8-3.悪役令嬢、バグとなる
意気揚々と封筒と便箋を買い込み、カフェで手紙、もとい報告書を書き始めた。隣でアギトが覗き込んでいるが、特に読まれて不都合はないので、放っておく。
----
拝啓 お父様へ
・当該の皮膚病は治療法を発見し、完治。安心されたし
・黒土に死海あり、確認されたし
・現在、黒土の呪術師が同行中。安全は確保済
・緑の神聖国に入国済み。引き続き神聖国にて情報収集予定
以上、報告まで。
ルド
----
「それは何だ?」
アギトが手紙を盗み見て、眉をしかめた。
「え?お父様への手紙だけど…?」
「お前の家族は仲が悪いのか?」
「普通かな?」
「その手紙、本当にそのまま出すのか?」
「うん。何か変?」
「親しみが足りない」と、アギトは顔を顰めた。
「いいよ。いろんな人を経由するし、必要最低限の方が漏洩した時のリスクが少ない。あんまりダラダラ書くのも苦手だし。」
ルドはいつもの明るい表情のまま、応えた。
「意外だ。きちんと考えているのだな」
「えー!何それ、酷い。」
ルドは笑いながら、抗議した。
「ちゃんと考えてるよ。家族に迷惑かけたくないから、手紙も直接は出さない。経由するルートをいくつか決めてあるんだ」
「そうか、俺が心配することはなかったな」
アギトはルドの頭を軽く撫でた。
そうか、黒土で家族へ手紙を書くと話をした時、眉を顰められたのは、心配されていたのか。わっかりにくい!とルドは微かに笑った。
(でも、嬉しい…)
くすぐったい気持ちにルドはほんのりと頬を染めた。
***
わぁ!と民衆から歓声が上がる。
白い鳩がパタパタと飛び去り、青い空と白い塔とのコントラストを引き立てる。その中心で聖女が手を振っている。
「な、なんで…」
聖女が緑の神聖国に、セシルの隣にいる。
ルドは絶望と共にその光景を見た。
確か“Colors”では、同時攻略は不可能だったはず。最初に相手を選ぶと、自動的にその国の聖女見習いから始まる。そして攻略対象一人と向き合い、愛を深めていくゲームだ。ルドは薄れつつある記憶を掘り起こす。
(確かアギトを開放する前に、もう一人隠しキャラが居たはず…一回しかやってないから記憶が…)
その後、推しとなったアギトルートは何度もやったのに、全開放前の隠しキャラが思い出せない。
(聖女…そういえば、断罪の時になんか言ってたな…たしか、「ルド様ルート」…そうだ!!)
***
ルドは宿に帰って、自分の体をまじまじと見た。
銀の髪、菫色の瞳、カリスマの塊のような色合いと顔出ち。公爵家直系という立場。
何か思い出せそうな…何も思い出せなさそうな…
うーん、うーん、と夕食も気がそぞろになった。
ふと、深夜に記憶の蓋が開く。
(思い出した!!)
銀(隠しルート):ルド・フォン・ルクレツィア
金の王国、悪役令嬢ルドヴィカの存在しないif世界の公爵令息。銀の髪、菫色の瞳を持ち、そのカリスマ性でアレクシスに並び立つ金の国の公爵令息。
攻略難易度★★★★
(オレのこの姿、隠しキャラまんまじゃん!)
性格は兎も角として、ルドはif世界の“ルド・フォン・ルクレツィア“そのものだった。ルドルートは唯一アレクシスと天秤にかけ、三角関係を楽しむことも出来るルートだ。
「とすると…聖女はルドルート狙いだった可能性が濃いな…。道理で殺されそうになったわけだ…」
呪いをかけられた理由がやっと理解出来て、誰に言うともなく、ひとりごちる。
隣で眠っているアギトが、もぞもぞと動いた。
「どうした?」
「ごめん、起こした?」
「いい。昼間の聖女の歓迎パレードのせいか?」
アギトは寝転がったまま、ルドの前髪を優しく撫でる。
「うん…聖女は金の王国のアレクシス殿下を狙ってたはずなんだけど。神聖国にも来るなんて…」
「王族とその婚約者の表敬訪問ならば、よくあることだろう。考えすぎじゃないか?」
「そうかなぁ?あの聖女がそんな無駄なことするかな?」
とは言え、聖女のことをルドは知らない。性格も、思考も、能力も未知数だ。
「とりあえず、もう一度エヴァンス神官長に会わなきゃ」
言うと、アギトが眉を顰めた。
露骨に嫌な顔をするアギトを見て、ルドは笑ってしまう。すると。前髪を引っ張られ、ちゅっ、と頬にキスをされた。
ルドは驚き、頬を手で覆った。
キスされた頬がほんのり熱を持っていた。




