6-2.悪役令嬢、告白される
「オレ、売れるかなぁ?」
「は?」
歩きながら、ぽつりとつぶやいたルドの言葉に、アギトがこれ以上ないくらい怖い顔になる。次にアギトから出たのは低く怒気を湛えた声だった。
「“売れる”とは、どういうことだ?」
「えっと、薬として、価値ある?ほら、この病の病痕は鎮静効果があるって言ってたじゃん。せめて少しくらいアギトに恩返しをしたいんだけど。」
「お前を売る気はない。」
「でも!」
「勘弁してくれ…」
はあ、と疲れた様子でルドの腕を掴む。
「恩返しなど、必要ない。俺が好きでやったことだ。それに、ルドは軽症だ。そもそも薬としての価値はない。」
(珍しく、アギトがよくしゃべる。あ、オレのせいか…)
「え、そうなの?」
ルドは腕を捲って、まじまじと見つめた。
確かに、最初に見せてもらったアギトの病痕にくらべて、痕という程ではない。このままつるつるした元の肌に戻るのだろうか。
「ご、ごめん。何か一個くらい役に立てたらって思っただけで、オレ役立たずだな…。」
ルドは一人で色々出来る気でいた。旅だって、初めてではなかったし、魔法も、語学も、医学も、そこそこ習得している。一人だって生きていけると思いあがっていた。
現実はこんなにも役に立たない。
「そんなに俺の役に立ちたいか?」
「うん」
「なら少し、我慢していろ」
アギトはルドの後頭部に手を添える。後頭部を押さえられ、ルドは動けず固まった。そのまま、口づけられる。
「んっ……」
驚き、硬直、思考停止
「…っ……んっ………んんん」
(長い!長い…ながーい!!)
あまりの長さに、ルドはどんっとアギトの胸を叩く。ようやくアギトが唇を離してくれた。
「なっ…ごほっ…なに」
「口だけでは信用されないだろうから。お前が好きだよ」
「はあ?…お、オレ男なんだけど」
「知っている。前にも言っていたが、それは重要か?」
「じ、重要だよ!結婚とか、こ、子どもとか…色々どうすんの!?」
ふっとアギトが笑う。ムッとすると、よしよしと頭を撫でる。ルドはその手を怒りのまま振り払った。アギトの笑いは収まらない。
「そんな先のことまで考えてくれるとは、嬉しいな」
「か、からかって…」
と、言って後悔した。アギトの真っ黒の瞳が嘘や冗談ではないと伝えてくる。
「一か月も一緒に居れば、自然と伝わると思ったが、なかなかに鈍いな」
「…っ!に、鈍くな…くもない?」
これでも社交界の空気を読んで渡り歩いてきたんだ!と思ったが、思い出す感情は欲望、嫉妬、羨望、嫌悪、そもそも恋情のような柔らかな感情に出会ったことがないかもしれない。
(そっか…オレにぶいのか)
「あの、返事…ちょっと考えさせて…」
「ああ、考えてくれると嬉しい。」
アギトは本当に嬉しそうに笑った。
(わー…推しの笑顔。尊い)
ちょっと昇天しそうになる。危ない危ない。
せっかく致死率8割の病気から生還したのに。
そこで、ん?と疑問が浮かび上がる。
「あれ?サムターンの呪いって、もしかして本当に呪いなの?」
そういえば、死海に着いた時、そんな話をしたような。
あの時は、痛みと死霊の恐ろしさでいっぱいいっぱいだったが
余裕が出来た今、はたと気づく。
「“サムターンの風”は千年前の戦争で使われた呪いだ。それも、もう古い世代の呪術師しか知らないだろう。」
「でも、治った人もいるのに?呪いって治らないでしょう?」
「大方、知らず知らずの内に媒体に触れていたのだろう。呪いを吸い取る媒体は他にもある」
「ふうん」と、ルドはひとりごちた。そのまま思考の波に落ちていった。
(あの聖女は呪術師?もしくは………。本当にあの女、一体何者?)
聖女エリスの得体のしれない恐ろしさが足元をグラグラとさせる。
ルドの手はいつのまにか震えていた。




