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悪役令嬢、断罪されたので男になりました!?   作者: 雨水卯月


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28/62

11ー1.悪役令嬢、魔王と会う

白の王国は空に浮かぶ浮遊都市だ。

王国、と言ってはいるが、面積は5つの国の中で最も小さい。しかし、かつての白の王国は天から地上を統べる神の国、とも言われたほど強大な勢力を誇った。


いつしか魔族の数が減り、人間の王国が築かれ、白の王国は5国の一つとなった。


そして、白の王国と唯一国交があるのが、神聖国である。

神聖国の転移門(ゲート)の一つが白の王国への入口なのだ。


ひっく、としゃくりを上げ、ルドがアギトを見上げた。


「なんか…恥ずっ」


ルドは涙を乱暴に拭いて、鼻をすすった。アギトの視線が気のせいじゃないと分かるくらい甘い。ルドは慌てて目を逸らす。


「ルド、さっきのが答えだと思っていいか?」

「え?」


あ!自分、鈍い!と定評のあるルドです。ちゃんと言ってもらわないと分からないです!という顔をする。


「…手を出してもいいという事だな」


アギトが半眼になって、衝撃的な言葉を紡ぐ。


「!!!」


(これは…!貞操の危機!)


ルドは目を白黒させて、どう答えるべきか悩んだ。さっきまで別れる気でいたのに、我ながら呑気なものだ。


「あの…初めてなので、お手柔らかに…」


ルドがなんとか絞り出すと、アギトは「狙ってるのか」とよく分からないことをつぶやいた。



***


火がぱちりと弾ける音だけが、しんとした夜に響く。

転移門(ゲート)を背に、ルドは膝を抱えて、指先で小枝をくるくる回す。

昼間の告白が気恥ずかしく、間の取り方を忘れてしまったように沈黙が落ちる。二人はぎこちなく距離を取り、火の前に座っていた。


「ルド。」


アギトが低く呟くと、ルドはぱっと顔を上げた。しばらく沈黙が落ちる。


「……毎回、死にそうな顔をさせるのは忍びないから、言っておくが。」


(何の話?)


ルドは内心で首を傾げた。


「呪術の代償は呪術師(まじないし)にとって、門外不出の秘匿事項だ。」

「うん……?」

「気にするなと言っても、俺が呪術を使う度、お前は気にするだろう?」


焚き火の赤い光がアギトの横顔を照らし出す。

その瞳の奥には、いつもの冷たい光ではなく、どこか柔らかな影が揺れていた。


「だから知っていてほしい」


不意に真っ直ぐ見つめられて、ルドは耳まで熱くなる。


「俺の呪術の代償は、この瞳だ」

「え?」

「人から忌避されるこの瞳の色になることが、代償になっている」

「……それだけなの?」


ルドは思わず息を呑んだ。

命を削るとか、血を捧げるとか、もっと恐ろしいものを想像していたから。


「俺の使役する精霊は黒曜という。黒曜は黒いものが好きでな。」

「うん…」

「使いすぎると、爪も肌も黒くなる」

「使いすぎたことがあるの?」

「子供の頃、な」


焚き火の音に混じって、穏やかな空気が流れた。アギトが初めて自分のことを語ってくれている。それがルドには嬉しかった。


「俺は――サムターンの呪いにかかって、売られた子供だった」


ルドの頭の中に、短い言葉とともに映像が流れ込む。

――冷たい洞穴、背を向ける両親、砂金を受け取る手。

――知らない老人の黒い瞳と、灰に変わるその腕。


***


「それから、ほどなくして黒曜と契約した。」

「お師匠さんはなんで灰になったの?」

「呪術師のほとんどは死骸が残らない。身体も魂も精霊に喰われる。」


「呪術師は美味いらしいぞ」とアギトが小さく笑う。ルドは眉をしかめた。


「アギトも?」

「さあな、生きている間、行使した呪術の量によるが…」

「そんな…」

「死んだ後のことだ。気にすることはない。」

「でも…」

「他の人間だって同じだ。土に還るのとそう違いはない」


アギトの声音は驚くほど淡々としていた。

ルドの胸の奥で、きゅっと何かが縮む。


(そんなふうに、簡単に言わないでよ…)


ぷいっと顔をそむけるルドを見て、アギトが小さく笑う。


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