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第4話 本当なら大金で売ってもいい情報です

「いらっしゃいませ」


「あれ、君は」


 いい装備を探し回って数軒。やっとまともな店を見つけたと思ったら、店番をしていたのはフィリアだった。役所で登録作業をしてくれた、あの綺麗な銀髪の異世界人だ。


「これは一条様。奇遇ですね」


「えぇとフィリアさん? 君、お役所の職員でしょ? 公務員って、副業禁止じゃなかったっけ?」


 するとフィリアは小首をかしげて、唇に人差し指を立てた。


「では、秘密ですよ?」


「いやいや、おれが秘密にしても普通にバレるって。ここ冒険者よく通るでしょ」


「なんちゃって。実は副業ではなく、ただのお手伝いです。わたくしは、お給料をいただいておりません」


「なんだ、そうなのか」


「もっとも、とある口座に時給分を善意で寄付していただいておりますが」


「いや法の抜け穴、突いてるじゃん」


 フィリアはまた唇に人差し指を立てた。にこりと微笑む。


「はい。秘密ですよ?」


「ははっ。君、意外と冗談が好きなのかな。もっとお淑やかなタイプかと思った」


「はい。母親似とよく言われます。ですが、冗談好きとお淑やかは矛盾しませんよ」


「それは確かに。っと、それは置いておいて、せっかくまた会えたんだし、さっきの話の続きをしてもいいかな?」


「いえ、先ほどはつい浮かれてしまいましたが、勤務中ですのでそれは……」


 言いかけて、フィリアはハッとして一歩引いた。警戒するように両腕で自分の体を抱くように覆う。


「もしや貴方は、わたくし目当てで()けてきていたのですか?」


 不審者を見るような冷たい視線を向けられる。


「いやいや! 偶然だって」


 おれは慌てて首と手を振る。


「いいえ、偶然でこんな(さび)れたお店に来るはずがありません。もっと立派なお店はたくさんあります」


「自分の勤務先を(さび)れたとか言っちゃダメでしょ。他の店には、ろくな装備品が無かったから、良い物を探してるうちに辿り着いたんだよ」


「良い物……? 他のお客様からはろくな物が無いと、よく文句を言われておりますが」


「そりゃあ銃や日本刀なんかと比べれば、見た目は悪いかもしれないけどね」


 展示されているナイフをひとつ手に取る。


「これ、エッジラビットの爪を素材にして作ったナイフでしょ? 他の商品も魔物(モンスター)素材で作ってる。おれは、こういうのが欲しかったんだ」


「ですが、切れ味は日本刀には劣りますし、銃器のほうがずっと強力です」


「でも魔物(モンスター)には、どちらも効果が薄い」


「そうらしいです。あれほどの武器なら、第1階層の魔物(モンスター)なんて一網打尽にできるはずでしょうに……」


異世界(リンガブルーム)の生物はみんな魔素(マナ)で保護されてるからね。無効化するには、同じく魔素(マナ)で保護されてる生物や、向こうの素材で作った武器を使わないといけない」


「初耳です……。異世界(リンガブルーム)でもそのようなこと、聞いたことがありませんでした」


「そりゃそうさ。君たちはなにもしなくても無効化できてたんだから。おれみたいな転移者だから気づけたんだよ」


 言ってから、苦笑気味に肩をすくめる。


「とはいえ、ここの冒険者たちは3年も迷宮(ダンジョン)に潜っていたのに、誰ひとりそれに気づけてないのは、ちょっと間抜けな話だね」


「無理もありません。強力な武器があるのに、わざわざ弱そうな武器で魔物(モンスター)に挑もうなんて思いませんもの」


「ま、とにかくそういうわけで、おれはこういう商品のあるお店を探してたのさ。納得してくれた?」


「はい。貴方が変質者でなくて、本当に良かったです」


 それからおれは店の中を巡り、必要そうな物を集めていく。


 その途中、遠慮がちにフィリアが問いかけてきた。


「あの、先ほどのお話、他のお客様にもしてよろしいでしょうか?」


「ここの武器が魔物(モンスター)に有効だって話? べつにいいよ。わざわざ聞くまでもないんじゃない?」


「いえ、とんでもありません! 本当なら大金で売ってもいい情報です! その気になれば魔物(モンスター)討伐報酬を独占することもできるのですよ」


「それもそうか。なら、その話はおれが広げようかな。どうせおれが活躍してたら、みんな真似したがって聞いてくるだろうし。そしたらこのお店を紹介しとくよ」


 フィリアは嬉しそうに微笑む。


「はい、助かります。売上が増えれば、お給料も増えるのです」


「お給料って言っちゃったよ……。寄付じゃなかったっけ?」


 苦笑しつつ、選び終えた装備を会計カウンターに持っていく。


「エッジラビットのナイフが2本。ミュータスリザードの鱗で作った鎧が1点。それにウルフベアの骨を磨いて作った剣が1本。以上でよろしいですか?」


「うん。本当は金属の剣が欲しかったけど、無いんじゃしょうがない」


「申し訳ありません。迷宮(ダンジョン)内で手に入る鉱石は、政府に研究用として買い上げられておりますから……」


「それは今後に期待するよ。剣とナイフのセットに、予備のナイフもあれば今は充分さ」


「本当に、以上でよろしいですか?」


「ん? うん、いいけど」


「ナイフの予備は、もう1本あったほうがよろしいのでは?」


「どうして?」


「売上が増えれば、お給料も増えるのです」


「こら」


 フィリアは悪戯っ子みたいな笑みを浮かべる。


「本当は3本セットだと、2割ほどお安くなるのです」


「そういうことなら買っとくよ。商売上手だなぁ」


「ありがとうございます。では、お会計は税込みで40万7千円となります。お支払いは……」


「QRコード決済で」


 スマホを取り出して、レジでスキャンしてもらう。


 貯金のおよそ8割が消えるが、装備を整えるならこれくらいが相場だ。むしろ他の店で刀や銃器を買うよりは安い。


「お買い上げありがとうございました。わたくしのお給料アップにもご貢献いただけまして、大変感謝いたします」


「そういうこと笑顔で正直に言わないの。じゃあ、またね」


「はい。お気をつけて」


 本当は異世界人について話が聞きたかったが、勤務中なので仕方がない。


 おれも宿を見つけなきゃいけないし。


 と、再び町に繰り出して、適当な宿を取ったあと。


 どこかで夕食を取ろうと店を探していたとき、客引きに声をかけられた。


「ご主人様~、お酒やお食事なら是非『メイド・イン・だんじょん』へお帰りくださいませ~」


「なにしてんのフィリアさん……」


 それは、なぜかメイド服を着たフィリアだった。

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