はじめに
好きな季節はなんだろうか?
このように聞いたときの答えはだいたい春か秋とかえってくる。
夏や冬が好きだと言う人もいるだろう。
だが、私には眩しすぎたり、冷たすぎたりして、どうにも馴染まなかった。
むしろ夏や冬の長期休みの中、”自分はフリーだ”という残酷な現実を突きつけられた覚えしかない。
目の前には桜が一輪咲いている。
まだ一つの枝の中に一輪程度しかいないが、その様子は着々と春に近づいているように感じた。
そんな様子に私はクスリと笑みをこぼす。
春、それは出会いと別れの季節。春に始まり、春に終わる。ロマンチックだとは思わないだろうか?
私は土手に座って、空を見上げた。
「僕、この時期のここの桜が一番キレイで好きなんですよね」
唐突に響いた声の方へと目を向けると、コーヒーを片手に同じように空を見上げている男が目に入った。
その言葉を返すことなく、私は空を見上げ続けた。
今は返すのも億劫なほどに桜に魅入っていたかったからだ。
彼もそれを咎めることはなかった。
空は青と白が混ざり、薄桃色の桜が額縁のように見事なコントラストを生み出していた。
やはり、春も眩しく、冷たいかもしれない。
自分からは見えないが、このとき、きっと私は口元を歪めていただろう。
10年前、救えなかった記憶。
それはずっとつららのように私を、鋭く、無惨に突き刺している。
春を、求めている。まだ、私に別れは来ない。まだ私に、出会いはない。
私は土手を立った。
この桜も、空の青も、決して私のものにはなってくれないから。
過去のユーザーでやっていたものをリメイクしました。
昔よりはうまくできたかな?と今でも試行錯誤しつつ書きました。
これからどうぞよろしくお願い致します。