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悪役令嬢、断罪されたので男になりました!?   作者: 雨水卯月


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23/62

9-4.悪役令嬢、剣術大会で無双する

「はぁ…」


ルドは宿の窓から、祭りの熱狂を見下ろし、息を吐いた。


「はぁ…」

「いつまでそうしている」


アギトが食事を持って、部屋に入ってきた。盆にのったパンとスープを受け取りながら、ルドは落ち込む自分と反対に、アギトがどこか清々しい顔をしていることに腹が立った。


「なんで、アギトは平気そうなの?」


思わず、ムッとして非難するように言ってしまう。


(ああ、いけない。こんなの八つ当たりじゃないか…)


「ルドの周りに虫が寄り付かない方がいいに決まっている」

「世界の平和より?」

「そう怒るな。きちんと仕事はした」


アギトは落ち着いた口調で、集めてきた情報を淡々と披露した。


「まず、騎士団長のレオン・ヴァレンタインに婚約者や恋人の影は無し」

「レオン・ヴァレンタインは民衆に人気で、王家からの信頼も厚い。ただ、本人に野心はなさそうだ」

「赤の王家は、レオン・ヴァレンタインを使って聖女の囲い込みを考えている」


ルドは千切ったパンを掴んだまま、目を丸くして聞き入った。

「あと、これは未確認情報だが…」とアギトが続ける。


「金の王国の第一王子と聖女は婚約していない、らしいぞ」

「えっ!?」


驚きのあまり、ルドはお盆にパンを落としてしまった。


「どういうこと!?」

「さてな」


アギトは興味をなくしたように肘をつき、ルドの落としたパンを拾って口元に持ってくる。


「え…?」


ルドが戸惑っていると、アギトの指先が軽くくちびるをつつく。目で「開けろ」と合図され、仕方なく口を開く。


「あーん」


頬を赤くしてパンを食べるルドを見て、アギトは満足げに微笑んだ。


「半日でそんだけの情報を集められるなんて、アギトってすごいね」

「呪術を使えば、大したことはない」


ルドは感心する。呪術の力で、これほど正確に情報を集められるとは思わなかった。恐ろしくてどうやっているのかは聞けない


――まるで開けてはいけないパンドラの箱のようだ。



「ご褒美は?」


テーブルに手をのせて顎をついたアギトが、にやりと笑う。


「ご、ご褒美!?」


突然の要求に、ルドは思わず声を裏返した。アギトはルドをじっと見つめる。その瞳は、夜闇に光る宝石のように艶めいていて、息が詰まる。


(…なんか、ちょっと近い!)


そんな要求をされるとは思っていなかったルドは動揺する。言われてみれば、最高クラスの呪術師を半日タダ働きさせてしまった。


「そうだね、報酬を考えない、と」


うーん、と唸るルドに、アギトはつまらなそうな目を向ける。


「そういうことではない」

「どういうこと?」


「鈍い」とアギトがルドの頬を抓る。抓って、優しく撫でる。撫でた指が唇をなぞり――


(ご褒美って、そういうこと…///)


「…あの、目をつぶってください」


ルドが顔を真っ赤にしながら、アギトに言った。アギトはルドのくちびるを撫でていた指を下ろし、面白そうに笑った。ルドの声に従い、アギトは目を閉じる。ためらいつつも、ルドはアギトの瞼にそっとキスを落とす。


口、はまだ付き合っていないのに早すぎる。額では足りないと言われそうだし、頬にするのは恥ずかしすぎる。迷った末の、瞼、だった。


「それだけ?」


アギトが目を開け、ゆっくりと息を吐いた。指先がルドの頬をなぞる。その仕草だけで、心臓が跳ねる。


「ど、どうしたらいい?」

ルドの瞳が揺れる。


アギトは微笑みながら、ゆっくりとルドにキスを落とす。まずは瞳に――思わず目を瞑ると、それが瞼に落とされる。そして、額に、頬に、首、鎖骨――


ルドの心臓は跳ね上がり、必死に耐える。その間もアギトからのキスの雨は降り続いた。


ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ…


「ごほうび、おわりっ!…もう終わり!」


ルドがアギトの頭を押しのけ、どうにか離れる。止めないとずっと続けていそうだったのが怖い。


「残念。最後までしたかったのに」


(え…こわい。最後までってなに…)


どくん、と心臓が音を立てた。さすが妖艶担当、流し目が色っぽいデスネ!とルドは心の中で軽口が出たが、自らの貞操を守るため沈黙を貫いた。


すると、アギトの表情がぴくりと動く。祭りの熱気とは対照的に、ぞわりと背中に何かが走る。


アギトが視線を窓に向ける。


「……あのエルフ、捕まったようだぞ」


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