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月下の神殿――銀麗月と聖香華  作者: 藍 游
第三章 神秘の洞窟
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Ⅲ-3 ラビットくん――リト日記(1)

■まさかの二股疑惑⁉

 音楽茶房〈ムーサ〉では、カンクローに替わってアルバイト仲間になった文学部同期の友人ディーンが、実力発揮だ。ディーン目当ての女性客が増えたような気がするぞ。


 アイリに聞くと、そっけなく返された。

「そんなヤツは知らん!」

 カトマール国費留学生はルナ大祭典向けの学生企画をしていて、オレもディーンに誘われて参加している。でも、アイリは誘いを一蹴したという。

 風子によると、アイリは交流会なるものにはいっさい参加しないんだとか。食べ物もしょぼく、他人と付き合うのはまっぴらごめんということらしい。このアイリのそばにいることができる風子はたいしたもんだ。


 優等生ディーンは、単位取得にまったく苦労しないんだって。オレが単位を取れないのを不思議がっていた。不思議って言われても、現実なんだもん……なんだか自分が情けない。

 ディーンは語学の天才らしい。ドイツ語だけじゃない。日本語も含めて、各国言語を駆使できる。文学専攻で、各国言語を学ぶのは、文学研究を究めるためらしい。そんなヤツもいるんだな……。

 この前もオレが悪戦苦闘しているドイツ語のノートをまるまるオレに譲ってくれた。毎回テストの出題予想までしてくれて、ばっちりヤマが当たり続けている。

 「鬼のザビーナ」が疑わしそうに、テスト中にオレのそばで張り込んでいたけど、カンニングなんかしてないぞ。オレは記憶力はいいんだ。ディーンが教えてくれたことは丸暗記している。ただ、それ以外のことがわからないだけだ。

 なんで、動詞が二つに分かれたり、名詞に性があって、冠詞が違ったりするんだ? おまけに、現在完了形だと、過去分詞が文章の最後にきちゃう。わからん! 日本語のゆるーい文法に慣れていると、ドイツ語の堅苦しい文法についていけない。そこで悩み過ぎて躓いていたけど、ディーンのおかげで、ドイツ語はちゃんと単位が取れそうだ! 何かお返しをしなくっちゃ。


 悩んだあげく、一緒にテーマパークに行くことにした。大の男二人がそろってテーマパークなんて、恥ずかしいよな。でも、ディーンは幼い時に親を失って、楽しい思い出がないんだって。ジェットコースターにすら乗ったことがないというから、それなら、アカデメイア一と評判のジェットコースターに乗ってみようということになった。


――楽しかった!

 ディーンは、普段の落ち着き払った態度ではなく、わあわあと絶叫しながらジェットコースターを本気で楽しんでいた。この優等生にこんなおちゃめな面があるなんて!

 二人でアイスクリームを食べていたら、向こうに見慣れた顔! ミオ姉とカコじゃないか! なぜか、シュウと風子、キュロスさんまでいるぞ! サッと隠れようとしたが、遅かった。カコが飛んできた。


 カコはディーンの足にまつわりつき、こう言った。

「おにいちゃん、とってもきれい!」

 ミオ姉まで小走りに走ってきた。

「あらまあ。リトのお友だち?」

「うん、大学の同級生……」

「はじめまして、ディーンと言います」と、秀麗な顔に極上の笑みを乗せて、ディーンが挨拶した。美男子好きのミオ姉は大喜びだ。

「あらあ、リトの姉のミオです。よろしくね! こっちは娘のカコ」

 ミオ姉はオレの袖を引っ張って、コッソリ言った。

(あんた、やるわね! 二股かけてんの?)


――二股? なんだ、それ?

 

 オレの言い分など聞きもせず、ミオ姉はカコの手を引いて、キュロスさんのところに走って戻った。

 ディーンは、気おされたような顔で、ビックリしていた。そりゃそうだろ。ミオ姉とカコはエネルギーの塊だもんな。

 

 テーマパークを出て、二人で古書店に向かった。オレの行きつけの店があると言うと、ディーンがぜひ行きたいとせがんだ。いくつか絶版になっている本がほしいんだとか。

 店主のおばあさんに挨拶して、二人であれこれとしゃべりながら本を選んでいると、なんと、カイが来た。

「あれ! カイ修士!」

 オレが屈託なく声をかけると、カイはわずかに頷いたが、隣のディーンに気兼ねしたようだった。カイはいくつかの本を手に取り、カムイが代金を支払った。ガラス戸付の戸棚に置かれていた古書だから、相当高価なはずだ。店主が大喜びしていた。


 カムイが出る前にオレの袖を引っ張って、コソッと毒づいた。

(おい、リト。二度とカイさまに手を出すんじゃねえぞ! 二股なんて許さねえからな!)


――二股? どーいうこと?

 

 ミオ姉といい、カムイといい、なんかすごく誤解してるぞ。心なしか、カイの目が冷たかったような気がする。

 カイに気を取られていたオレは、隣でディーンが微妙な顔をしていたのに気づかなかった。呆然とカイを見送るオレに、微妙な表情のまま、ディーンが言った。

「あの人が天月修士?」

「うん、そう……。春から博物館に来ている」

「ふうん。聞きしに勝る美男子だね。親しいの?」

「いや……親しいというか、何というか……」(オレが好きなだけ、とは口が裂けても言えない)

 ディーンはいっそう微妙な顔をして、ちょっと微笑んだ。

――うわっ! この微笑みは必殺ものだ!


■ラビットくん

「疲れたから、ちょっとカフェにでも寄らない?」と、ディーンに誘われた。

 二人で人気のカフェに出向いた。どうも女子たちの注目を浴びている気がする。ディーンのせいか?

「ウフフ」とディーンが笑った。

「どうしたの?」

「どこに行っても、キミは人気者だね。ほら、女性たちの目をくぎ付けだよ!」

「いや、この視線はキミがいるからだって!」

「ウフフ。キミはホントに自分の価値がわかってないねえ。それがキミのいいところだけどさ」

「は?」

「ラビットくん、ほら!」

 ディーンは、スマホをオレに見せた。


「うそおおおお!」

 〈ムーサ〉の客に頼まれて一緒に撮った写真がいっぱいネット上にアップされている。

 「ラビットくんとラブ♡」だの、「食べちゃいたい♡ラビットくん」だの、「今夜はあたしのラビットくん♥」だの……。勝手なコメントがついている。同意した覚えないぞ!

「〈ムーサ〉のファンサービスの一環みたいだよ。キミの名前も住所も履歴も開示されてないから、ギリギリセーフかな」

 オレは思わずふらついた。こんなに目立ってしまったら、九孤忍術なんてできないじゃないか!

「まあ、気を落とさないで。さあ、おいしいもの食べようよ。ボク、このパフェを頼むよ。キミは?」

 ディーンが指さしたのは、栗がたっぷりのマロンパフェだった。

「オレも!」

 男なのに、こんな大きなパフェを頼むなんて、度胸あるよな。


――あ、いかん、いかん。

 「男なのに」なんて言ったら、サキ姉とミオ姉にぶっとばされる!


 うまかった! やけ食いしたパフェはとってもおいしかった! 

 おまけに、古書店を紹介したお礼だとか言って、パフェはディーンがおごってくれた。金欠のオレとしては、超ありがたかった!


 カトマールの国費留学生は、カトマールがアカデメイアと協定を結んでいるおかげで優先的に寮に入ることができるし、寮費と学費はすべてカトマール政府持ち。おまけに、かなりの奨学金をもらえるんだとか。だから、ディーンはアルバイトをする必要はないみたいだけど、社会勉強を兼ねて〈ムーサ〉でのアルバイトを引き受けたんだって。


――とすれば、アイリのあの金欠はなんでだ?


 探偵もどきイ・ジェシンによれば、アイリはいくつかの特許を持っていて、その収入がかなりあるはずだし、特別招聘研究員待遇で相当の給料が出るから、金欠のはずはないそうだ。


――じゃ、なんで、あんなにカネにセコいんだ? タダ飯食いで、いつもくたびれたジャージー姿だぞ。あ。あれは、単にセンスがないだけか。


 数日後、ミオ姉のWEB漫画に二人の美少年が登場した。

――ええっ?

 カイをめぐって、一方通行のラブが追加されたのだ。賢い美少年がカイを追いかけ、ちょっとドジでおバカなスポーツ少年が賢い少年を追いかけている。ひょっとして、賢いのがディーンで、トロいのがオレか? なぜか、オレはウサギをペットにしていて、ウサギにすらしょっちゅう小馬鹿にされている。

(ミオ姉め! あのネット写真を見たな?) 


 シュウとオロと思しき下級生美少年二人は休戦状態で、オレらの追っかけバトルをひやかしながら見ている。格下のオレらには、どうせ勝ち目がないと踏んでるみたいだ。そ……そんな! でも、たしかに、ディーンは、カイに興味を持ったみたいだ……。ヤバい!


■カムイ日記のラビットくん

「カイさま。これですぜ」

 オレは、スマホの画像をカイさまにお見せした。「ラビットくん」満載の画像だ。


 いまどき、やはりスマホは必要だとカイさまがこの前買ってくださった。オレは夢中になって、いろいろと検索してみた。一番うれしかったのは、ルルの動画だ。毎日のようにルルの動画を見て、「いいね!」を押し続けている。


 そのうち、ちょっとしぶい古書店を検索で探しあてた。カイさまに申し上げると、本を探したいとの仰せで、二人で行ってみた。すると、アイツがいた。リトだ。なんと、眉目秀麗な青年と同伴だったぞ。


――けしからん!

 リトはカイさまに懸想(けそう)してたんじゃなかったか? なのに、カイさまより格下の男とデートするとは! 二股かけるなどぜったいに許さん!


 だが、待てよ。考えてみると、リトがあの男とくっつくなら好都合じゃないか。格下同士で似合っているぞ。

 それにしても、あの男はいったいだれだ?

 ググっていると、リトの写真がいっぱい出てきた。


――ラビットくん? なんじゃ、これ? 


 かわいい女の子たちとのツーショットがいっぱいだ。しかも、全部相手が違う! むろん、ルルには遠く及ばないが、十分にかわいいじゃないか!


――くそう! あのヤロウは、女の子もたぶらかしているのか? なにがラビットくんだ!

 

 カイさまは、オレがお見せしたあの十股ヤロウの画像を静かに見ておられた。何もおっしゃらなかったが、ほんの少し、きれいな瞳が翳った気がする。


――やった! 

 カイさまはリトを軽蔑したにちがいない。

 天月密偵に調べさせたところ、あのときリトと一緒だった男は、カトマールからの国費留学生らしい。超エリートじゃないか!


 あれこれ検索していたら、WEB漫画に出会った。とあるBL漫画が大ヒットしているらしい。作者はなんとあのド派手なミオだ。ということは、主人公の美少年はカイさまか? カイさまをめぐって、櫻館の面々がラブバトルを展開しているぞ。ちょっとトロめのウサギ好き少年がリトか?

 あの女もたいがいだな。実の弟をここまでこきおろすなんぞ……。だが、リトにはこれで十分かも!


 このWEB漫画は、さすがにカイさまにはお見せできない。カイさまは恋愛バトルとは無縁なお方だ。オレだけこっそり見ておこう。

――カイさまには申し訳ないが、めちゃくちゃオモロイ!

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