Ⅹー3 木片の謎
■合宿成果発表会
しばらくして、櫻館の大広間でカトマール合宿の成果発表会が催された。合宿には学校から補助金がでている(微々たるものだが)。報告書作成の必要があったからだ。
同好会合宿は遊びではない。「教育」の一環なのだ。
合宿参加者全員と櫻館の全員に参加要請がかかった。
発表会は子どもたちにとっては晴れ舞台だ。サキの配慮で、橋の下の仲間たちも招かれた。ケマルもヤンもケイもだ。ムトウもカゴロもハナちゃんも赤ちゃんも招かれた。
レオンも一時的に戻ってきていた。彪吾がうれしさではちきれそうな顔をしている。
旅から戻ってきたばかりのヤオは控えめに最後部に座った。最前列に彪吾と並んで座るレオンの横顔が見える。やはり、ファウン皇帝によく似ている。だが、香華族の香りはしなかった。
ジェシンはキュロスとケイがしっかりつなぎ止め、レオンに近寄れないようにした。それが、ジェシンを櫻館に入れる条件だったからだ。サキは担任教師として、最前列の端――レオンの隣――に座っていた。
ジェシンは思った――やっぱり! でも、ゴ・ク・ヒだ。特に子どもたちに気づかれないようにしなくちゃ! ジェシンは一人で勝手に盛り上がった。
カコは赤ちゃんに興味津々だ。
やたらとカコが手を出すので、赤ん坊がぎゃーっと泣き叫ぶ。その都度、ハナちゃんはみんなから少し離れて赤ん坊をあやした。カコがミミを抱いてついていく。発表会よりは、動くおもちゃのような赤ん坊のほうが見ていて絶対におもしろい。赤ん坊が、カコの胸につけられたふわふわウサギのブローチに手を伸ばした。よだれがべとっとつくが、カコは気にしない。ミミはおとなしくカコに抱かれている。
ハナちゃんがソファに赤ん坊を横たえ、おむつを替え始めた。カコはそれをじっと見ている。自分もしたいようだ。ハナちゃんがカコを呼んで、手伝いながらカコに赤ちゃんを触らせた。カコはニッとしている。お姉さんになった気分だ。
下ろされたミミはカコのそばを離れ、階段を昇って行った。どこからか、ほのかにとてもいい匂いが漂ってくる。
みんなそれぞれパワーポイントをつくって、十分ずつの発表に臨んだ。サキに鍛えられているので、なかなかの仕上がりだ。
途中で余興にリトが写真会を挟んだ。大笑いが続く。リトは、いい表情と見ごたえのある景色を切り取るのがじつにうまい。キキもモモも写真の中で大活躍していた。
最後に、風子の発表がはじまった。風子には、アイリの村で聞いた「始まりの歌」の解説がサキから命じられていた。歌の内容をオロに確認しながら、風子なりに一生懸命調べた。
報告を聞きながら、マロの顔がしだいに青ざめていった。――これは、ミグル神謡の一部。オロはこれが何かを知らずに風子に協力したようだ。
「始まりの歌」は、託宣神事の冒頭に神に捧げる歌だ。ミグルの神琴と神琵琶を使って神を呼び出し、特殊な木簡を火にくべて、神と一体化して予言を得る。その木簡も材料となる木片もいまはない。
匂いはリトの部屋から漂っていた。ミミはドアの前にチョコンと座った。ドアは閉まっている。だが、匂いが漏れる。フッとミミの姿が消えた。
次の瞬間、ミミはお目当ての木片を手にして、懸命にそれを舐めた。リトの部屋のデスクの上だった。気持ちよすぎて、木片を抱いたままミミは眠ってしまった。
夜、部屋に戻ったリトは仰天した。
白い毛玉が机の上にころがっていた。よく見るとミミだ。リトは、あわててカイを呼んだ。眠りこけたミミをそっとタオルでくるみ、リトとカイは、ばあちゃんとサキの小屋に走った。
■ミミの力
「部屋にも窓にも鍵がかかっとったんじゃな?」
「うん!」
「あの時、カコが確かにこのネコを抱いておったの。ならば、この白ネコはドアをすり抜けたということか?」
ばあちゃんがじっとミミを見つめている。
「そんなことできるもんなのか?」サキが驚いている。
「物体をすり抜ける異能です。なぜ、このネコがそんな異能を持っているのかまではわかりませんが……」
カイも驚いていた。カイはミミの額に二本の指を当ててしばらく目を閉じた。
リトがミミから木片を取り上げようとしたが、ミミは固く握って離さない。寝たままなのに……。
ばあちゃんが何事か唱えると、ミミがはっと目を覚ました。その拍子に木片がミミから離れ、リトがさっと取り上げた。ミミは口惜しそうにニャーニャーと騒いでいる。それを聞きつけたのか、クロがやってきた。ミミはクロのところに駆けていった。ばあちゃんが木片を握り、袖に隠した。そのとたん、クロもミミも木片のことを忘れたように、小屋から出て行った。
ばあちゃんが結界を張った。これで匂いは漏れない。
改めて木片名札を見ると、ミミが舐め回したらしく、よだれでびちょびちょだった。この木片は、人間には火で熱しないと効果を発揮しないが、ネコにはこのままで香りが効果を持つらしい。嗅覚が鋭いモモはまったくこの木片に無関心なので、ネコだけなのだろう。しかも、すべてのネコというわけではない。クロとミミだけが嗅ぎ取ることができるらしい。
カイが言った。
「あの子ネコは、舎村で黒いネコに拾われたようです。それまではだれか男性に世話をされており、そばには瀕死の母ネコが横たわっていました。部屋にはさまざまな実験道具がありましたので、どこかのラボでしょう」
「ネコの記憶を読み取ったか?」
ばあちゃんの問いにカイが頷いた。
「断片的な記憶を映像で切り取りました」
「あの子ネコは何かの実験で生み出されたのかもしれんのう……。特殊な力を持つネコのようじゃ。その力がわかると狙われるぞ。しばらく櫻館から外に出さん方がええだろう。拾い親の黒い方はどうじゃ?」
「アイツは普通のノラネコだよ。だけど、嗅覚がすごいんだ。オレが気配を消しても嗅ぎ当てることができる。だからアイツがいると助かる。いまはオレの相棒だ」
「そうか。それは頼もしいの。動物の力はあなどれん。ならば、クロネコを使えば、木片の在り処はわかるということじゃな?」
「そ……そうか。たしかにそうだね! クロなら見つけてくるよ。きっと!」
櫻館から送り出して二日後、クロの動きが止まった。クロの首に付けた発信機で位置を特定できた。みんなが唖然とした。――ウル遺跡がある島だった。
カイとリトが急行した。クロは、遺跡のそばで泥まみれになって横たわっていた。雨上がりで柔らかくなった土を掘り返し、木片を見つけたようだ。木片の本体は何かに固定されており、取り外せなかった。
クロは木片をかじってその欠片を抱えたまま、トロンとなっていた。木片を固定したものは、長方形の木箱だった。リトはそれを掘り出し、ばあちゃんの小屋に運び込んだ。
帰還したクロには、ご褒美に茹でた鳥のささ身がたっぷり提供された。クロは一家のみなとそれを分け合い、満腹になってぐうぐうと寝入った。リトのミッションを果たすために、二日間不眠不休で働いたようだ。




