13-2.悪役令嬢、救国する
赤の王国の騎士、レオン・ヴァレンタインは熱血・真面目・純真である。
「……」
「あの…」
「……」
「あのぅ…分かりやすく落ち込むの、やめてもらえます?」
ゆえに落ち込むと大変面倒くさい。
これはゲームでは分からなかった真実だ。
「さっきから説明してるじゃないですか!聖女の魔力は強力で、魅了にかからなかった人の方が稀ですって!!」
「しかし、金の王国のアレクシス殿下と緑の神聖国のエヴァンス神官長はかからなかったのだろう…?」
(わぁ!粘着質!ゲーマー垂涎の“SSR級めんどくささ”発見!)
「私は…なんて未熟なんだ…」
(演劇じみたポーズで天井仰いでるし!!舞台俳優なの!?)
「挽回したいなら、今出来ることをしましょうよ…。」
「…私が出来ることなど……」
(ああもう!建設的な会話をしたいのにぃ!)
その時――
バサバサッと羽音が響き、コンコンと窓を叩く音にルドは気づいた。
「敵っ…!?」
ルドは声を上げたが、騎士団長は落ち込みモード継続中だ。
(いや反応してよ!?)
恐る恐る窓を見れば、大鴉が黒曜石の目でじっとこちらを睨んでいた。
「黒曜?」
思わず口にした名に、大鴉はこくりと頷く。
「えっ!?えええ??こ、黒曜なの?アギトのお使い?」
ガチャガチャと窓を開けて招き入れると、大鴉は低い声で言った。
『ブジ、カイジュデキタカ?』
(しゃべったーーー!!)
『コクヨウ、アルジ二ホウコク、スル』
(よ、良かった!やっぱりアギトの精霊だ!)
「解呪できたよ。これから国王様のところに行ってくる」
『キカン、シナイ?』
「え?帰還?」
『カイジュシタラ、スグキカン。ヤクソク』
「あー……それね。ごめん、ヴァレンタイン騎士団長ひとりじゃ不安だから、オレも国王の所まで一緒に行くよ。その後ちゃんと帰還する!」
『……キカン、オソクナル』
「そう!遅くなるって伝えて!」
一拍置き、黒曜は「カア!」とひと鳴きした。
『…アカノキシ、ヤクタタズ、ヤクタタズ!』
大きな羽ばたきで窓から飛び立ち、余計な一言を言いながら
旋回して西の空へと溶け込んでいった。
(え…すごい!一瞬で空の水色に溶け込んだ!)
ルドがぽかんと見上げる横で、ようやくレオンが口を開いた。
「……今度は鳥にまで馬鹿にされるのか。私は……」
「あんのカラス!余計なことを!!」
(一言多いとこまで、アギトそっくり!!絶対アギト指示してるでしょ!?)
***
ガタガタと馬車が揺れる。
向かいには大きな体を、これでもかと小さくした赤の王国の騎士団長が座っている。
(はあ……空気が重い)
ここにアギトが居てくれたら、と思う。
そしたら、アギトはオレの隣に座って
時折、髪を撫でて――あのヒトの手はいつも温かくて気持ちいい。
思い出し、うっとりと目を瞑る。
その太い指で唇に触れて、甘えるようにオレの膝に頭を預ける。
一緒に居る時は、常に甘い雰囲気を纏わせて、慈しむような眼差しを向ける。
少しカサついた唇でキスをして、硬くなった舌で口内をかき回して――
「ルド…」「愛している」――
耳の奥に、勝手にアギトの声を再生してしまう。
「っん…」
(あ!しまった…声出ちゃった)
ふと、視線を感じて、顔を向ける。
レオンは顔を真っ赤にしてルドを見ている。
(聞かれた――レオンが居るの、忘れてた)
きっと百面相していたのだろう。ルドはふいと顔を背け、
馬車の窓から外を見た。
季節は初冬だというのに、一面、金色の麦畑がキラキラと輝いている。
この麦は、きっと青の王国には輸出されない。
本格的な冬の到来までには、青の王国も救わなくては――
ルドは真剣な面持ちで外を見つめる。
焦るな…油断するな…、と自分に言い聞かせて。
***
王宮に着くと、すぐに客室に通された。
国王への謁見は明日。
紅玉だったモノは宝玉として献上することになった。
白の魔王の魔力が込められていることは内緒だが、
聖女の魅了を退ける効果があることは説明している。
道中、すでに何人もの魅了を解呪した為、効果も実証済みである。
「あのぉ…」
ルドは部屋の隅のかたまりに話しかけた。
先ほどまで騎士然としていたレオンはまた床に蹲っている。
本当に面倒くさい騎士様だ。
「一緒の部屋とかは困るので、メイドさんに別の部屋を準備してもらうように言ってきますね」
すると、レオンがすくっと立ち上がる。
(おお!立った!)
さすが騎士と言うべきか、予備動作なく立ち上がる。
ルドが見上げるほどの上背で、近くに居ると威圧感がある。
「私は王宮内に部屋を持っている。ここは君の客室だ。」
「そう、ですか」
なら、なんでお前はここに居る――と顔に出してしまった。
レオンは再び項垂れ、情けない顔をする。
「すまん。こんな姿を王宮で見られるわけにはいかんのだ。しかし君には――君にだけは…」
オレには一度見られているから、いいってことですね――と言うとでも?
ルドは迷惑と目で訴えた。
目上の相手なので、直接は言わない。
「ルド…君といるとなぜか――」
と、レオンがルドの肩に触れる――寸前に、パンッと鋭い音で
レオンの手が弾かれる。
ルドは何事かと目を見張る。
「ルドに触れるな」
見覚えのある腕が、ルドの背後から伸びている。
もう片方の手がルドの肩に乗せられている。良く知っている温かい手が。
(え?…)
ルドは振り返る。
「あ、アギト!アギト、ダメだよ!!ここ王宮!!…アギト、見つかったら、捕まっちゃうよ!」
ルドはアギトを振り返り、その頬を手で包む。
焦りすぎて、レオンの存在を忘れ、言い募る。
「バレるようなヘマはしてない。」
「騎士団長にバレてるよ…」
「コイツの口を塞げばいいだけだ」
「物騒なこと言わないで!」
「では、言うなと命令すれば良い。お前はコイツの命の恩人だろう?」
命の恩人というのは言いすぎな気もするが、恩人といえば恩人なのだろう。
ルドはレオンを縋るように見た。
「本来なら騎士団長として、上に報告するべき案件だ…。しかし、っ…!君の、君の願いであれば、黙っていよう…」
ただし、と付け加える。
「部屋からは出ないように。念のため、扉の前に騎士をつけさせてもらう」
そう言うと、レオンはしかつめらしい表情で部屋を後にした。
ルドはアギトの腕の中でホッと息を吐く。
そういえば、抱き込まれたままだった。
レオンにずっとこの状態を見られていたと気づき、今さら恥ずかしくなる。
もぞもぞと動くがアギトの腕はびくともしない。
「アギト…離して」
「何故?」
「もうっ!大体なんでここに居るのっ!?赤の王国にはついてこない約束でしょ!王様に呪術師がいるってバレたらどうするの!」
「…どうにかなる。それより、嬉しくないのか?せっかく会えたのに」
ぶすっとそっぽを向いて、アギトがポツリとつぶやいた。
(え?バカ?バカなの!?この状況で、オレが会えてうれしいって言うと思っていたの!!?)
しかし、ルドも恋愛バカだった。
(かっ…かわいいっ!!)
ルドはアギトに勢いよく抱き着く。
「あっ、会いたかった…」
アギトはそれを優しく受け止め、二人のくちびるが自然に重なる。




