藍色
私は、気が付いたら其処に居て、其処には全てが在った。ぼんやりとした記憶。体温。言葉。身体と、其処に入った心臓。私は全て在るままに、突然其処に存在したようだった。
空っぽではないモノを与えられて存在した私は、しかし零れ落ちて行くモノを拾う術も穴を埋める術も持たなかった。其れは在ることが当たり前で得るモノではなかった。其れは砂時計の砂で、私はその上の硝子に住んだ。
はらはらと落ちる砂を踏みながら、この時計が返ることがないという事実を感じた。落ちたら終わる。あと幾つであろう。
叩けば割れる足元で、記憶も、体温も、言葉も、全てを持って、何一つ自覚はなくて、そして…そしてただ終わりだけが、たった一つ実感として私を満たした。
終わりは無力さを覚えさせ、酷く怠惰な気持ちを学ばせる。わからないのだから、このままでいいじゃないか、と。
そうして、あゝ、そうして、私に何ができたろう。砂は底を見せ始めている。私は私が其処に突然在らしめられた理由など解らなかった、私には"生きる"と云うものがまるで解らなかった。私はただぼんやりと在った。
そして、其処には、今はもう何もない。