った。私とそなたの婚約関係が継続中なのは聞いているな」
「ええ…でもオレは男ですし」
「女に戻す術を探そう」
「いえ、戻るつもりはありません。元はと言えば、婚約破棄もそちらから言い出したことではありませんか」
「あの時は、そなたに危険が迫っていた。聖女の注意をそなたから背ける為行ったことだ。」
アレクシスはアギトの存在を無視し、王族としての威厳を全身で放つ。
立ち振る舞い、声の抑揚、そして従者の緊張した視線
――すべてがルドに「命令に従うべきだ」と圧力をかけていた。
「ルドヴィカ、我が元に戻れ。王族の命令だ」
「勝手なことを!」
ルドは立ち上がり、挑むように視線をまっすぐアレクシスに向けた。
「オレはっ!女には戻らない!あんたの婚約者にも、王太子妃にもならないっ!!」
アレクシスは冷たい瞳でルドを見上げた。
無言で示す圧力が、部屋の空気を重くする。
「私がなぜ、聖女の魅了にかからなかったか、分かるか?」
「へ?」
「そなたを想っていたからだ。」
「そんなのっ、知らないっ!!」
「先に離れて行ったのはそっちじゃん!」
昨日まで懐いていた少年が、ある日突然ルドヴィカを冷たく突き放す。
取り巻きと一緒になって、魔力のないルドヴィカを嘲笑う。
まるで知らない他人のように突き放す言葉と態度。
この男は、ルドヴィカが傷つかなかったとでも思っているのだろうか。
ふつふつと怒りが湧いてくる。
「こっちが大人しくしてるのをいいことに勝手なことばっかり…!オレは!ずっと、ずっと言おうと思ってた!」
ルドは少し躊躇したが、それでもアレクシスを見据えて叫んだ。
「殿下の細かすぎる性格が嫌いなんだよ!
パンの切り口が斜めになってると全部残すし!
スープに浮いたパセリを並べ直してからじゃないと口をつけない!
机の本は背表紙の高さ順に並べ直さないと気が済まないし、
人が話しかけても、必ず三呼吸おいて
『言葉を選んでる俺』みたいな顔するし、
会話の中で必ず人の言葉を訂正して『正しいのは自分だ』って言いたがる!
そんなのと毎日顔を突き合わせるとか、生理的に無理に決まってるじゃん!!」
アレクシスは唖然としている。
背後でアギトがくっと笑いをかみ殺すのが聞こえた。
アギトには旅の途中、散々アレクシスの悪口を聞かせていた。
今回後ろに控えて口を出さなかったのも、ルドがアレクシスを心底嫌っているのを
知った上での行動である。敵ではないと認識しているのだ。
「絶対、絶対、ぜえったい!アナタとは結婚出来ない!!」
ルドはそれだけ言うと、アギトを連れて部屋を出た。
廊下で兄とすれ違う。
「殿下相手に言いすぎではないか?」
「数年間まともに婚約者扱いもせず、公衆の面前で婚約破棄した挙句、オレを愛妾扱いした男ですよ?優しいほうではありませんか?」
「確かに。公爵家として正式に抗議しよう」
兄の中でどう計算が働いたかは謎であるが、きっと抗議することに利点を見出したに違いない。決してルドの為ではない。




