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悪役令嬢、断罪されたので男になりました!?   作者: 雨水卯月


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2.悪役令嬢、怒られる

「ああ…なんてこと!」


対面しているソファに腰を下ろし、妙齢の女が涙を流す。


「まあ、なんというか……ごめんなさい?」


短く切りそろえられた髪を見て母親が悲鳴を上げた。次いで、厚い胸板と喉仏を見て、卒倒しかけた。普通そういう反応だよねーだ、よ、ね、DAYONE~!


「本当に嘆かわしい!ルドヴィカ!あなたという子は!!小さな時から男の子のように粗野だと思っていたけれど、まさか本当に男の子になるなんて…!」

「まあまあ。男の子になっても、ルルーは可愛いから問題ないよ」

「あなたは黙っていてちょうだい!!」


この年で母親に本気(マジ)泣きされるということはなかなかに辛いことだ。しかも、チクチクと幼い頃からの愚痴がボディブローとなってルドヴィカを殴る。やめようチクチク言葉。ルドヴィカはサンドバックとなって、母の口撃に耐えていた。父に目線を送り、「今は何も言ってくれるな」と合図する。


ルドヴィカは転移呪文で実家である公爵領ではなく、伯父である辺境伯領へと転移した。父母にはあらかじめ婚約破棄され、断罪されそうになったら、逃げる算段であると伝えていた。


けれど――男になる可能性があるということは伝えていなかったかもしれない。


よよよ、と泣く母に父も兄も、もちろん元凶であるルドヴィカも「何も言えねぇ」と黙ってお小言を聞いているしかない。


「一体、どういうつもりですか!?母の、わたくしの気苦労を知っていて!?何故大人しく普通の令嬢のように振舞えないの!?」

「はい、ごもっともです。」

「その上、伯父上にまで迷惑をかけて!情けないと思わないの!?」

「はい、ごもっともです。」

「ルドヴィカ…悪いと思っていないわね?」

「はい、ごもっともです。」


(あ!しまった!!)


青筋を立てた母親と目が合う。助けを求めた父と兄、そして母の兄である伯父は無言で首を振った。


(うわあああん!酷い!見捨てられたぁ!)


この世に母ちゃんより恐いものはないのだ。ジャイアンも言っている(言ってない)。




***


母のお説教タイムが小一時間程続いたところで、伯父が助け舟を出してくれる。


「ともかく、これからどうするんだね?」

「あ、はい。無事、男になれたので」


ギン、と母の目が光る。


「えっと、殿下の妾とならない為とはいえ、男になってしまったからには…この家は出ようかと」


ルドヴィカは体制を立て直し、伯父に向き直る。


「殿下の言う通りにするのは業腹ですが、私のことは除籍して、お父様も伯父上も無関係を貫いてください。いま聖女と敵対するのは得策ではないでしょう。」

「そんな!ルルーの為なら僕は戦うよ!」

「ここは辺境領だ。属国の交代には慣れている。ルルー、誰も君を責めはしない。」


父と伯父がルドヴィカを励ましてくれる。ここに留まり、王家と敵対することになっても構わない、と。ルドヴィカは首を振る。


「あの聖女、力を隠しています。」


そう言って、腕を捲る。


「それ……サムターンの…風土病じゃないか!」


“サムターンの呪い”というのは金の王国に昔からある風土病だ。どこからともなくやってくる皮膚病の一種で、致死率は8割と高い。サムターンという魔導士がどこかから持ってきた得体のしれない呪いのような病とおとぎ話に登場するくらい昔からある病だ。しかし今だ未解明で、治癒する魔法も、薬もない。生還するには、ただ本人の治癒力だけが頼みだ。

「そんな!」と母の悲鳴が聞こえる。


この病は空気感染はしないが、接触で感染する。ルドヴィカは念のため、結界魔法を使って、家族と距離を保っていた。近づこうとした母は案の定、結界に弾かれて、ルドヴィカの腕を掴めない。


「聖女に感染させられました。確か…“サムターンの風を贈る“とかなんとか言っていました。」

「聖女にそんな力が?…にわかには信じられん…」

「私も、聖女はノーマークでした。ただのふわふわしたオタサーの姫かと。油断してました。」

「オタサーの姫…?」


「お父様、ちょっと何言ってるのかわかんない」と困ったように父が口ごもる。この人も私が娘で苦労しただろうな、と生温かい目で見つめる。父は嬉しそうにはにかんだ。乙女か。私じゃなくて、お父様がお母様の娘だったら良かったのに――とよく分からないことを考える。


「まあ、油断していたって意味です。」

「あなたって子はなんでこう!…もっと嘆くとか焦るとか…!」


母が怒る。その中に先ほどにはなかった心配そうな光が宿っている。あ、やばい泣かれる。そこに兄が今日初めての存在感を出してきた。


「ルドヴィカを黒土に行かせてみてはどうでしょう?」

「お前、何を言っているの…!?」


黒土、というのは、この世界の4つの国に隣接する、不毛の地だ。この世界は花びらのように赤・青・白・そして金の王国があり、その中心にはどの国にも属さない黒土がある。ほぼ荒野であるため、めったなことでは人は黒土に足を踏み入れない。国を追われた者かあるいは迫害された者が行く場所である。


「サムターンの呪いにかかった者が黒土に行って、治癒した例があります。」

「そのような話、聞いたことがないが…」


伯父が訝し気に、兄に問いかける。


「僕としても、突然男に変わったとは言え、妹は可愛い。噂程度の話で黒土になど行かせたくはないが………」

「お兄さま…!」


「まあ、その姿ならいい気もしてくる」

「お兄さま…?」


兄はじっとルドヴィカを見つめた後、言い直した。実験台にでもしようというのか。兄にはそういうところがある。


「えっと…じゃあ、試しに行ってみよっかな」


ルドヴィカにもそういう所がある。

重苦しい雰囲気の中、兄が軽くて良かった!と、ルドヴィカはホッとする。


とりあえず、あの聖女に対抗するためにも病は治さなくてはならない。目標を“悪役令嬢から退場する”から、“まず生き残る!”に下方修正をした。


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