ⅩⅤー7 エピローグ――紫の瞳
銀色の月の光が射しこむ部屋で、ロアンは愛する人を見つめた。おそらく再び会うことは叶うまい。
アメリアの瞳に月の光が射した。
――ああ、そうだったのか……。
そっと名を呼んでみた。
「リリア……」
アメリアはロアンを見つめ返した。そして、彼の柔らかな髪をそっと撫でた。
「どうしてわかったの?」
「あなたの瞳だ。深い紫の色……十年前にカトマールで初めてあなたに会ったときにわたしが魅入られた色だ」
「わたしは十一歳の子どもだったわ。すべてを失うなど予想もしていなかった」
「わたしも十歳の子どもだった。二年後にカトマールでまたあなたに会えると信じていた」
リリアはロアンの手を取った。労働を知らぬ白い柔らかな手だ。その手が小刻みに震えていた。
「すまない。わたしはあなたの苦難を知らぬままだった」とつぶやくロアンの頬にひとすじの涙が落ちた。
リリアの深い紫の瞳がかすかに揺れた。
「わたしもあなたの苦しみに気づかなかった」
ロアンはリリアの手を強く握り返して尋ねた。
「あなたの目にわたしはどう映っていた?」
リリアは静かな声で応えた。
「希望と夢に満ちた青年――まっすぐで、純粋で、まぶしかった」
ロアンはちょっと肩をすくめて微笑んだ。
「あなたに会ったからだ。あなたは、強く、しなやかで、勇気に満ちていた――わたしの初恋の少女さながらに。あなたを恋しく思わないはずがない。リリアと気づかなかったことが悔やまれてならない」
アメリアはやわらかな微笑みを返した。ロアンはリリアの紫色の瞳に宿る光を見つめながら、静かに語った。
「リリアは十二歳で亡くなったと聞いた――その時から、わたしは愛の時間を止めた。リリア以外を愛することなどないと思っていた。だが、あなたに会って、わたしは生きる意味を見い出した。あなたはわたしのすべてになった。あなたはわたしを愛してくれなかったけれど……」
「二人の道は違い過ぎた……」
「今ならわかる。あなたがなぜわたしに距離を置いたのか……。あなたには志がある。祖国復興という志が。それはあなたにとって生きる目的そのもの。わたしなどが口を出せる筋合いのものではない」
「あなたがカトマールのために力を尽くしてくれていたことは知っている。感謝している」
「感謝などいらない。わたしは愚かだった。望むままにシャンラ王太子という立場であなたを支援したら、あなたの計画は台無しになっただろう。わたしが何ももたない一人の男であったなら、あなたに命を差し出すこともできただろうが……。わたしはあなたにとって足かせにしかならない」
「足かせではない。あなたに会えてうれしかった。幸せだったときの記憶がめぐって、祖国復興の決意をいっそう強くしたのだから。ロアン、あなたという存在はわたしの心の支えだった」
「わたしこそ、あなたがこうして生きていてくれただけでいい。けれど、わたしには時間がないようだ。愛するリリアにようやく会えたのに……それだけは心残りだ」
リリアはロアンを抱きしめながら、ささやいた。
「ロアン、十一の時に初めて会った時から、あなたの快活な瞳を忘れたことはない。くじけそうになったとき、いつもあなたの言葉を思い出した。
――リリア、あなたならできる――。
それは魔法の呪文。わたしを奮い立たせてくれた」
「いま改めて言うよ。
リリア、あなたならできる。あなたが愛する祖国を蘇らせることができる。
あなたならできる。あなたを育んだ文化を取り戻すことができる。
あなたならできる。すばらしい未来を築くことができる。
わたしはそれを見届けることはできない。でも、どこかでずっと見守るよ。
今夜みたいに月の光があなたを包むとき、わたしもそばにいると思ってほしい」




