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悪役令嬢、断罪されたので男になりました!?   作者: 雨水卯月


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26/62

10-3.悪役令嬢、救出劇に身を投じる

ルドはセシルの胸元に耳を寄せ、上下する呼吸を確かめてから、ようやく長い息を吐いた。


ここは神聖国の外れにある、うらぶれた小神殿。崩れかけた石壁から冷気が染み込み、埃っぽい匂いが鼻を刺す。ルドはセシルを慎重に床へ横たえ、近くで焚き木に火を点けた。ぱちぱちと燃える音だけが、静まり返った空間に響く。


アギトは入口付近に立ち、周囲を警戒しながらも、ルドを黙って見守っていた。


「罠だった…ごめんなさい。」


震える声で言うと、アギトは視線を逸らさずに短く答えた。


「いい。お前が無事なら、それでいい」


その穏やかな声に、ルドの胸が詰まる。


(今夜、アギトはどれだけの代償を払ったんだろう……)


呪術は力を使えば使うほど“何か”を失う。

寿命か、記憶か、大切な物か――それとも体の一部か。


ルドは焚き火の炎を見つめながら、問いかけることもできずに唇を噛んだ。


「…これからどう動く?」


アギトがぽつりと呟く。

ルドは顔を上げた。


「白の王国へ行く。でも、セシル様には神聖国で療養してもらう。」


情けない声が神殿に落ち、焚き火がぱちりと弾けた。


何の覚悟もなかった自分に腹が立つ。

あの聖女と対峙するには、ルドには圧倒的に覚悟が足らなかった。


ぽつりと地面に涙が落ちる。

今だけはアギトに泣いていることを悟られたくなかった。


***


どんなに気分が落ち込んでいても、朝は来る――


深い緑の中、霧が立ち込めた朝靄の中、一筋の光が差し込む。

太陽の光は霧を一気に晴らせ、辺りを照らした。


「ん…」


短い呻きと共に、セシルが目を覚ました。ゆっくりと瞼を開け、二度、三度と瞬きを繰り返すと、がばりと起き上がった。


「あ!…ここは?」

「神聖国です。」


一晩中起きていたルドは弱弱しい笑顔で答えた。


「ルド様、すみません。ご迷惑をお掛けしてしいました…」


まるで懺悔するかの如く、セシルは沈痛な面持ちで謝った。ルドは首を振る。


「いいえ、元はと言えばオレが巻き込んだのが原因です。あなたを巻き込むべきじゃなかった…」

「いいえ…いいえ!そんな!!」


セシルは縋りつくように、否定をした。


「白の王国へは、オレひとりで行きます。」


ルドの決意は揺るぎなく、セシルは伸ばしかけた手を力なく下ろした。


***


朝食を取りながら、セシルは重々しく口を開いた。


「青の王国はいつも通りでした。宰相閣下も魅了されている様子はなかったです。」


「節穴」と、アギトが言った。


「アギトっ!黙ってて。」


ルドは静かな怒りをたたえ、アギトを(たしな)めた。


「その通りです。思えば、あの時にはもう青の王国の者は皆、魅了(テンプテーション)にかかっていたのでしょう。」


セシルはアギトの言葉を首肯し、続けた。


「何かおかしい、と気づいた時には囲まれていました。神聖力を使う間もなく、捕えられ…後はご存じの通り…」


セシルは一口お茶を飲むと、もう一度「お二人を危険な目にあわせ、申し訳ない」と謝罪をした。



冷たい風が吹いて、セシルの緑がかった金髪を揺らした。

ゲーム内ではただの緑に見えた髪色が、光の加減で緑にも金色にも見える。

不思議な色だな、とルドはその髪色を見つめながら思った。



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