第二幕:桜風はずむ木の下で
正気であれば、きっと惹かれることはなかっただろう。
正気であれば、きっと離れていただろう。
しかし、狂った中で変化とは車窓の景色でしかなかった。
「大丈夫?」
空気が凍てついたようで、息がうまく吸えなかった。
ただ、その声だけが頭の中で響く。波紋が起こって、消えない。
「俺、この時期のここの桜が一番キレイで好きなんだよねぇ」
花びらが頬に触れ、その冷たさでやっと心はここに戻ってきた。
改めて見ると、眼の前の人物は桜の光に透けていて、消えてしまいそうで、どこか目が離せなかった。
「でも、みんな忙しくてさ。誰もこっちを見やしない」
そう言って空を見上げる少年はどこか寂しげだった。
「立てるかい?」
「あ、はい」
彼は腕をたぐり、僕を立たせた。
「ありがとうございます」
「またね、気をつけなよ」
彼は飄々と反転し、ゆっくりと桜の間を抜けていった。
ハッとしてカバンを拾うと、カバンは所々白に染められていた。
それを払った僕の足取りは軽かった。
____
「これにて紫桜高校入学式を終了いたします。気をつけ、礼」
式典は終わり、新入生はクラスへ案内された。
「それでは自己紹介をしましょう」
いかにもベテランという風格の担任は優しい声でそう呼びかけた。
「では、1番さんから」
「はい」
特に当たり障りもない自己紹介。
2番、3番と順番は回る。
視線は前に立つ人ではなく、『今後の予定』と書かれた黒板を向いている。それくらい、平坦なのだ。
「では、次5番さん」
「はい」
耳に残った声が再び撫でられた。
「卯木紫苑です。この街の外から来ました」
目の前の世界に”見る”以外のすべてが閉じられ、出られなかった。
「趣味は盆栽、あとは...散歩です!」
一元の思考に追いつけず、独り歩きして絡まった。
「皆さんよろしくおねがいしますね」
こっちを意識して笑ってないのに、顔は熱くなっていた。
また、投稿が一ヶ月も空いてしまった。今度こそは...今度こそは!(絶対ダメなヤツ)




