ⅩⅧー6 エピローグ――二人の銀麗月候補
サキはカイたちにヨヌから聞いたことを伝えた。カイが最も強い関心を示したのは、七歳のレオンがあの岩の上に立ち、それを教師が否定したというくだりだった。
「その教師は、現在の宗主エルどのなのですね? エルどのは、早くから宗主候補として期待されていた人物です。これゆえ、あの岩に立つことの意味を十分に知っていたはずですし、特別地区で英才教育を受けている天才児がその岩にのぼる力をもっているとしても不思議には思わないでしょう」
「では、そのエル宗主とやらは、わかっていて否定したと?」
「おそらくそうでしょう。岩に立つということは銀麗月候補だということです。子どもがそんな噂を流したらたいへんです。候補者の存在に天月全体が大揺れします。当時の宗主がレオン叔父の異能に気づいたのは、術発動の時点です。エル宗主はその一年前にレオン叔父の異能の大きさに気づいており、それを隠したと考えられます」
「なぜだ?」
「わかりませんが、考えられる可能性は二つです。銀麗月の出現自体を抑えるため、あるいは、銀麗月が天月少数派から出るのを阻むため――。ですが、天月が銀麗月の出現を抑えるのは自己矛盾です。可能性が高いのは後者でしょう。銀麗月は二人以上が同時に存在できません。少数派から銀麗月が出てしまったら、多数派は銀麗月を出せなくなります」
「カイ修士……。いま、ものすごく微妙なことを言ってるぞ」と、サキが眉根を寄せながらつぶやくように言った。
「そうです。レオン叔父の異能を知ってから、ずっと持ってきた疑問です。レオン叔父には銀麗月の力がありました。ですが、十歳で排除されました。誰が、何のために排除したのか? 天月以外の者が拉致しようとしたと考えてきたのですが、ひょっとしたら、天月関係者も関わっているかもしれません。レオン叔父が銀麗月になっておれば、わたしが銀麗月になることはありませんでした」
「……カイ」
リトが心配そうにカイを見た。
「天月多数派がレオンを排除しようとした可能性もあるとの見立てだな?」
サキの指摘にカイは頷いた。
ばあちゃんが尋ねた。
「銀麗月と天月宗主の決定的違いは何じゃ?」
「異能の力です。天月宗主も強い異能者ですが、銀麗月になるにはよりいっそう強い絶対的な異能を持っていることを証明しなければなりません」
「絶対的異能とは?」
「空間を歪める異能など、特に強く、稀な異能です。この異能は訓練で鍛えられるものではありません。生来持っている異能です。わたしの場合には、香華族とヨミ神官族の異能の血があったことが影響したのでしょう」
「では、老師にもエル宗主にも空間を歪める異能はないんじゃな?」
「そのはずです。……ですが、あえて隠しているとすれば、確かめようがありません」
「隠すメリットはあるかの?」
「銀麗月の立場よりも宗主の立場を重視すれば、あえて異能を隠すでしょう。宗主がそうした異能を持っていていけないことはないのですが、銀麗月の力と天月宗主の力を独占してしまいかねませんので、警戒されるでしょう」
「ふうむ。宗主であれば、天月を支配できるのう」
「そうです。ですが、集団指導体制ですので、勝手なことはできないはずです」
「そうじゃの。じゃが、人事権を持つではないか。周りにナンバー2を置くことなく、無能な側近やイエスマンで固めれば、独裁も可能じゃぞ。優秀な者をたたきつぶして、長期政権をもくろむときの定道じゃな」
カイが青ざめた。現宗主が即位してから十年。いまの天月では、宗主の力が強まりつつある。エルは、非常に優秀で、有能な女性だ。だが、側近には、自分に匹敵する者を置かない。むしろ、有望な者を巧妙に排除している。
ゆえに、老師はカイを宗主に近づけようとせず、自分が庇護したままで、カイを銀麗月として即位させることを急いだのか? 銀麗月であれば、宗主の手は及ばない。老師の直弟子が宗主と銀麗月に即位して、老師の影響力が強まるとの懸念も聞かれたが、老師はそうした異議をすべてはね除けた。カイを守るためだったのかもしれない。
事実、老師は、カイが銀麗月に即位したとたん、祠に身を隠した。老師は、カイに天月の正道化を期待しているに違いない。
カイはばあちゃんたちに静かに告げた。
「エル宗主の件を調べてみます」




