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悪役令嬢、断罪されたので男になりました!?   作者: 雨水卯月


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1-2.悪役令嬢、男になる

一体感。大広間はかつてない一体感に包まれる。


男?なんで?と。


悪魔だけが、のろのろと面倒そうに口を開く。


『対価は?』

「十年分のわたくしの魔力を差し出しましょう」

『……ふむ、些か軽き申し出よ。されど、汝の魂より滲む色……この銀は、凡百の魔力にはあらず。よかろう。契約は成った。』


その言葉とともに、魔法陣が白く灼けるような光を放った。広間中の空気が震え、耳を劈く低い唸りが響き渡る。バエルはゆるやかに手を伸ばし、指先でルドヴィカの胸に触れる。刹那、焼けつくような痛みが全身を貫いた。


「……っ!」

「ルドヴィカ!!待て、悪魔!」


ルドヴィカの口から、声にならない悲鳴が漏れる。何故かアレクシスが叫んだ。アレクシスの静止もむなしく、ルドヴィカのその胸元から銀色の魔力が抜き取られ、渦を巻きながらバエルの掌に収束する。


『ほう……美しき魔力の塊よ。まるで星の欠片を握るが如し。これぞ、王たる我が欲した宝玉に他ならぬ。』


銀色の魔力が完全に抜けきると、ルドヴィカの意識はふっと遠のき、身体が人形のように力を失う。バエルはその細い体を抱きとめ、くつくつと嗤った。


『受け取った。これより汝は、男として生を歩む者なり。……久方ぶりに愉快な取引であった』


その声を最後に、バエルの影は淡い黒煙と共に溶けるように消えた。


ルドヴィカの身体は、銀色の風に包まれながらゆっくりと宙に浮かび、形を変えていく。白い指先は節くれだち、首は太く、喉仏が浮かび、頬の線は引き締まっていく。低く響く息が胸から漏れたとき、そこにいたのはもう“令嬢”ではなかった。


「……ん…」


ルドヴィカが床にうずくまったまま、呻いた。ドレスは破れ、胸と足が露出している。何故か、アレクシスが目をそらしながら、マントを掛けた。ルドヴィカは肩に掛けられたマントで体を隠す。


「お前は何をっ…」

「これで、妾にすらなれませんね」


ルドヴィカは妖艶に微笑んだ。なぜかアレクシスが頬を染める。


(は…?何その反応)


けれど、これで無事、“王太子の妾”にもならず、“聖女に敵対する悪役令嬢”でもなくなった。男のルドヴィカはこの世界で用無し。退場可能となる。



退場可能――となるはずだった。


「う、うそっ!……ルド様!?」


アレクシスの背後で聖女が大きな声で叫ぶ。皆が一斉にそちらを振り向く。アレクシスが咎めるような目で聖女を見たが、聖女はアレクシスの視線に気づきもせず、男性となったルドヴィカを一心に見つめていた。熱っぽい、焦がれたような視線で。


(え…?ルド様って?聖女はこの姿を知っている…?)


ルドヴィカの愛称は“ルルー”だ。ルド、と呼ばれたことなど一度もない。ルドヴィカに聖女が放った言葉に言い知れぬ不安が広がる。


(もしかして、もしかすると隠しキャラに私の男ver.があったりなんかしちゃったりして…)


嫌な予感というのは大抵当たるものである。


「そ、そんなルド様ルートが…」


聖女が残念そうにつぶやく。しかし周りの雰囲気に自身の失言に気づき、すぐに立て直す。なかなかに腹黒い。


「ああ…ルドヴィカ様、おいたわしい…」


聖女は涙を浮かべ、玉座の階段を下りる。一段、また一段とゆっくりと近づいてくる。ルドヴィカは性転換の余韻(タイムシフト)でまだ動けずにいた。聖女の意図が分からず、じり、と後ずさる。しかし、思うように力が入らない。小鹿のようにプルプルと震える腕を叱咤する。


(どういうつもり…?)


その間にも、聖女エリスは悲しそうな顔で近づき、ルドヴィカの頬を手で包む。その姿たるや、まさに聖女。自らを卑下した女を気遣い、悪魔を召喚した者を癒そうとする様に観衆は見惚れた。


「貴方に、癒しを……」


癒しの魔法でルドヴィカの体が癒えていく。動ける――


「そして、“サムターンの風”を贈るわ」


聖女はにこりと微笑み、ルドヴィカにしか聞こえないように、耳元で囁く。同時に底知れない何かが這い上がってくる。ルドヴィカは目を見開いた。菫色の瞳が恐怖に揺れる。今、この場を支配していたのは悪魔召喚の儀式を行ったルドヴィカのはずだった。


「自分のことを悪役だと思っていたのでしょう。」


(それはそうだ。だって私はこの世界の悪役令嬢…)


「そんなだから、足元を掬われるのよ。」


聖女は見たことない醜悪な顔で嗤った。

グラグラとルドヴィカの中の清く正しかった聖女像が崩れる。ゲームの強制力とは別に、微塵も聖女を疑わなかった自分を殴りたい。ルドヴィカは動けるようになった体で、聖女を押しのける。転移魔法を展開する。


「転移魔法だ!逃がすな!!」


ルドヴィカを無数の刃が襲う。王宮では魔法は使用不可能だ。貴族は皆、王宮に出入りする年頃に、王宮内で魔法抑制の誓約をさせられる。王宮内で魔法が使えるのは直系の王族と聖女のみ。婚約者であるルドヴィカも例外ではなかった。しかし魔法を使えない者には誓約は無効、と誓約を免れたのだ。ルドヴィカはもう10年近く、魔法が使えない振りをしていた。


刃の一つが背中に届いて、ルドヴィカの銀髪を切り裂く。しかし、転移魔法が完成し、その瞬間ルドヴィカの姿がかき消えた。



後にはルドヴィカの銀糸の髪だけが残った。

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