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第175話 異世界の軍隊がどれほどのものか、試してみるのも面白い

「では父様、母様、いってまいります」


 フィリアはおれに寄り添い、王と王妃に宣言した。


「フィリアも行くのかい……。いや、そうだね。我が国の意向を伝えるんなら、フィリアが適任だ。でも、やっと会えたのに、すぐ行っちゃうんだな……」


「寂しがらないでください。今度は、すぐに帰ってまいりますから」


「ショウさん、大丈夫です。フィリアは強い子です。いえ、以前よりずっと強くなって帰ってきました。それに、きっとタクトさんが守ってくれます」


 王妃の言葉に、おれは強く頷く。


「この命に替えても」


 丈二も続く。


「及ばずながら、私もお守りいたします」


「では急ぐので、これにて失礼いたします」


「ああ、ちょっと待ってくれ。最後に確認しておきたい」


「なんでしょう?」


「かつて、おれたちも世界を変えてしまった。でも、その影響に対して無自覚すぎた。幸せを作るつもりが、逆に目の届かないところで誰かを不幸にしてしまっていた……。あなたのこれからのおこないも、きっと同じだ。いつか責任を取るべき日は来る。もし、その覚悟が持てないなら、やめる選択肢もある。今ならまだ間に合うはずだ」


「いいえ、やめる理由にはなりません。覚悟なら、できています」


「わかった。そう言うだろうとは思っていたよ。引き止めて悪かった」


「いえ、ご配慮ありがとうございます。それでは」


「ああ、またね。これからもよろしく」


 その別れの言葉は、この先の交流を望みの感じられる温かいものだった。



   ◇



 アルミエスの研究室(ラボ)に戻ってみると、彼女は白衣姿で待っていた。


「お前たちが迷宮(ダンジョン)に戻ったら、最後の仕上げをする。そしたらもう後戻りはできんぞ。すべてが変わる。いいな?」


「いいとも。こちらの意志は変わらない。王にも了解を取ってきている」


「なら、もう行け。望む世界を手にするがいい!」


 アルミエスに見送られて、おれたちは再び迷宮(ダンジョン)に突入する。第6階層の山岳だ。


 ほどなくして、地震が発生した。これまでのような大きいものではない。まるで、ずれていた歯車が、正しい位置に直されたような、わずかな揺れだった。


 直後から、魔素(マナ)の濃度が高まっていくのがわかった。第6階層は、前のままでもかなり濃く、異世界(リンガブルーム)にかなり近い環境だったが、これで魔素(マナ)の濃度は異世界(リンガブルーム)とまったく同じになった。


 おれたちの世界と、迷宮(ダンジョン)異世界(リンガブルーム)が完全に繋がったのだ。


 この分だと、地上に漏れる魔素(マナ)の量も増えるだろう。世界中に拡散して、薄まるにしても、フィリアたち異世界(リンガブルーム)人が島の外に出られるようになるかもしれない。


「戻ったか、タクト」


 第5階層へ駆け戻る最中、おれたちの眼前に巨竜が飛来した。


「バルドゥイン! 出迎えに来てくれたのか」


「うむ。どうやら迷宮(ダンジョン)の主とは話がついたようだな。環境が変わり、力がみなぎるようだぞ」


「ああ、道中の魔物(モンスター)も強力になっているだろうけれど、それ以上にこちらの戦力アップが大きいはずだ。このまま迷宮(ダンジョン)を一気に駆け上がる」


「それでも時間はかかるだろう。私に乗れ! 今なら転移魔法が使える。どこでも好きな階層へ連れて行ってやる!」


「いいのか、バルドゥイン。あなたはもう、おれに借りはないはずだ」


「言うなれば前借りだ。ひとつ、頼みを聞いてもらおうと思ってな」


「珍しいじゃないか、賢竜バルドゥインが頼み事なんて。どんな頼みだ」


「私も同行させろ。この世界の空を飛んでみたいのだ。異世界とやらの空を、思うままにな」


「それが戦場の空になってしまっても、かい?」


 バルドゥインは、にやりと笑った。


「望むところだ。異世界の軍隊がどれほどのものか、試してみるのも面白い」


「わかった、行こうバルドゥイン!」


 バルドゥインはその場に腹ばいになってくれる。おれは颯爽とその背中に飛び乗った。続いて丈二も。それからフィリアとロザリンデを、それぞれの手で引き上げる。


「よし、乗ったな。どこへ飛ぶ? 地上でいいか?」


「まずは第2階層だ。きっと仲間たちが苦戦してる」


「いいだろう。揺れるぞ。鱗でも角でも、好きな場所に掴まれ!」


 その指示に従うと、バルドゥインは転移魔法を発動させた。


 真っ白な閃光がおれたちを包み込む。



   ◇



 ――その少し前。第2階層。


「くそぉ、俺たちの家が!」


 隼人たちは、重火器を有する敵部隊に苦戦を強いられていた。宿を守るために展開していたのだが、火力差はいかんともしがたく、後退を余儀なくされていたのだ。


 紗夜や吾郎たちが合流してくれて、少しは状況は好転するかと思えた。治療魔法の使い手が増えたのは実際助かったが、彼らでさえ重火器への対抗は難しかった。


 (ドラゴン)素材の装備は、重火器の弾丸を通さなかったが、衝撃は殺しきれない。最も重武装で防御力に秀でた結衣でも、多数の弾丸を浴びてふっ飛ばされてしまうだけだった。


 後退を繰り返すうちに、宿を遮蔽物として利用せざるを得なくなり、結果として蜂の巣にされてしまったのだ。グリフィンのガンプ、オブダ、ベルダたちを逃がせたのは幸いだが。


 今は、魔法攻撃で敵の侵攻を食い止めるだけで精一杯だ。


 自分たちの家が弾丸で削られていくのを目の当たりにして、隼人はいよいよいきり立つ。


「こうなったら……俺が突っ込みますよ。俺が変身すれば、弾なんて当たらない。当たったって再生できる。やつらの陣形、めちゃめちゃにしてやるっすよ!」


「バカヤロー! おめー、そんなことしたら寿命がどんだけ減っちまうんだよ! 無茶なことすんなよ!」


「でも雪乃先生! 一条先生たちがいない今、どうにかできるのは俺しかいないじゃないっすか! あんなわけわかんないやつらに、俺たちの居場所を壊されてたまるかってんですよ! それに――」


 隼人は覚悟を決めて、一歩踏み出す。


「――こういうときに命張るのが、勇者ってもんじゃないっすか」


「待って、隼人くん!」


 そのまま駆け出しそうになるのを、紗夜が呼び止める。


「なんすか、紗夜先輩! 俺の心配してくれるなら、援護してくださいっすよ!」


「そうじゃないの! 感じない? 魔素(マナ)が、どんどん満ちてきてる」


「――!? そういえば、なんか力がみなぎってたような……」


 それに気づいた直後だった。


 隼人たちが盾にしている宿の向こう側で、巨大な白い光が現れた。


 そして光が消えたかと思うと、見たこともないほど巨大な(ドラゴン)の姿があった。


 それに乗る、誰より頼りになる味方の姿も。


「あれは一条先生! 来てくれたんだ!」

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