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第140話 生きているのか

 夜な夜な闇冒険者の制裁に赴き、その様子の一部を配信し続ける。


 そんなことをするのはおれだけだと思っていたのに、どうやらおれ以外にも動いている者がいたようだ。


「ハヤトなら、きっとこうするからよ」


 偶然にも遭遇したロザリンデは、そのように語った。


 別の夜、怪しい動きをしている紗夜に声をかけたら、覆面を持っていた。


「えっと……あたしも隼人くんがしてたことには共感してましたから。もっと早く、手伝ってあげられてたらって思うんですけど……」


「紗夜ちゃんも、ファルコンの正体に気づいてたんだ?」


「偶然だったんですけど、隼人くんがひとりで出発するところ見かけちゃって。なんだろうって思ってたら、ファルコンが生配信始めたから、ああ、そっかぁ……って」


「あんまり驚かなかったんだね」


「はい。むしろ納得っていうか、隼人くんならやるだろうなぁって」


「もしかして、他にも知ってる人っているのかな?」


「結衣ちゃんはあたしと同じタイミングで気づいてますよ。あと、たぶん津田さんや武田さんは、わかってて黙ってるだけなんじゃないかなぁって気がしてます。もしかしたら、フィリア先生も」


「フィリアさんも? あっ、もしかして、あの通販の箱……」


 第2階層の宿では、実はネット通販の送り先にすることが可能だ。


 運送業者からの荷物は、一旦、地上の事務所に預けてもらう。1日1回、グリフィン便がそれらを取りに行き、宿の各部屋に配るという流れだ。もともと離島な上、事務所を経由するので通常より時間がかかるが、迷宮(ダンジョン)にいながらネット通販できるのは好評だ。


 フィリアもそれを利用していたようなのだが、届いた箱の大きさは、おれにも見覚えがあったのだ。


 というわけで、自室に戻って確認してみる。案の定、フィリアは覆面やボイスチェンジャーを購入していた。


「フィリアさん、その覆面、クオリティ低くてすぐ正体バレるよ」


「は、はい?」


「そうじゃなくても、口調や仕草に気品がありすぎて、すぐバレるだろうし……。そもそもフィリアさんは、人を痛めつけるのに向いてないよ」


 フィリアは、しゅんと肩を落としてしまう。


「……お気づきになられてしまいましたか。風間様のようにはいかずとも、タクト様のお手伝いくらいはできるかと思ったのですが……」


「そっか、おれがやってるのも気づかれちゃってたか」


「それはもう。同じ部屋に暮らしているのですもの。バレバレです」


「ごめん、君には相談するべきだったね」


「はい。いっそ、みなさんに相談してみても良いかと思います」


 フィリアの提案に乗り、おれはそれらしい活動をしている面々を、会議室に呼び寄せた。


 おれとフィリア、ロザリンデ。紗夜に結衣。吾郎。


 そして、敢えて呼ばなかった丈二までやってきた。


「どうしたの丈二さん」


「会議室の使用申請を見て、来たのですよ。このメンバーなら、今も活動中のファルコンの件だと思いまして」


「だったら君の立場としては、ここにいないほうがいいんじゃないか」


「ええ、いませんよ。この時間、私は別件の仕事を片付けていることになっています」


「それならいいけどさ」


 会合の口火を切ったのは、ロザリンデだった。


「最初に……わたしはハヤトのしたことは勇気ある行動だったと思っているわ。この場所の平和のため、今できる最善のことをしていたわ。思いついても、誰でもできるようなことじゃない。彼は勇者よ」


「勇者……。勇者ファルコンか。そう言ってくれるなら、きっと隼人くんも喜ぶよ」


 フィリアも同意する。


「この日本においては、許される行動ではなかったかもしれません。ですが、わたくしも必要なことだったと思います。彼の想いは……その勇気は、引き継いでいくべきだと思います」


「いずれ迷宮(ダンジョン)にも入れる警察官や、警察権限を持った冒険者も生まれるにせよ、それまでは……いや、その後も警察とは違う抑止力として、ファルコンの名は使われていくべきだ」


 その場のみんなが、おれの意見に賛同してくれる。丈二はただ黙って、小さく頷くのみだった。


 第4階層の探索も進めなければならない。隼人を見つけることはできなくても、彼らを襲った合成生物(キメラ)がどこから現れたのか突き止める必要がある。


 せめてそこまでしなければ、雪乃が立ち直ることもできない。


 そこで、今までみたいに各人の判断ではなく、スケジュールを決めて持ち回りでファルコンを演じることにした。それなら迷宮(ダンジョン)探索の時間も取りやすい。


 表では警察に協力して闇冒険者の逮捕、裏ではファルコンによる制裁。このようにして、おれたちは迷宮(ダンジョン)の治安維持に努めることにしたのだ。


 その成果もあってか、潜伏中の闇冒険者の牽制や、新しい闇冒険者の発生抑制に効果を上げていたように思う。


 闇サイトは稼働しているが、以前ほど闇冒険者に勢いはない。


 だが、こうした活動の中、不可解な件がふたつも現れた。


 ひとつは、闇冒険者の逮捕依頼を遂行していた冒険者が、見たこともない魔物(モンスター)に襲われたという事件だ。


 その魔物(モンスター)は、人型で、日本語を話し、かつ明確な意思を持って闇冒険者の救出――あるいは、冒険者への攻撃に動いていたのだという。


 その報告を受けて、おれたちはまた上級吸血鬼が出現したのかと疑った。


 しかし聞くところによれば、霧化もしなければ、誘惑(テンプテーション)も使わない。吸血もしない。明らかに吸血鬼(ヴァンパイア)に類するものではない。


 今は調査が必要だ。各冒険者に注意喚起することしかできない。


 そして、もうひとつは、闇冒険者を襲撃する新たな存在だ。


 ファルコンを演じる誰かが、スケジュール外で活動したのかとも考えたが、どうもそうではないらしい。


 襲撃を受けた闇冒険者は、大した怪我はない。ただ、怪我をさせられずに恐怖と苦痛を与えられたようだ。怯えきっていた。


 彼らが言うその者の特徴も、人型の魔物(モンスター)だったという。


「……まさか」


 そうは思いつつも、ひとつの可能性に気づく。


「君なのか……? 生きているのか、隼人くん……」


 おれたちはそれらの目撃情報のあった、第3階層奥および第4階層を重点的に探索することとなった。

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