Ⅵー8 エピローグ――ファミリーごっこ
■祭りの土産
キュロスはそわそわしていた。まもなくミオとカコが櫻館に来るはずだ。掌には、ラッピング済みのカトマール土産。
来た!
「パパあああ! 肩車してええ!」
カコがキュロスめがけて突進してきた。
――え? オロじゃないの? なんで、パパ?
リトがビックリして見ていると、キュロスはうれしそうにカコを抱き上げて、肩車した。
サキがポロっとタオルを落とした。オロはミミを抱えたまま硬直している。シュウと風子がうれしそうに、キュロスとカコのそばに駆け寄った。
――フフン!
ミオが勝ち誇ったように、サキを見ている。
キュロスはカコを肩車に乗せて、庭に出た。シュウと風子が手をつないでついて行く。
いったい、いつファミリーになった?
しばらく歩いてカコが満足すると、キュロスはカコを芝生の上に下した。そして、胸のポケットから小さな包みを取り出した。
「ほら、パパからのお土産だよ!」
「うわあああ!」
カコが大喜びしている。芝生に座り込み、小さな手で一生懸命包みをほどいている。中からは、小さな白ウサギが現れた。ふわふわの毛に包まれたウサギのマスコット人形のブローチだ。目が紅い。
「かわいいいい!」
カコが飛び跳ねて喜んだ。カコが服に付けてとねだる。キュロスは、かがみこんで、カコの胸あたりにつけてやった。
チュ!
カコがキュロスにキスした。わわわ……キュロスがひっくり返りそうになっている。リトは噴き出した。五歳児のキスにたじろぐなよな。あ……そういえば、オレもキス経験はカコからのチュ以外になかった……。
「いったいどうしたんじゃ?」
ばあちゃんが出てきた。さすがにばあちゃんにはごまかしは通用しない。ミオは、顛末を告白した。
来週、保育園で保護者参観があるのだとか。多くの子は二人の親がそろって参加する。アカデメイアでは母親だけのワンオペは時代遅れのカッコ悪いこととみなされているからだ。ママ二人、パパ二人の子もいる。カコの場合はいつもママだけの参加だ。
パパも参加しようと頑張るのだが、映画制作に追われて、時間が自由にならない。もちろん、シングルマザーもシングルファーザーも多いので、一人だけの親の参加の子も少なくない。おじいちゃんやおばあちゃんが一緒の子もいる。
なぜか人数勝負にこだわるカコは、親二人が参加する子がうらやましかったようだ。なので、来週まで、キュロスはパパになりきるのだという。ついでに、シュウと風子もお兄さんとお姉さんになりきるのだとか。
■あこがれのファミリー
櫻館のメンバーがぞろぞろと集まって、キュロスとカコを囲む五人のファミリーごっこを見物している。
シュウと風子を見ながら、リトは悟った。
――なんでも持っているハイスペック美少年が、なにももたない平凡女子を好きになる物語にはムリがあるけどさ。なんでも持っているように「みえる」ハイスペック美少年が、何も持っていないように「みえる」平凡女子に惚れることはありうるかもね。
シュウは、美貌・知能・財力のいずれも特別に秀でるが、体力も腕力もない。風子は、美貌・知能・財力のどれもイマイチだが(財力はほぼゼロだが)、コミュ力ゼロの天才問題児アイリやオロを手懐ける力がある。その力は非凡だ。逆境にも強い。メンタルもタフだ。風子は天性のリーダーなのかもしれない。シュウは、そんな風子に惚れたのだろう。
一番うらやましそうに五人のファミリーごっこを見ていたのは、彪吾だった。レオンはまだカトマール。講義のため、彪吾だけ、一足早く櫻館にもどってきた。
彪吾は、五歳の自分を思い出していた。父と母がいて、とても愛された子ども時代だった。だが、自分の子どもなど想像したこともない。
――いいなああ……。
彪吾の頭の中で、キュロスとミオとカコが、レオンと自分と姿の見えない子どもに置き換わった。
――レオンの子なら、うれしいなああ。ボクは、その子を死ぬほど大事にするよ。




