6-1.悪役令嬢、告白される
最後の病痕が剥がれた。
「な、治ったー!!」
ルドは跳ねるように立ち上がった。赤みを帯びた新しい皮膚が、かすかに息をしている。
「よく頑張ったな」
アギトの声は低く、けれど驚くほど柔らかかった。
その大きな手がルドの頭を撫でると、胸の奥で何かがじんと熱くなる。
(……やっぱり、この人……)
「ルド、顔が赤いな。熱か?」
「ち、違う!なんでもない!」
「こっちへ来い」
アギトに抱き込まれる。一か月でアギトとの距離の近さになれたルドでさえ、「近っ」と口に出してしまう程の距離。アギトは何事か唱えると、ルドの体をキラキラと光が覆う。
「え?今の魔法?」
「サムターンの風を跳ね返す術だ。」
「黒土で魔法は使えないはず…、アギトって何者?」
「俺は呪術師だ。……軽蔑するか?」
「軽蔑…?しようにも、呪術師って何か知らないし。」
(ん…?なんかこのやり取り…あ!あああああ!思い出した!!)
その時ルドの脳内に光が灯った。
(そうだ、そうだよ!なんで忘れてたの??)
「アギト・クロエ!?」
「そうだ」
「黒土で一番の呪術師って言われている黒衣のクロエ!?」
「そうだな」
(やっぱり、“Colors”の最後の隠しキャラ!呪術師のアギト・クロエ!)
黒(隠しルート) ― アギト・クロエ
黒土に現れる謎の青年、呪術師。神秘的な黒髪・漆黒の瞳を持つ、大人向け妖艶キャラ。
攻略難易度:★★★★★
ルドは、はあああー…、と深いため息を吐く。
初対面であんなに懐かしいと思った理由が、まさかゲームの攻略対象だったからだなんて。
(そりゃ、推しだったけど…。あんなドラマチックな出会い方しといて…運命とかじゃなく、ただのゲームの記憶かよ…自分史上最高にガッカリだよ!!)
ルドは地面に手をついて、今までの行いを振り返った。
(ってか、恥ずかしい!めちゃくちゃ恥ずかしいぃ……!!てっきり運命的なつながりがあるのかと思っちゃったじゃん!!)
「あ、あの色々ごめん。」
顔を真っ赤にして項垂れるルドを、アギトは怪訝そうに見下ろした。
「オレ、なんか勘違いしてて…アギトとオレが何か…その見えない繋がりみたいなものがあるのかと。ただのぐうぜ…」
「ルドも感じたのか。俺もあの日、何か掻き立てられるように黒土に出た。いつもなら素通りしているような場所をわざわざ通ったのも、何かの導きだったのかもしれん。」
「そ、そうかなぁ…?」
ルドは引き攣った笑いでアギトに答える。まだ恥ずかしい。
「それに呪術師を蔑むでもなく、受け入れてくれた。」
アギトはルドのさらりとした前髪を摘まんで、顔を覗き込む。優しい黒い瞳とかち合って、また赤くなってしまう。
「ルドが嫌でないなら、この先の呪術師の集落へ行こうと思う。そろそろ食料が心もとない。」
「あ!うん、もちろん!そうだよね、任せっきりにしてごめん。」
ルドが持たされた旅の食事や水は早々に尽きた。元々魔法が使えなければ非力な身だ。魔道具も黒土では意味をなさないため、多くをもって来られなかった。路銀も心もとない。
病身とは言え、アギトに甘えすぎていた。ルドはぎゅっとリュックの口を絞るとともに、自分の気をもう一度引き締めた。




