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月下の神殿――銀麗月と聖香華  作者: 藍 游
第六章 月下のルナ大神殿
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Ⅵー2 カトマールの古都ルキアへ

■カトマールへ

 秋の学園祭の時期、〈蓮華〉でもさまざまなサークルが出し物を行い、一週間ほど授業が休みになる。


 古代文化同好会メンバーは、サキの引率のもと、リト、カイとカムイも加わって、ルナ大祭典準備を兼ねた調査合宿としてカトマールの首都ルキアに向かうことになった。モモとキキも連れていくため、子どもたちはキュロスが運転する立派な車に乗り込んだ。


 サキのオンボロ車がそれを追いかける……はずだった。だが、出発前日にサキの車がつぶれた。キュロスの車はすでに定員いっぱいだ。


 そこでサキはひらめいた。

――アイツの車がある!


 ムトウはサキからの電話に震えあがりながら、受話器をイ・ジェシンに渡した。ジェシンの目が輝く。

「もっちろんですよ! すぐに用意します!」

 二つ返事で何を引き受けたんだか……。ムトウは背筋が凍った。


 ジェシンが胸を張って宣言した。

「明日から一週間、カトマールに出張する!」

 おいおい、いくらヒマだからって、ドロップ建設事件の依頼はどうするつもり?


 ジェシンはどこ吹く風。まあ、ジェシン一人で行くならムトウも困らない。

 ウキウキ気分でジェシンが言う。

「サキ先生からの伝言だよ。うちの車を使いたいってさ。ケイも連れてこいって」

「ホントですか? ケイ「も」じゃなくて、ケイ「(だけ)を」じゃないんですか?」

 ムトウは半信半疑で――いや、確信をもって尋ねた。

「さあね? ま、ボクの車だし。ボクがいくのは当然だろ? じゃ、明日の準備があるから帰るね。ケイへの連絡と車の準備、頼むよ!」


 ジェシンはスキップしながら帰っていった。ムトウの隣では、スラがひたすら机を磨いている。

(サキはぜったいにジェシンなど望んでいない)……でも、雇用主の所長にそれは言えない。


■出発

 翌日、集合場所は櫻館だった。

 キュロスの車に続き、ジェシンのピカピカの車が到着した。今日のジェシンは付け髭をつけ、名探偵ポワロのようないでたちだ。全員がのけぞった。


「おい、イ・ジェシン! なんで来た? おまえなんか呼んでないぞ!」

「だって、ボクの車だよ~。もれなくボクがついていても不思議じゃないでしょ?」

 ケイが車から降りて、サキに小さな声で詫びた。(すみません……)


 キュロスの車には〈蓮華〉の子どもたち(風子・アイリ・リク・シュウ・オロ)と、リト・カイ・カムイが乗り込んだ。ジェシンの車には、運転するケイの隣にジェシン、後部座席にはサキとばあちゃんが乗った。ばあちゃんが、亡き妹メイが暮らしたカトマールを一度見てみたいと言ったのだ。


 小じいちゃんも行きたくてウズウズしていた。気配りの人キュロスは、小じいちゃんのための座席を最後部に設け、カイを挟んでリトと小じいちゃんが並んで座ることになった。


 はじかれたカムイは、やむなくカラスの姿に。

(くそおっ! リトからカイさまを守るつもりだったのにいぃ~!)

 しかし、キキと並んで床に寝転ぶと、機嫌はすぐに直った。シートベルトで縛られるより、ふかふかのクッションの上で寝転ぶ方がずっとラクだ。


 小じいちゃんは、憧れの天月修士、しかも〈銀麗月〉たるカイの隣で興奮しっぱなしだ。

「ほんまにきれいじゃ」「動きにまったくスキがないのう」「なにをしても優雅じゃ。天月武術の極みじゃな」

 称賛を隠さない小じいちゃんにさすがのカイも一瞬照れたようだった。

「リトよ。このお方に出会えたことを天に感謝するんじゃぞ。カイどののすべてをよおく見て、寸分たがわずこころに焼き付けておくんじゃ。おまえの人生の大切な、大切な(かて)になろう」

「うん!」

 リトがNOというはずはない。


■道中

 途中のパーキングエリアで二度休憩をとった。

 最初の休憩では、サキがジェシンの付け髭を引っぺがしてゴミ箱に捨てた。


「うわああ! なんてことするの?」

 泣き声のジェシンに、サキは鬼の形相で言い渡した。

「このパーキングエリアに置いてけぼりにされたくなかったら、わたしに従え!」


 ばあちゃんがこそっと尋ねる。

「アレは、〈王の森〉にもきておった青年じゃな?」

 サキは苦虫をかみつぶしたように頷いた。


 夏前、サキたちは「湖に浮かぶ水晶の神殿」を確かめるためにシャンラ王国の〈王の森〉へ向かった。そのとき、誘いもしないのにイ・ジェシンがついてきて、何かと邪魔をし、サキが切れたのだ。

(アイツはいつも邪魔ばっかりする!)


「信じられんが、アイツは大学でレオンの同級生だったんだ。いまは無能弁護士として有名だ」

「ふーむ。あそこまで突き抜けてバカっぽいのは、いっそ見事じゃな。立派な忍びになれるぞ」

 サキは絶句した。アイツが忍び! 決して目立ったらいけない忍びだって? 絶対にありえないだろ? 

――絶対にありえない? ……だから、いいのか? 


 ばあちゃんは、ジェシンに買ってもらった好物のかりんとうを、ポリポリとおいしそうにかじっていた。


■古都ルキア

 ルキアに着いたのは夕暮れだった。


 十分な休憩をとったものの、ジェシンもサキも途中から寝てしまった。しかし、運転していたキュロスもケイもまったく疲れを見せない。鍛えようが違う。

 ばあちゃんもずっと車窓から景色を眺めていた。さすがだ。


 キュロスの車では誰一人居眠りしていない。女子衆もシュウも元気に菓子をつまみながらおしゃべりし、リトたち三人は武術談義で盛り上がっていた。

 動物たちは別だ。カラスをネコが抱き、ネコをイヌが抱いて、二匹と一羽が異種団子になって寝転んでいる。モモはくうくうと寝息を立てていた。


 古都ルキアは美しい街だった。内戦で破壊された建物はこの十年間でほとんど修復され、往年の栄華を取り戻しつつある。ただ、元皇宮だけは巨大すぎて修復が追いつかないらしい。夕陽を浴びたその姿は、人の気配がない広大な敷地の奥に静かに佇んでいた。


 一行は、ルキアの中心部にある最高級ホテルに泊まった。

 キュロスが予約係を譲らず、宿泊費も自分が持つと言い張った。サキに任せると、またとんでもなくオンボロ宿になる。一週間も滞在するのにセキュリティがない宿だと、キュロスの負担が増える。サキもやむなく同意した。


 ウル舎村古城の格式には劣るが、櫻館を上回る立派なホテルだ。みんながフロントでワイワイしていると、彪吾がやってきた。そばにはレオンもいる。


「うわあああ! レオ~ン!」

 ジェシンが走り出した瞬間、サキが羽交い締めにした。


「イ・ジェシン! 絶対にレオンに近づくな! マジで骨を折るぞ!」

 ジェシンは苦痛で顔を歪める。その間にキュロスが子どもたちを誘導し、レオンたちとともに姿を消した。それを見届けて、サキはジェシンの腕を放した。

「サキ先生! ひどいじゃないか! なんでレオンに近づいちゃいけないのよ?」

「レオンは忙しいんだ。おまえの相手をしているヒマなどない」


 そう言い放ち、サキはエレベーターに乗り、ジェシンの目の前で扉を閉めた。閉まる直前、アッカンベーをしたサキの顔がスッと隠れた。


 ジェシンも最上階に行こうとしたが、エレベーターは動かない。VIPフロア専用で、専用キーカードが必要なのだ。


 がっかり――だが、そこはイ・ジェシン。めげない。


――見学調査できっと会えるはず! 明日は思いっきりおしゃれに決めよう!


 ホテルはラウ財団系列で、レオンの常宿だ。キュロスの依頼でレオンが部屋を手配したらしい。彪吾は数日前、講義を終えてすぐ飛行機でやってきたという。まるで櫻館がそのままカトマールに引っ越してきたようだ。

 最上階のVIPフロア全体が貸し切られ、専用ラウンジもある。みんなで食事をとり、打ち合わせをするには好都合だった。もちろんモモやキキも泊まれるよう、レオンが手配してくれた。


 目的は物見遊山(ものみゆさん)ではない。ルナ大神殿の遺跡確認、月神殿の確認、そしてルナ神話ゆかりの地の訪問だ。動きやすいように、わざわざ車で来たのもそのためである。

 打ち合わせでは、明日からのみっちりとしたスケジュールが組まれた。

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