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月下の神殿――銀麗月と聖香華  作者: 藍 游
第二章 緋目の白虎
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Ⅱー4 異能者〈弦月〉 

■異能者〈弦月〉

――異能者が助け合うってことは、カイ以外にも異能者がいるってこと?

「そうじゃ。リトよ、じつはおまえも異能者なんじゃ」

――えっ?

「まだ目覚めたばかりじゃから、異能は非常に不安定なようじゃがの。図書館でカイと一緒に妙なものを見たことがあったろう? おまえの異能が目覚めたのは、どうやらそのときらしい」

――オレの異能? わかんないよ。いったい、どんな異能なの?

「時空を歪める異能じゃ。おまえがカイと戦ったとき、おまえはカイの動きを先読みしておった。それに、カイが天月に戻った時に、おまえ、天月山の人影を見たり、天月の滝の音を聞いたりしたんじゃろ? あれも異能のあらわれじゃ」

――じゃあ、カイも知ってるってこと?

「うむ。わしらはおまえを守るために、カイに協力を求めた。カイもすでに気づいておったようでの。一も二もなく協力を約束してくれた」


 リトは震えだした。自分が知らない自分のことをカイが知っていて、自分を守っている?

――オレを守るって、どういうことなの……?

「おまえは異能の抑制を知らん。無自覚に異能を発揮しておる。オロはまだ己の力を自覚しておるだけましじゃ。

 むやみに異能を使うことは、おまえの心身を破壊する。じゃから、いまは異能を使ってはならん。おまえの潜在的異能は、じつに強力なようでの。時空を歪める異能は、最高レベルの異能――雲龍九孤族は、そこまでの異能は持たん」

――どういうこと?

「おまえの父親の血統に、どうやら〈弦月〉につながる者がいたようじゃ。おまえの父親自身には異能はなかった。じゃが、〈弦月〉の血を引く者の中には、ごくまれに強い異能者が現れるという」


 さっぱりわからない……。当惑したようにリトがつぶやいた。

――〈弦月〉ってなに? 聞いたことがないんだけど……。

「〈月の一族〉は知っておろう?」

――うん。

「〈弦月〉は、〈月の一族〉の一派じゃ。〈月の一族〉はルナ神族をルーツとする。もはや一族としての集団はなく、いくつかの派に分かれた。もっとも有名なのが、〈香華族〉と〈月読族〉じゃ。上位の香華族は、〈本香華〉と呼ばれておる。カトマール皇室や高位貴族と縁を結んでいたが、三十年前のカトマール内戦の時に粛清された。香華族の中でも、最高位の異能者は死と再生の異能を持ち、雨を呼び、時空を超える力をも持ったという。一方、〈月読族〉はすでに滅んで存在ないとされる」

 〈弦月〉とは、〈月の一族〉の系譜を引きながらも、これら二大勢力のいずれにも属さぬ異端者集団での。〈香華族〉の最高位に匹敵する異能を持ち、その力を恃んで他の部族を従えようとした。これゆえに怖れられ、結果的には、初代〈銀麗月〉によってつぶされた。じゃが、初代〈銀麗月〉は、〈弦月〉を集団としてはつぶしたが、その離散は阻まず、〈弦月〉は個人としては生き延びた。おまえの力はこうして温存されてきた異能と言える」

 

 リトは真っ青になった。

――じゃ…じゃあ、カイとオレは宿敵ってこと?

「違うぞ。いま、カイは初代〈銀麗月〉の本来の目的を調べておるところじゃ。わしが思うに、〈銀麗月〉と〈弦月〉は相携える運命にあるんではないかの。カイはおまえを大切に思っておる。おまえもカイが大事じゃろう。これから二人はもっともっと協力せねばならん場面が増えよう。そのためにも、おまえはカイから異能の抑制方法を学ぶのじゃ。よいな!

 

 リトが満面の笑顔になった。

――うん!

「じつは、ほかにも異能者がおるようじゃ」

――え? だれ?

「リク。そして、風子がいう「お城のトラネコ」じゃ。リクはおそらく香華族の血を引くのじゃろう。母親の血であろうの。雨を呼ぶ力がある。「お城のトラネコ」が何者かはわからんが、オロがやたらと白虎にこだわりだしたということは、そのトラネコが白虎にかかわりをもつと思うようになったからかもしれん」

――白虎って?

「〈森の王〉……〈禁忌の森〉の支配者じゃ」

――え? じゃあ、〈閉ざされた園〉の支配者でもあるってこと?

「そうじゃ。じゃが、〈園〉には管理人はいたが、王の気配はなかった。何らかの事情で王が不在なのではないかの。ひょっとしたら、〈園〉への出入り口がこのところあちこちでよく開くのは、〈森の王〉の不在と関係があるのかもしれん」

――オレはどうすればいいの? 

「まずは、オロが暴走せんように見守れ。オロの力はおまえ一人ではとうてい制御できん。わしでも無理じゃ。カイと協力するんじゃ。カイとつねに情報を共有して、二人でことにあたれ。さすれば、おまえ自身もカイから異能の抑制方法を学ぶことができよう」


 リトの顔がうれしさではち切れそうになっている。

――うん。わかった!


■石棺の模様

「それはそうと、例の舎村のことは、その後どうなった?」と、サキがリトに尋ねた。

「珊瑚宮とウル石棺のこと? 珊瑚宮のことはまだわからないんだ。でも、ウル石棺は、昨日もう一度カイと一緒に見に行って、やっぱり同じものだという結論になった」

「ふうむ……いったい、どういうことだ? まさか、舎村の石棺が本物で、遺跡の石棺がレプリカなのか? ならば、あの月光で浮かび上がった模様はどうなる?」

「カイによれば、舎村と遺跡の石棺は同じだけど、模様は微妙に違うらしい」

「なにい? ならば、似た石棺が二つあるということか? おまけに舎村長は石棺に月光を当てれば、模様が浮かび上がることを知っていたことになるな」

「うん……そうなる。模様の違いは、いま、カイが分析しているけど、アイリとオロに頼んだ方が早そうだって言ってた……どうする?」

 サキはばあちゃんと顔を見合わせた。

「細かい事情を教えずに絵の分析だけさせるなら、ゲーム感覚でやるだろうな。それなら危険はあるまい。ばあちゃん、どう?」

 ばあちゃんは頷いた。リトがカイのところに走っていった。


 それを見届け、サキがばあちゃんに尋ねた。

「妙にリトが張り切っていたけど、大丈夫かな?」

「そうじゃの。カイと対等にとは言えんまでも、協力できる力があると知って、自信をもったようじゃな」

「うん。アイツは単純だからなあ……。自分が危ないってことをすっ飛ばして、カイのことばっかり気にしてた」

「まあの。その単純さがアイツを救うかもしれんの。アイツは欲をもたん。〈弦月〉の最大の弱みは支配欲だったようじゃから、リトがカイに憧れておる限りは支配欲とは無縁かもしれんな」

「どうして?」

「〈銀麗月〉は、だれをも支配せんが、だれにも支配されんからじゃ」

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