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月下の神殿――銀麗月と聖香華  作者: 藍 游
第十四章 聖香華
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ⅩⅣー3 月の一族

■月の一族

 櫻館に月の光が満ちていく。


 セイの話に耳を傾けるレオンの表情が、次第に険しくなっていった。記憶を取り戻し始めたのだろう。

 レオンが尋ねた。

「わたしが〈聖香華〉とおっしゃいましたね? それはどのような者なのですか?」


 セイはレオンの目をまっすぐに見て、静かに答えた。 

「香華族には、数百年に一度、死と再生の力を持つ至高の異能者が発現することがあると伝わりまする。それが〈聖香華〉と呼ばれる御方(おんかた)――。〈聖香華〉は、香華族の頂点に立つだけでなく、〈月の一族〉の頂点にも君臨する者でござりましてな。香華族の正史である『香華本(こうげほん)()』には、〈聖香華〉は過去に四人出現したと記録されておりまする」


 レオンは、困惑を隠さずに、さらにセイに尋ねた。

「わたしは八歳の時にひとを(あや)めかねない異能を発揮したようです。天月宗主にそれは〈弦月〉の異能だと言われ、異能を封じよと命じられました。わたしの意思とは無関係に、わたしの異能がひとを傷つけると……」


 セイが驚いた。

「なんと……! それは、ひとに対する異能の発現としてはあまりにも(はよ)うござりまする。して、いかなることが起こりましたのか?」

 レオンは、ピアノと少年たちの話をした。


 セイはしばし沈黙した。

「〈聖香華〉も〈弦月〉も〈月の一族〉の最高の異能を(そな)えし者……。天月宗主があなたさまの異能を〈弦月〉と言ったのはそれゆえでござりましょう。まずは、〈月の一族〉のことをお話いたしましょう。少し長くなりますぞ」


■月読族

――太古の時代、ルナ神族を奉じる人々からは、いくつかの派が生まれましてな。ルナ神族の直系を名乗り、各派の筆頭に位置したのが〈月の一族〉でござりまする。

 〈月の一族〉は、数人の強力な異能者を始祖とする一族で、長身で麗しい容姿をもつ一族であったと伝わりまする。「天の動き」と「死と再生」にまつわる異能を持つとされ、最古の王国であるルナ古王国をつくったそうにて。五千年前のことだとか。

 されど、やがてルナ古王国は廃れ、〈月の一族〉もまた歴史の表舞台から消えてしまいましての。


――〈月の一族〉の血を引くのが、〈月読族〉と〈香華族〉。これは、神話の定番でござる。

 〈香華族〉は、「死と再生の力」をもちまする。最高の異能と言ってよいでござりましょう。

 〈月読族〉には、「天の動き」に関わる力……すなわち、「時空を読む力」がござりまする。これも非常に強い異能でござりましてな。予知の力をもち、「時空」を歪めることもできまするし、「歪められた時空」を自在に行き来することもできまする。

 〈月読族〉は、もはや存在しないまぼろしの一族とされ、記録にも残っておりませぬ。ただ、これは、〈月読族〉を隠すための作りごと。〈月読族〉の末裔は、いまも存在いたしまするゆえ。そして、〈弦月〉とは、〈月読族〉の中のエリート。各地に離散いたしました。


――今から三千五百年前に成立したウル大帝国で頭角を現したのが、我が〈香華族〉にござります。特に、医薬術に()けておりました。

 その力ゆえに、「魔女」として迫害されることもござりましたが、〈香華族〉の抜きん出た力と美貌、聡明さを利用しようとする人びとも後を絶ちませんでの。その筆頭が、ウル大帝国の後継国を名乗るカトマール帝国だったのでござります。


――初代〈聖香華〉が登場したのは、二千年前のウル大帝国後期の時代――〈香華族〉が大きな迫害を受けた時期にあたりまする。

 その頃、周辺諸国からの侵入を受け、政治的危機を迎えたウル大帝国では、上からの宗教改革が進められましてな。事実上の皇帝家たるウル第一柱は、宗教と祭祀を司る一族。権力奪取をもくろむウル第二柱と第三柱が、宗教改革を主導したようでござりまする。


――宗教改革とは、政治改革にほかなりませぬ。

 ウル大帝国の大多数の民はウル族。太古のルナ神族から分離独立したウルの神々を信じておりました。主神は、「大地の女神」――。ウル族の創世神話では、「月の男神」と「大地の女神」が婚姻をして国産みをしたとされまする。

 これゆえ、ウル第一柱は、〈月の一族〉に連なる〈香華族〉を手厚くもてなし、互いに協力しあっておりました。ところが、第二柱と第三柱は、第一柱の権力を支える〈香華族〉を排除することによって、第一柱に打撃を与えようと図ったのでござりまする。〈香華族〉は、大規模な迫害を受けました。政治的混乱のスケープゴートにされたのでござりまする。


――この大迫害の時期を乗り越えた指導者が、初代〈聖香華〉でしてな。

 初代は、ルナ神族の最高神――「月の神」――の直系を名乗りました。初代は予知能力に優れ、すべての戦いを勝利に導いたのでござりまする。ウル大帝国では第一柱が復位し、宗教改革は頓挫したのでござります。


――ところが、ここからがたいへんでございました。〈香華族〉と〈月読族〉が分かれたのでございまする。初代〈聖香華〉を支持する人々は、「〈月読族〉の復活」を掲げ、「月の神」を信奉する一神教に近い集団をつくりましてな。月読族は、「正義」と「聖戦」の名のもとに戦う一族という評価を確立いたしました。


――〈月読族〉も、もとは決して戦闘的な集団ではござりませんでした。されど、古代ウル大帝国の末期に再び血で血を洗う戦闘が続きましてな。〈香華族〉と〈月読族〉がいずれも厳しく迫害されました。

 〈月読族〉は、武力を好まぬ〈香華族〉と袂を分かち、ウル第二柱と第三柱の指導者を次々と殺害するテロ集団と化したのでござります。

 第二代〈聖香華〉は、〈月読族〉を利用いたしました。こうして、多数派である〈香華族〉と少数派の〈月読族〉の間には、以後数百年に及ぶ内部抗争が繰り広げられるようになったのでござりまする。


――この抗争に決着をつけたのが、第三代〈聖香華〉でござりまする。千五百年ほど前のこと――。ウル大帝国が滅亡した頃でございました。

 第三代は、〈香華族〉の嫡流であられました。彼女は、歴代〈聖香華〉の中でも最強の力を持ったと言われておりまする。第三代が手を結んだのは、ウル大帝国の片隅で生まれた小国のカトマール王国。

 第三代率いる〈香華族〉の助力を得たカトマール王家は、ウル帝国の後継国として皇帝家を名乗り、その時点から、〈香華族〉との婚姻関係を結ぶようになったのでござります。


――されども、その代償は決して小さなものではありませなんだ……。

 第三代〈聖香華〉は、カトマール皇帝家の武力と政治力を用い、〈月読族〉を「異端」と断罪して、中央から追いやりましてな。〈月読族〉の主流を処刑いたしました。そのとき、〈月読族〉は、自分たちの中で最も異能の力が強い若者や子どもたちをひそかに逃がしました。これこそが〈弦月〉――。各地に〈弦月〉の血統が離散することになったのでござりまする。

 「正義」とは、じつにあいまいなもの。「正義」の名の下に、同じ神を奉ずる同じ一族が互いに殺し合いました。この恩讐は、いまも続いておりまする……。


――〈月読族〉の一部は谷に隠れ住みました。

 第三代は、谷に逃れた〈月読族〉を〈はぐれ香華〉と読んで公職や祭祀から排除したのでござりますが、撲滅するにはいたりませんでの。罪に問うたのは、虐殺や拷問などの犯罪行為のみ。宗教的な感情や異能そのものを処罰することはなかったのでござりまする。

 こうして、〈月読族〉は、〈月読族〉と名乗ることを許されず、〈はぐれ香華〉という蔑称を甘受しながらも、カトマールの小さな谷で細々と存続することとなりましてございまする。あなたさまが訪れた〈忘れられた村〉の民こそが、彼らの末裔……。

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