10-2.悪役令嬢、救出劇に身を投じる
翌朝、ルドはアギトと一言も交わさず、宿を後にした。
「ルド…一人で行くなと言った」
「……いい、ついてくるな」
アギトは渋々ながらも後ろをついてきた。
ルドの機嫌は未だ直らず、むっつりと黙ったまま、重い空気を醸し出していた。
赤の王国を出国し、神聖国の転移門を経由すると、その日の内に青の王国の国境付近に辿り着いた。街道は閉鎖され、物々しい雰囲気が漂う。
青の王国は、最北に位置する為、他国と異なり、冬が厳しく、夏も涼しい。金の王国の貴族などは夏の避暑地として利用していた。そんな観光大国が、街道を封鎖している。
(何これ…戦争でも始めるつもり?)
一変した青の王国の様子に言い知れぬ不安が広がる。二人は日が落ちるまで待ち、夜陰に紛れ、青の王国へ侵入した。
***
王城の地下牢への侵入は慎重に行われた。アギトの呪術により気配を消し、ルドは鍵のかかった扉を目の前に止まった。
「セシル様!」
地下牢の奥深くで、セシルが鎖につながれ、頭を下げたまま牢に座っていた。
ルドは駆け寄ろうとするが、アギトが制止する。
「まずは兵士を眠らせる。少し待っていろ」
「……わかった」
アギトの呪術で扉の前の兵士を眠らせ、影に紛れ牢内へと忍び込む。
ルドはセシルの姿を見つけ、声を上げる。
「セシル様!」
「…ルドさ、ま…!…にげ…、わ、なです…」
「大丈夫!?」
セシルは何事かつぶやき、首を振った、そしてそのまま気を失う。ルドが駆け寄ったその瞬間、背後から冷たい声が響く。
「ふん…聖女殿の言った通り、か。」
振り返ると、青の王国の宰相、ユリウス・アーデルハイドが立っていた。青の髪と眼鏡のツンデレ枠は噂に違わぬ冷たい目をしていた。
鋭い視線は最初から敵意に満ち、容赦はない。
「まんまと罠に嵌ったな」
「罠…!?」
青の王国は魔導大国でもある。ユリウス自身も青の王国有数の魔導士だ。ルドが青の王国で魔法を徹底的に使わなかったのは、隠密行動をするためだった。
転移などの大掛かりな魔法は魔導士ならば、一発で感知する。王城には転移出来ないよう魔法の制限や、魔力感応式の時限爆弾のような物がゴロゴロしている。金の王国の王城でもそうなのだ。魔道大国の青の王国であれば、況やもっとすごい装置がたんまりあるはず。
しかし、待ち伏せは想定外だった。
――否、アギトの様子を見るに、彼は想定内だったのだろう。自分だけが、考え足らずだったのだ。
(反省は後!今は集中!)
ルドは魔法で鎖からセシルを開放する。キッとユリウスを睨むと、剣を抜き構えた。アギトもタガーを抜き、呪術で防御態勢を整える。見つかってしまったのだから、魔法を制限する必要もない。
ユリウスは冷笑する。
「すでに包囲されている。どう逃げる?」
「…あんた、悔しくないのか?」
苦し紛れの言葉だった。しかし、ピクとユリウスの眉が動く。
「たかだが15,6の小娘に良いように操られて…!悔しくないのか!」
「小娘とは聖女殿のことか…?」
ユリウスは「馬鹿馬鹿しい」と、断じたが、その動きが止まる。青い瞳が、ぐるりと回る。
(…何?もしかして揺さぶりが効いている?)
「聖女はこの国を乗っ取ろうとしている。お前は言いなりになって、それでいいのか?」
ルドは言葉を続けた。
(ユリウスは宰相として優秀だったはず。こんな状態の国を良しとするはずがない…!)
ルドの目の前で、ユリウスの身体が硬直する。すると、ユリウスの身体から光が漏れ、人形のように意思とは別の行動を示す。
「この男、聖女に操られているようだな…」
アギトの声が後ろから響く。振り返ろうとすると、ユリウスがギギギと首を回し、こちらへ近づく。
(ひっ!!ひぇえ!!こ、怖っ!!)
思い入れがないキャラではあるが、こんな人形みたいに操られているとさすがに同情してしまう。でもそれより怖いが勝つ!一刻も早く逃げたい!
「一旦、聖女からの干渉を切る!今のうちに逃げるぞ!」
アギトが声を掛けると、ユリウスの身体は糸が切れたように床に倒れこんだ。
ルドはセシルを抱え、地下牢の隙間から外へ逃れる。大勢の兵士が捕縛を試みるが、ルドの魔法で階段でドミノ倒しになった。ルド達は、その上を軽やかに魔法で飛び逃げる。
王城から高く飛びあがり、月を背にした。
夜風が頬を撫でる。もはや隠匿する必要もない。
――ルドは一気に神聖国まで転移した。




