ⅩⅦー4 エピローグ――リトの焦り
――カトマール離宮。
ばあちゃんとサキとリトをパドアが丁寧に出迎えた。しばらく前に訪れたばかりだ。
今日は、副大統領夫人アユがじきじきに三人を招待したのだ。ヤオが送り迎えを担当した。
通された客間は、この前とは違う立派な部屋だった。アユとセイ、そしてレオンとカイが上品な老夫婦のそばに立っていた。
ばあちゃんの姿を認めた老夫婦は二人に笑顔を向けた。
アユが言った。
「あまり日も置かないにもかかわらず、遠路はるばるお越しいただき、ありがとうございます」
「いや。わしらに遠慮は無用じゃ。して、これほどのお方がお集まりとは、よほど重大なご相談であろうの」
「はい。とても大事なご相談でございます。まずは、こちらのお方をご紹介させていただきます。わたしの祖父母にあたります」
「ほう、それはそれは……ということは、カトマールの元皇帝ご夫妻であられるか?」
ばあちゃんが言うと、老婦人が優雅な笑みを漏らした。
「ほほほ。〈九孤の賢女〉どのとうかがっておりまする。お見知りおきくだされ。わたしはファウン。仰せの通り、元皇帝です。こちらは夫のシュン。そして、すでにご承知の通り、わたしの女官長セイと、孫のリリア、そしてレオン。こちらはリリアの息子カイです」
「ほう。セイどのとアユどの、そしてレオンどののことは察しておりましたが、カイどのまでカトマール皇室にゆかりの方とは思いも寄りませなんだ」
リトは、ばあちゃんの横で固まっていた。顔が真っ青だ。
――遠すぎる……!
カイは銀麗月。それだけでも遠いのに、カトマール皇子だなんて……。とてつもなく遠い存在だ。異能があるとばあちゃんに言われて浮かれていた自分が情けない。
これからどうしたらいいんだろう……。
ばあちゃんたちは老夫婦と何事かを相談している。リトにはすべてがうわのそらだ。
端然としたカイのたたずまいがうっすらと涙に曇って見えなくなる。歯を食いしばっても、足を踏ん張っても、体の震えが止まらない。
――このまま、カイがアカデメイアを出て行ってしまったらどうしよう……。二度と会えなくなったらどうしよう……。
リトの手が震えているのをカイはじっと見ていた。
帰り際、カイがリトのそばにすっと寄り添った。手に触れ、思念で伝える。
(リト。驚いただろうが、わたしを避けないでほしい。キミは、わたしのただ一人の友だ)
その瞬間、リトの顔がうそのように輝いた。
(うん、わかった! キミはオレのいちばん大事な友だちだもん! ずっと一緒にいるよ! キミのためならなんでもする!)
ほとんど愛を告白したに等しいことにも気づかず、ニコニコ顔に変わった弟の隣で、サキは、うれしいやら、呆れるやら。
――リトの単純ぶりは知っていたが、ここまで分かりやすいと、ほとんどバカに見えるな……。
リトは、カイのひと言でまるで地獄から天国に行ったみたいに表情が変わった。
――わかってんのか? こんな大事な秘密を明かすということは、これからの苦難に協力してほしいという意味なんだぞ。
ま、リトなら頼まれずとも、カイに尽くすだろうけどな。




