9―1.悪役令嬢、剣術大会で無双する
赤の王国に着いた瞬間、首都は昼間からお祭り騒ぎだった。
旗が風にはためき、屋台からは肉を焼く匂いが漂い、広場には人が溢れている。
「なんだろう、この人だかり……」
周囲から聞こえてきた言葉で理由がわかった。
――今日は年に一度の剣術大会だ。
しかも、一般部門の優勝者は、王国騎士レオン・ヴァレンタインと手合わせできる特典付きだ。会場に貼られた大きな告知には、堂々と彼の肖像画まで描かれている。
(……これ、イベントじゃない?)
脳裏にゲームの記憶がよぎる。もしそうなら、ここでレオンと接触する可能性が高い。このチャンスを逃すわけにはいかない、と胸を高鳴らせた瞬間
――広場の奥で大歓声が起きた。
「――聖女様だ!」
観客の誰かの叫びに、ルドの心臓が跳ねた。
「……え」
視線を向けた先、群衆の中に白いドレスが揺れていた。
明るい茶色の髪、聖光をまとったような微笑。
その姿を見た瞬間、背筋に冷たいものが走る。
(なんでここに……!?)
まさか赤の王国まで聖女が出張ってくるとは思わなかった。
一度の外遊で一気に複数の国を回る可能性を、完全に見落としていた。
(ど、どどどどどうしよう!まずい、まずいまずい――!!)
「聖女だな」
「……ソウデスネ」
横で聖女を見ているアギトの視線から、ルドは思わず目を逸らした。
「この国は飛ばして次に行こう」
「マダワカラナイジャナイ……」
隣のアギトが低く言った。
聖女を直視する瞳が冴え凍るようだった。ルドはひやりとしながら返事をし、ちらりと横目でアギトを見る。彼の表情は影になっていた。
聖女がいる危険回避というより、男に会わせたくないと考えているのでは、と勘繰ってしまう。
(……う、説得、できるかな?)
「ちなみにレオン・ヴァレンタインの性格は?」
「まっすぐで純真な人デス」
「…もう遅いんじゃないか?」
アギトの低い声に、ルドは即答した。
「ゴモットモ!」
だけど、諦めたらそこで試合終了ですよ、とZ世代を置き去りにして、脳裏で安西先生が囁く。
「先っちょだけ、ちょっとだけだから!」と、ルドはアギトを必死で説得し、なんとか剣術大会への登録を済ませた。
アギトは微妙な顔をしていた。
なぜだろう。




