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第128話 怖えことは、きっちり潰しておきてーんだ

「私も同感です。闇サイトそのものも、闇サイトの依頼を受けた者も、すべて排除すべきでしょう」


 おれの意見に、丈二は即同意してくれた。


「冒険者のみんなは、ただでさえ命懸けで迷宮(ダンジョン)に挑んでるんだ。この上に、余計な心配事なんて抱えさせたくない」


「それに、今、芽を潰しておかなければ、より大きな犯罪に繋がってしまうかもしれません」


 今は主に女性が狙われているが、この先はわからない。気に入らない冒険者を襲えというような依頼が出るかもしれないし、それで殺人が起こる可能性だってある。


 魔力石と魔力回路、魔力薬が違法に持ち出され、迷宮(ダンジョン)外で犯罪に利用されるかもしれない。


 銃刀法で取り締まれもしない強力な攻撃手段を、外に解き放つわけにはいかない。


「あ、アタシも手伝う……。こんなことするやつら、ゆ、許さねー……!」


 雪乃は震えながら声を上げた。怒りかと思ったが、違う。怯えだ。当たり前だ。彼女は被害者なのだ。


 その震える肩に、フィリアがいたわるように手を添える。


「桜井様、無理はなさらなくて良いのですよ」


 ここ数日、雪乃には第2階層の宿に滞在してもらっている。本来、彼女は地上に居を構えていたのだが、また狙われる可能性を考えれば迷宮(ダンジョン)の中のほうが安全だったのだ。


 魔素(マナ)の強化があれば、もし襲われたとしても彼女ならいくらでも対応できる。守ってくれる味方もいる。


 よもや、迷宮(ダンジョン)魔物(モンスター)より、地上の人間のほうが危険だと考える日が来るとは思っていなかったが。


「む、無理なんかしてねーし……!」


「ですがあんなに怖い思いをされたのですから……」


「そ、そりゃ、怖くねーっつったら嘘だけどよ……。けどよ……怖いんなら、どうしろって言うんだよ……?」


 雪乃は目尻に涙を溜めながら、唇を震わせる。


「このままビビって引きこもってりゃいいのか? 不安なまま冒険なんかできねーし……。それとも、冒険者辞めて逃げるのが一番なのか……?」


 雪乃はゆっくりと首を振る。


「あ、アタシはさ、あんまり頭良くねーし、普通に働いたんじゃ自分ひとりが精一杯なんだよ……。だから迷宮(ここ)しかねーんだ。ここでしか弟の手術代稼げねーんだよ……」


「桜井様……」


「だからよ、怖えことは、きっちり潰しておきてーんだ。じゃなきゃ、アタシ、怖くてここにいられねー……」


「雪乃ちゃん、だからって君が一緒にやらなくてもいい。やつらを叩き潰すのは、おれたちに任せて、待っててくれてもいいんだ」


「それじゃ、ダメなんだよ。自分で、ちゃんと怖えのを潰さねえと、安心できねー……じゃん」


 確かにそうかもしれない。


 もし家にゴキブリが出たとして、仲間の誰かが知らないところで退治したと言ってくれても、完全に安心できるかどうか。


 見つけた本人が叩き潰したなら、確実に安心できるだろう。仲間が処理するにしても、潰すところは見せなければ。


「わかった。そこまで言うなら、雪乃ちゃんにも手伝ってもらうよ」


「ああ、なんでも言えよな」


 そんな雪乃に、フィリアは優しい目を向ける。


「桜井様は、お強いのですね」


「は? なに言ってんだ、あんたのほうが全然強いだろ」


「いえ、お心が、ですよ。恐怖に打ち勝つために、自ら恐怖に立ち向かうなんて、わたくしにもできるかどうか……。素晴らしい勇気をお持ちです」


 褒められ慣れていないのか、雪乃はちょっと頬を赤くして、そっぽを向いた。


「あ、アタシはただ、自分がここにいるためにするだけだし」


「ここにいたいのは、弟様のためなのでしょう? 誰かのために勇気を振り絞ることは、美しいおこないかと思います」


「おれもそう思うよ、雪乃ちゃん。君のおこないが、君と同じように迷宮(ここ)に居続けたい人を救うかもしれない。一緒に頑張ろう」


「だ、たから、そんな大層なことじゃねーって……」


 雪乃は嬉しそうな、でも困ったような、複雑な表情でうつむいてしまう。


「とは言ったものの、どのように闇サイトを追い詰めましょうか」


「大元のサイトを運営しているやつを、どうにかしなきゃいけないね。それに、闇サイトの依頼を受けてるようなやつらも特定しないと」


「逮捕したおふたりを尋問しても、仲間の情報は得られないのでしょうね……?」


 フィリアの質問に、丈二は残念そうに頷く。


「ええ、互いに顔も名前も隠しあっていたようですからね。警察では聴取を続けるでしょうが、見込みはないでしょう」


 しばし、う~ん、とみんなで考え込んでしまう。


 やがて、雪乃は苛立ちのこもったため息をついた。


「ったく。今頃、あんなことで稼いだ金で遊んでるかと思うとイライラするぜ……」


 その発言に、おれは引っかかりを覚えた。


「ん? 遊んでる……? 雪乃ちゃん、なんでそいつらが遊んでるって思うんだい?」


「へっ? なんでって……なんとなくっつーか……金が入ったら普通、遊びたくならねえ?」


「わたくしなら、次の投資のために貯金いたしますが」


「おれも。使うなら、次の冒険のための装備が優先かなあ」


「私も似たようなものですね。せいぜい恋人へのプレゼントくらいでしょうか」


 おれたちの返事に、雪乃は呆れたようにため息をついた。


「そりゃ真面目にやってるあんたらならそーだろーけどよ。相手は闇サイトで、ふざけたことしてる連中だぜ? 金を真面目に使うと思うか?」


「なるほど、それは確かに」


 そんな連中がどこでお金を使って遊ぶだろうか? 想像してみたら、取っ掛かりが見えてきた。


「オーケー、それならおれに心当たりがあるよ。任せてもらっていいかい?」


「わかりました。なら私のほうは、サイトのほうを当たってみましょう。ギルドアプリは、ギルド関係者にしか閲覧できない部分があります。その構成まで真似ているということは、闇サイトの運営にはギルド関係者が関与しているということです。私はその辺りを洗ってみましょう」


「でもさあ……」


 と雪乃は不思議そうにおれのほうを見つめた。


「あんたの心当たりって? そういうツテがあるようには見えねーけど」


 おれは苦笑する


「まあね。おれも、できればこのまま縁がないままでいたかったんだけど……」


 フィリアがおれの意図に気付いたらしく、顔を上げた。


「タクト様、もしや……」


「ああ、借りを返してもらいに行こう」

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