幕間
柔らかい風が窓から入ると、
ふわりと窓辺のカーテンが揺れる。
窓辺に置かれたソファから美しく整えられた中庭が見えた。
魔王城に似つかわしくない優しく流れる時間
アギトは表情を緩め、隣で蹲って眠っているルドの頭を撫でた。
赤の王国での失敗
青の王国での救出劇
そして――
白の王国で魔王との対峙
ルドは酷く消耗しているようだった。心も体も――
(気の毒に…まだ15、6の少年だろうに)
理不尽に世界を背負わされ、一人で立とうとしている。
――哀れで、健気で、可愛そうな子供
アギトはおそらく、こんな子供が楽になる方法を知っている。
しかし、それはルドの輝きを失ってしまう可能性もある。
廊下に人の気配がして、アギトは無意識に右手に力を込めた。
「我だ。今更お前たちをどうこうするつもりはない。右手を下げよ」
「…何の用だ」
アギトはぶっきらぼうに問いかけた。
「ソレを我が元で保護してやろうか。」
「こいつは俺が守る。」
「しかし、守り切れておらぬだろう。丁重に扱うと約束しよう。」
「断る」
「呪術師のような者の側では、いずれ壊れるぞ。せめて光の者に預けよ。」
光の者、とは金の王国のアレクシスのことだろう。
アギトの眉間の皺が一気に険しくなる。
「せめて…その身体を浸食している魔の者との契約は破棄すべき、と思うがな」
「余計な世話だ。呪術で防いでいれば問題ない。」
「四六時中、側にいて、か?非効率極まりない。お主、そんな男だったか?」
「お前の知る呪術師は先代だ。俺はお前の知る男ではない」
「記憶は継ぐ、精霊と共に。我ら長寿種と同じく、お前たち呪術師は永遠に近い時を生きる。我らにとって、お前は黒曜の呪術師。それ以上でもそれ以下でもない。」
ふう、と白の魔王ダリウスは息を吐いた。子供の姿ではあるが、妙に威厳がある。
「知己の助言に耳を傾けられぬほど、傾倒しておるとはな…」
「お前が俺の友人であったとこなどない」
「…仕方ない。最大限の譲歩をしてやる」とダリウスは、説得を諦める。
「明日、お前たちに解呪の玉をやる。それで各国の魅了を解呪してこい。」
アギトは、目を見開いた。記憶の中のダリウスは人間のことなど羽虫のように思っている。人間の為に膨大な魔力を要する解呪の玉を授けてくれる理由はなんだと訝る。
「そちらの利点は?」
「聖女の野放しにしておくわけにはいかん。勢力を削ぎたいが、我はここを動くわけにはいかぬ」
「いいだろう」
アギトはダリウスを見向きもせず、ルドの髪を撫でながら答えた。
ダリウスは呆れたように息を吐いて、踵を返した。




