14-1.悪役令嬢、ディスる
金の王国・公爵家にて帰宅したルドを迎えたのは、
慌ただしい屋敷の空気だった。
(伯父上の辺境領でなく、中央の公爵家に戻れ、って…言われたけど…)
ルドは半年ぶりの我が家の広間に立ちすくむ。
そこへ兄が書類を抱えて駆けてきた。
「あ、兄さま!何かあったの?」
「ああ!ルド!帰ってきたのか」
兄が額に汗をかいている。珍しいこともあるものだ。
「聖女が国家反逆罪で捕えられることになった」
「え?」
「しかし、逃げおおせたようでな。今、国を挙げて聖女の行方を捜している。聖女派の家宅捜索の方針決めで…」
「オルフェウス様!こちらにお出ででしたか!こちらの書類の決裁を!あと、家宅捜索の順序も早急に決めていただかないと!」
政務官が慌ただしく、兄さまを連れていく。
そういえば、兄さまの名前はオルフェウスというのだった、といま思い出す。
「どういうことか、聞く暇もなく連れていかれちゃったね…」
ルドは力なくアギトに笑った。
とりあえず、とルドはアギトと共に自室に向かった。
公爵令嬢であったルドの部屋は、女性らしいパステルカラーと花柄で整えられた可愛らしい部屋だった。今の自分に不似合いなことこの上ない。
(この部屋、いやだなぁ…)
令嬢時代の名残を感じてしまう。客室を用意してもらおうにも、
メイドも執事も忙しくて声を掛ける暇すらない。
「しょうがないか…」
ルドはレースがふんだんについたベッドのシーツを捲ると
その上に寝転んだ。
久しぶりの極上の柔らかさのベッドの感触に眠気が襲ってくる。
「昼間から…誘っているのか?」
(あ!しまった!アギトも居るんだった!)
「そ、そんなわけないじゃん!」
がばっと起き上がるが、アギトに圧し掛かられ、ベッドに縫いとめられる。
「ちょっ…!ちょっと、アギト!!怒るよ!」
「皆、忙しい。俺たちが少しくらい騒いだとて、気づかん」
べろり、と首筋を舐められる。
「ふっ…!」
「赤の王国を抜けるまで、俺はいい子にしてただろう?」
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そう、あれは馬車の中で――
「んっ…!…っ!」
「ルド、口を開けろ」
「あっ…んっ…」
ルドは何度目か分からないアギトからのキスに耐えていた。
「アギトっ…ここじゃダメっ…」
「なぜ?」
「まだっ…赤の王国内じゃん…それに馬車の中でなんて、ヤだよ…」
「いつものように魔法で空間を遮蔽すればいい。」
「それじゃ、騎士が不審がるって…」
「もう十日以上してない」
「もうちょっとだから、いい子にしててよ」
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という、やり取りを思い出す。
(確かにいい子にしていたけど、こんなすぐ?)
ちょっとくらい旅の疲れを癒してから――という言葉は、かろうじて飲み込んだ。
言えば、お前で癒すと言われかねない。
するりと服にアギトの手が入り込む。
「あっ…アギトっ…」
ルドがその気になり始めた時
廊下がにわかに騒がしくなり、バンと扉が開く音が響いた。
寝室は奥にあるので、おそらく近くの部屋の扉が開かれたのだろう。
なんだろう、とルドは体を起こす。
「…ちっ!」
(舌打ちした!舌打ちしたよこの人!)
機嫌が急降下したアギトを連れて、廊下への扉をそっと開ける。
廊下を挟んで向かいの応接室に誰かが立っている。金色の――
(あ!あーー!)
「アレクシス殿下っ!!」




