10-4.悪役令嬢、救出劇に身を投じる
神聖国の首都までセシルを送り届けると、短い別れの挨拶を交わした。
「僕は神聖国で、聖女の力を調べます。ルド様、くれぐれも無理をせず。お気をつけて…」
「ええ、ありがとうございます。」
セシルが神殿の奥へと消えていく。
ルドは小さく手を振り返し、深く息をついた。
――そして、アギトと二人きりになると、途端に気まずい空気が流れた。
「……あの、アギト」
声をかけると、アギトは振り返らずに歩を進める。
言わなきゃ。ここで言わなきゃ。
「今まで……ありがとう。」
ようやく絞り出した声に、アギトは反応しない。
けれど、静かな気配が「聞いている」と伝えてくる。
「オレ、世間知らずで、たぶん知らない内にいっぱい迷惑かけたよね」
アギトの漆黒の瞳が、振り返ってルドを映した。
「だから……あんまり考えないで“ついてきて”なんて言って、ごめん。」
本当は――ここで言うつもりだった。
“もういいよ”って。
“あとは一人で大丈夫だから”って。
だけど、唇は震えて、言葉は喉に引っかかった。
「えっと……オレ、ひとりで――」
「ついてこいと言えばいい」
アギトの低い声が、真っ直ぐに割り込んできた。
「だって……!これ以上、迷惑かけられないよ!」
ルドはぶんぶんと首を振る。
視界が揺れて、涙でアギトの顔が滲んだ。
「望みを言え。迷惑とも、わがままとも思わない。」
「っ……!アギトが……すき」
声が震え、言葉が零れる。
ぼたぼたと雫が足元の石畳を濡らした。
「……離れたくない」
アギトが一歩近づく。
「一緒に、居たい」
また一歩。
「でも……怖いんだよ」
もう距離はゼロだった。
「アギトが……死んじゃったら、どうしようって!」
次の瞬間、アギトの腕がルドを強く抱きしめた。
「死なない。」
短く、強い声。
その声が、震えるルドの不安を丸ごと受け止める。
人気のない郊外の転移門を背に、ルドはアギトに縋りつき、嗚咽を堪えきれず泣いた。
太陽が高く昇る。
その光を遮るように、二人に大きな影が差した。
――神聖国の真上にそびえる、白の王国の影だった。




