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月下の神殿――銀麗月と聖香華  作者: 藍 游
第十六章 香華族の秘宝
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ⅩⅥー5 なつかしき離宮

■来訪

 老夫婦のルナ大神殿の見学はあっさり終わった。シュンとファウンはちょっと疲れたと言って、ベンチに座り込んだ。

 ララが言った。

「まあ、ここなら邪魔にならないか。でも、動かないでよ。わたしはお昼から忙しくなるから。気をつかってあげられない」

「わかったよ。ウロウロせず、お弁当を食べた後はこの付近でぼうっとしておくよ。おまえはおまえの仕事をしておいで」

「うん。今夜も一緒に晩ご飯を食べようね」

「わかったよ。待ってる」

「きっとだよ。夕方になったら、ここに迎えに来るね」

「ああ。そうしておくれ」


 午後、何人かの立派な服装をした人たちが姿を現した。ラウ伯爵たちだろう。ララがルナ大神殿と新しい発掘現場を説明している。シュウとファウンは姪の姿を見ていた。だがそれ以上に、アユとレオンを見つめていた。間違いない。アユはリリアだ。香華族の高貴な香りがする。


 聖香華であるファウンは、身体に触れずとも香華族の香りを感じることができる。そして自分の香りを隠すこともできる。レオンには香りを感じなかった。だが、彼が聖香華であるなら不思議ではない。


 ファウンはもう一人の人物が気になっていた。レオンに並び立つ秀麗な青年。あれが天月修士だろう。アユにどことなく似ている気もするが、天月修士から香華族の香りはしない。だが、香華族とは異なる香りをまとっている。


 一行は一時間ほどの視察を終えて去って行った。離宮に向かったのだろう。ララが戻ってくるまでなお二時間ほどかかろう。


 ファウンは大神殿を改めて見るために遺跡の中に入っていった。皇帝であったときには、公務に追われ、ゆっくり見ることもできなかった。いま改めて見ると、神殿の柱や天井には非常に美しい彫り物が施されており、陰影が豊かな表情を与えている。

 ある場所でファウンの足が止まった。遺跡の中央付近の天井レリーフの下だった。


 シュンが去ったあと、ファウンは空間移動でひそかにあちこちを訪ねた。シュンはファウンの異能発揮に否定的だった。心身に過剰な負担をかけるからだ。シュンはファウンが異能を使ったことをすぐに察してしまう。ファウンの呼吸のわずかな乱れを察知するらしい。


 シュンはいつもファウンに言った。

――異能に頼らない皇帝でいてほしい。


 異能は麻薬と似ている。使い始めると、その魅力と優越感に囚われてしまう。失敗を避けたり、早くにミスを修復するには便利だが、結果的に人間性を失う。聖香華のように全能に近い異能者であればなおさらのこと。


 失敗や焦りを認めてくれるシュンがそばにいれば、ファウンも異能に頼る必要はなかった。だが、シュンを失った後、(くさび)を失ったようにファウンは異能に頼るようになった。

 ファウンは自分のために異能を使ったわけではない。皇帝として、皇民のために異能を使った。しかし、それはファウンの心身を蝕んだ。セイが何度も止めようとしたが、ファウンは聞き入れなかった。


 空間移動を繰り返すうち、ファウンは、空間移動には一つのルールがあることに気づいた。異能が最大限に発揮できるのは満月の夜であり、移動先は必ずしもファウンが望む場所ではない。何かの力が選ぶ場所に移動させられた。


 その一つが古いくずれかけた小さな神殿のある島だった。森の中にぽっかりと放置されたような神殿は月光を受けて、天井に絵が浮かび上がっていた。その絵と大神殿中央のレリーフが同じだった。


■離宮

 離宮の主人アユは、夫レンとともに、ゲストのラウ伯爵とレオン、天月修士カイ、そしてソン・ララをにこやかに迎えた。


 用意された応接室で、ララは一同に月神殿遺跡の概要を説明した。

 月神殿自体はあまり大きな神殿ではない。だが、祭祀と歴史の上では非常に重要であった。この地に月神殿の可能性を推定したのは、ファン・マイ。ララはマイの名と業績を挙げ、みなの前でマイを称え、そして悼んだ。


――ララは信頼できる。


 カイはそう思った。櫻館メンバーがファン・マイの事件を秘かにさぐっているなど、ララは知るよしもなかろう。だが、カイたちは知っている。ララは明かしていないが、ファン・マイを指導したのはララだ。


 ララの説明は明快だった。ラウ伯爵が満足そうに頷いている。

 説明が終わると別室で茶菓子がふるまわれた。ララが立ち上がった。

「せっかくですが、わたしはこれで失礼いたします。高齢の伯父と伯母を待たせておりますゆえ」


 アユが言った。

「そうでしたか。ご夕食も用意しております。もしよろしければ、先生の伯父さまと伯母さまもご参加いただいて、夕食をご一緒しませんか? ソン教授にはもっとお話を伺いたいものですから」


 ララは面食らった。こんな超一流メンバーと初対面で食事をするなど、ミン国の片田舎でひっそりと暮らしてきた二人には酷かもしれない。だが、伯父は若い頃カトマールで暮らしており、伯母はカトマール出身のはずだ。言葉には不自由しないはずだし、伯父も伯母も抜きん出た教養があり、博識だ。会話に参加せずとも、会話の内容に置いてけぼりをくうことはなかろう。

「ありがとうございます。二人に聞いてみます。改めてご連絡いたします」


 ララから、アユの申し出を聞いた伯父と伯母は顔を見合わせた。

 しばらくして伯母が言った。

「ありがたいお申し出なのでお受けするとお伝えしてちょうだい。ただ、わたしたちの席は隅の方に設けてともお伝えしてね」


 夕刻、ララは伯父と伯母を伴って離宮に出向いた。出迎えたパドアが二人を見て絶句した。

 パドアは恭しく二人に接し、丁寧に座席へと案内した。ホスト夫妻の正面に並んで二人の座席が用意された。すでにみんな着席していた。パドアがアユに耳打ちした。アユは大きく目を見開いた。


 美しい食事が供された。集まったメンバーは、ルナ神話や神殿の話題で盛り上がった。いずれもかなりの知識を共有しているようだ。だが、知識をひけらかす者はなく、アユは老夫妻にも配慮して、時々話題を振る。


 ファウンもシュンも察した。パドアは自分たちが何者かに気づいたに違いない。それを知った上で、アユは自分たちに敬意を払っているのだ。ファウンもシュンも差し障りのない範囲で応答した。一同が、二人の教養の高さに驚いた。


――さすが、ソン教授の親族だ。


 宴は滞りなく終わった。帰り際、パドアがファウンに主人アユからの言づてをした。


――明日午前に、ぜひこの離宮にもう一度お招きしたいのですが、いかがでしょうか。

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