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第5話「ダッシュと奪取」

大学の講義棟、午後。四限目。

シュートはふと右側に目をやる。

後方席で、酒樽はいつものようにペットボトルの水を口に含んだ。しかし、実は中身は焼酎の水割り。ラベルは当然普通の水のもので、堂々と飲む。もはや芸術の域に達している偽装ぶりだった。


(まぁ、人に迷惑かけてないし、いいのかな?)

シュートは自分の感覚がズレて言っていることに気が付いていないようだが、それを指摘出来る人はいなかった。


そんなことでしばらく様子を見てみると、酒樽は前の席の女子が落としたシャーペンを拾ってやったり、教授に配布資料のミスを指摘するなど、模範的な学生ムーブを見せていた。

(講義中に酒飲んでる以外はマトモなんだよな。アイツ。)


その様子を横目で見ながら、シュートは講義に集中しようと朝買ってまだ飲んでいなかったお茶に口をつける。その時、

「せ、先生!トイレに行ってきます!」

講堂に声が響く。マイクを使っている教授よりも遥かに大きな声で彼は宣言した。

「ど、どうぞ。」

「ありがとうございますうぅぅ…」

ドスドスと大きな足音を鳴らしながら、言い切る前にドアを通り抜け廊下に声を響かせながら消えていった。

学生たちからはまたか、と呆れる声やクスクスと笑う声が聞こえた。

(あいつ、留年生だったかな。あんな細身なのにどうやってあんなに足音を響かせられるんだ?名前忘れちまったな…あとで酒樽に聞くか。)

そんな事を考えていたらまたドスドスと大きな足音を響かせながら彼が帰ってきた。

(早かったな。急に行きたがるから腹を下したと思ったが小さい方だったのか?)




講義終了のチャイムが鳴った。

よし、今日の講義はこれで終わりだと講堂を出ようとしたその時——


『ガッシャーッン!』


前方から大きな音が響いた。見ると、酒樽が傘立てに突っ込んで倒れていた。

ざわつく講堂


「大丈夫かよ……」

「滝間くん大丈夫?」

「いてて……まぁ大丈夫大丈夫!段差踏み外してダンサーになってしまったぜ!」と、酒樽はおどけてピース。


周囲に笑いが起きる。が、その顔はほんのりと赤かった。



(照れか?いや、あれは…)



——テラスにて。


シュートは酒樽を見つけて声をかける。


「……お前、いつもより顔赤くないか?」


「うーん、ちょっと酔いが回ったかも……」


「お前が?一体何リットル飲んだんだよ」


「いや、むしろ薄めすぎたくらいなんだけどな。おかしいな……」


「入れる時点で酔ってて分量ミスったんじゃねーの?」とからかうシュートに、酒樽は「それはねぇ」と即答した。


シュートも喉が渇いて、お茶を取り出し飲む。が——


「ぶっ!……苦ッ!」


「どうした?」


「お茶が、めちゃくちゃ苦い……てか、あれ……?」



(こんなに飲んだか?)

1時間ほど前に1回だけ口をつけただけのはずのお茶は半分以下になっていた。

「量が明らかに減ってる。だけど、ただ減ってるんじゃなくて濃くなってる…。」


2人は顔を見合わせた。酒の回り方、苦いお茶、減っている量——



「もしかするとお前がいつもより酔ったのは、入れる量を間違えたんじゃなくて、水分だけが減って酒が濃くなったからなのでは?」


「……まさか、吸われてる?また異能力者か…。」


「いや、誰に…?というか何のため?」

「俺の酒を濃くしてなにか恥をかかせてやろうという可能性はありえ無くはないが、シュートの茶まで濃くする意味がわからん。」

「俺らを2人とも恨んでいる奴がいるってことか?」

「心当たりあるか?俺は無い。」

「俺もねぇよ。名前も知らない奴が半分くらいだし。」

「…ここで言い合ってても埒が明かないな。まずは調査しよう。」

酒樽が切り出す。

「調査ってどうするんだ?」

「まず能力の対象を調べよう。無差別タイプだったら他にも被害者がいるはずだし、俺らに対して悪意を持っている可能性は下がる。」

「なるほど、もし他に被害者がいない。つまり俺たちだけに絞って能力を使ってきているとしたら…」

「今後何かしらの更なる接触、あるいは嫌がらせ、最悪襲われることもあるかもしれん。」

「じゃあ、手分けして聞き込みと行くか。」

2人は一旦解散し、進展があったら連絡することに決めた。

シュートはまだ講堂に残っていた3人組に声をかける。

「よう、光晴、ミヤ、ユータ」

「おっ。シュートか。忘れ物でもしたか?」

たまに一緒に課題をやったり、飲み会にも誘い誘われる程度の関係性の奴らだ。

「さっきここで講義受けてただろ?気付いたらあんまり飲んでないはずのお茶がかなり減っててよ。同じことが起こってるやつが居ないか探してるんだ。」

「なにそれ?怪奇現象?」

「聞いたことないけど…ドッキリ?」

「なにか企んでんの?」

「お前ら…。とにかく、なにか飲み物持ってたら減ってないか確認してくれないか?」

3人はそれぞれカバンの中からペットボトルや水筒を取り出し確認する。

「あれ。なんか減ってるかも。」

「まじ?」

「俺は変化ないと思う、というか元の量を覚えてない。」

減ったかもという1人にシュートは問いかける。

「味は変化してたりするか?」

「飲んでみる。

…んー特に変化はないかな。ただの水。」

「水かぁ。」

水では、味の変化は少ないだろう。だが、確かに減ったという情報を得ることが出来た。

「ありがとう。助かったよ3人とも。」

「なんか分かったら聞かせてねー。」

「おう。」

他に誰かいないかと周りを見渡そうとした時、ドアの外に誰かが動くのが見えた。

(誰か…聞いていたのか?まさか犯人?)

即座に廊下へ出るが、もうその姿は見えなかった。

「なぁ、さっきまで外に誰かいたか?」

「うん、いたよ。確かあれは山崎くんかな。」

ユータが答える。

「ああ。アイツか。確か本名は山崎竜馬やまざき りょうまだったかな。」

「今日も目立ってたね。」

「山崎って誰だっけ?」

シュートにはピンと来なかった。

「あれだよ。講義中によくトイレにドタバタと走っていく人。今日もやってたし、ほぼ毎日だよね。」

「アレか。」

「またトイレかね。」

「まさかー。あれ、シュート、帰るの?」

「ああ。ありがとう3人とも、また明日。」

「じゃあねー」


(ふむ、山崎か。覚えておこう。なんか怪しいし。)

そろそろ酒樽に連絡するかと思った矢先、向こうから既に連絡が来ていた。またテラスに集合とのことだ。


「有力な情報が得られた。」

「こっちもだ。」

「シュートから聞かせてくれないか?」

「いいぜ。3人に聞いたんだが、ユータがペットボトルの中身が減っていたらしい。ただ、水だったから味が濃くなっているかはわからなかった。あと、山崎ってやつが話を廊下で聞いてたようだったんだが話は聞けなかった。」

「なるほどな、ふんふん、俺の考えは当たっているようだ。」

「そっちのを聞かせてくれよ。」

「当然だ。俺は何人かに聞いたら、2人が量が減った気がすると言っていたんだ。そこでもし能力に有効範囲があるなら、と仮定してこれに書き込んでみたんだ。」

そう言うと、酒樽は1枚の紙を見せてきた。

それは講堂の座席表。うちの大学では、出席を管理しやすくするために座席は基本的に固定なので、座席表が存在する。それを見てみると、4つの丸が付いていた。

「これは俺たち2人を含め、飲み物の中身が減っていた人達を示している。そして、ユータの席にも印を付けよう。」

「…!!これは!」

「やはり、正ではないが五角形だ。そして、その中心にある席は…?」

「……山崎 竜馬…。アイツが?」

「話を聞いているうちに、2人とも俺らと席が近いなと思って考えてみたんだが、もしかして正解か?」

「可能性はある。ここまできたら、直接聞いてみるか。」

「そうだな。じゃあまた手分けして探すか。まだ大学に残っていればいいんだが…」

「その必要はないよ。」

背後から声がした。

2人は驚きのあまり立ち上がる。

その声の主は噂の本人、山崎竜馬だった。







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