第95話 【生配信回】特別企画・教えてモンスレさん①
上級吸血鬼退治の冒険を終え、地上に帰ってきてから数日。
複数のレベル2パーティによる第2階層の大規模調査も始まり、入れ替わるように休暇を取っていたおれたちだったが、ある日、丈二によって役所の一室に招集された。
その目的は――。
「さあ始まりました、モンスレチャンネル特別企画、おしえてモンスレさん! 進行のフィリアです。そして、本日の主役、モンスレさんです!」
久々の撮影だからか、フィリアは非常に気合が入っている。おれも頭を動画用に切り替え、カメラに目を向ける。
「どうも、モンスレチャンネルの通称モンスレさんです。今日は迷宮や魔物のことなど、みなさんが疑問に思っていることに答えていきたいと思います。コメントでどしどしご質問ください!」
"おー、始まった"
"モンスレさん見てるー?"
"フィリアさんは今日も可愛いな"
"ふたりってやっぱり付き合ってんの?"
「さっそくのコメントありがとうございます。見えてますよー」
「いつもながら褒めていただけて嬉しいです」
「でもプライベートな質問は――」
「はいっ、実は最近お付き合いを始めまして」
「フィリアさん!」
あっ、とフィリアは口元を押さえた。
「まずかったでしょうか……」
「いや隠すようなことでもないけどさぁ……」
"知ってた"
"知ってた"
"知ってた"
"爆発しろ"
"うっかりフィリアさんも可愛いな"
"モンスレさんハーレムどうするんだ"
"マジショック……あたしのモンスレさんが……"
"ご祝儀"[¥10000]
"末永く爆発しろ"[¥5000]
"というか最近? 今まで手を出してなかったのモンスレさん"
"甲斐性なし!"
「うわ、すごい反応……。あっ、投げ銭ありがとうございます! いやでも、今回の企画の趣旨とは違うので、この話題はここまでってことで……」
「申し訳ありません。わたくしが口を滑らせてしまったばっかりに。浮かれてしまっておりました……」
カメラの向こう側で、丈二がカンペを掲げる。進行しろ、とのこと。
「と、とにかく、企画を進めます。プライベートな件はおいておいて、迷宮や魔物に関する質問をどうぞ」
"しょんぼりフィリアさん可愛い"
"今までで一番苦労したモンスターは?"
"オススメの魔物料理教えて"
"最近なんで迷宮封鎖してたの?"
「さっそく質問来てますね。えーっと、やっぱりまずはこれかな? 迷宮を封鎖してた理由について」
「はい。これは単純に、非常に危険な魔物が出現していたからです。第2階層にいたものが、第1階層にやってきて何人もの冒険者を連れ去ってしまいました。パーティメンバーの行方不明届けを出していた方々もいらっしゃるかと」
"やっぱりあれと関係してたのか"
"うちの仲間もやられたわ。二度と会えないかと思って焦った"
"モンスレさん、その節は助かりました!"[¥20000]
"どんなモンスターだったん?"
"でも噂じゃ、人間に連れ去られたって聞いたけど"
おれが丈二に視線を向けると、カンペで答えてくれる。打ち合わせ通りに、とのこと。異世界や異世界人に関しては、はぐらかす方針だ。
「冒険者のみんなには、すでに第2階層先行調査結果の資料で通達してますけど、吸血鬼が出現していました。とは言っても、みんなが想像するようなドラキュラみたいなものじゃない。人型に近い、血を吸う獣って感じかな」
「はい。しかも、ドリームアイのように幻覚を見せてくるのです。わたくしもやられてしまいましたが、知り合いの声に誘われて連れて行かれるような感じでした。相手が人型の獣だということもあって、目撃者からすれば人に連れ去られたようにも見えるのではないかと」
「しかも血を吸った相手を手下にしていくタイプだったんだ。被害を抑えるために迷宮を封鎖して、複数パーティからの選抜メンバーで、これを退治して被害者を救出したんだ。普通の方法じゃ倒せないやつだから、すっごく大変だったんですよ」
"モンスレさんを苦戦させた、だと……?"
"動画は? ねえ動画はないの?"
"選抜メンバーって、なんかかっこいいじゃん"
"モンスレさんに認められたメンバー……。もしやハーレム?"
「動画は……残念ながら撮れてないんですよ。そんな余裕はなくって……。というわけで、さっきの質問にあった、一番苦労したモンスターはこの吸血鬼かな、と」
「ちなみに選抜メンバーの一部は、後ほどゲストとして登場していただきますので、ご期待くださいませ~」
「あとね、前々からツッコみたかったんだけど、おれ、ハーレム作ってないからね」
"などと虚偽の供述をしており……"
"あれだけ周囲に可愛い子がいてそれはないわ"
"ゲストもどうせ女の子なんでしょ!"
「いやもう、やめてよー! 女の子多いのは偶然だから! おれ、フィリアさん一筋だからっ」
"口調、口調"
"モンスレさん、素が出たな"
"隣で照れてるフィリアさん可愛い"
"生配信でのろけやがって"
「あの……タク――いえ、モンスレさん、進行を……」
「――こほん。失礼。では続けて質問を取り上げていきますね。えっと、オススメの魔物料理に関しては、新しい動画をアップするので、そちらを見てくださいね」
"宣伝は基本か"
"フィリアさん、いま本名言いかけた?"
"質問なんですけど、迷宮内で採れた素材で弾丸作れば、銃でも戦えるようになります?"
「おっ、これはいい質問。みなさん知っての通り、魔物は魔素に保護されてて、有効なのは魔素をまとった武器だけ。つまり、迷宮内で採れた素材で作った武器でないと効き目が薄いわけですね」
「魔物素材で作った剣なら一撃で倒せるエッジラビットも、通常のショットガンだと最低3発は当てないと倒せないなんて話もありましたね」
「じゃあ魔素をまとった弾丸ならどうなるかって言うと、有効です。普通に魔物に効くはずです」
"マジか!"
"だったらイージーモードじゃん"
"業者に依頼かけないと! 誰かいいとこ知らん?"
「でもおれ個人としては、オススメできません」
"ん?"
"流れ変わったな"
"なんでなんで?"
「理由はこれから説明しますね。銃を使うかどうかは、それを聞いた上で判断してください」