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なんばー14 るなてぃっく

結局あの後キルザルさんに調理を任せることにした。


本当にヤバイものが出てきたら配信を止めてでも何とかするという条件付き。

我々とて苦渋の決断だが仕方がない。


チロメのいる会議室に戻る。



「『色々あってキルザルさんに料理を任せることになりました。ヤバそうだったら配信止めます』」


「『おそらくクルルさんの調理を引き継ぎますので、10分くらいすればできるかと』」



カンペを使って配信中のチロメに伝える。

少し驚いたようにした後こくりと頷いた。


ちゃんと伝わったらしい。



「それじゃあ次の料理が出るまで少し時間があるから、何か一通、送られてきた恋愛相談読もっかな。焦らすようで悪いけど、みんな付き合ってちょうだい!」



時間稼ぎをチロメが始める。

これで料理ができるまで一応場は持つだろう。


後は……



「祈るだけ、ですね……」


「頼みますよ、キルザルくん……!」



ものすごく不安だが、結局私達にできることは神に手を合わせるだけである。

そう思って、色々と不安な心はありつつ待つ。


しかし。



「……来ませんね」


「まずい、まずいですよ……」



チロメにカンペを送ってから2()0()()が経った。

キルザルはまだ現れない。


奴はこんなに時間をかけて何をしている。

料理の行程は引き継いでいるはずなので、そこまで時間はかからないのに。



「えーっと……2通目も読み終わっちゃったね。それじゃあまだもうちょっとかかるみたいだから……3通目いこっか!」


『まだ?』

『遅くね?』

『なんかの事故ですか?』

『来ないならいったん配信抜けよっかな』



チロメの尺稼ぎも限界に達しているようだ。

まだ視聴者数は大きく減っていないが、コメント欄では不安の声が増してきている。状況は芳しくない。


チロメが不安の眼差しを送ってくる。



「キルザルくんは何をしているんですか。そろそろ限界なのに……」



英二さんの額から汗が流れる。

真綿で首を絞められているような状態。


そろそろ限界だ。

この場の誰もがそう感じていた、その時。



「…………」


「キ! キルザルく……」




キルザルが、来た。

相変わらずギョロっとした目を見開いて不気味な様子で立っている。


しかしやっと来てくれた!

この状況がようやく終わる!


チロメが配信をしながらこっちを見ており、安心したように息を吐いている。

私も思わず頬が綻ぶ。


そう喜んだのも束の間。



喜色の表情を浮かべた英二さんが、その顔色を反転させた。



「ッ!? そ、その臭い……な、何で!?」


「…………」



紫色の、鼻が曲がるような腐臭。

禍々しい色合いをしていて、入っている具材も「魔界で獲りました」と言わんかばかりのどキツイ見た目。



――キルザルが恐ろしい鍋をその両手に持っていた。



見た目はやはりルナティック。

まさに狂気の沙汰の鍋。


明らかに日本人向けのものとは思えない。

一応止めたはずなのに!



「い、言ったじゃないかキルザルくん! 日本人向けに作ってくれって! それにクルルの料理の引き継ぎを……はっ! ま、まさか料理が送れたのはそれが原因か!?」


「…………」



答えない。

変わらず佇むばかりである。



「……っ!」



私は鍋ではない()()を見て思わず息を呑んだ。



キルザルの両手が、赤黒い『血』で染まっていたのである。



鍋をつかむその手。

コレからヒトの口に運ばれるであろう鍋をつかむその手。


おそらく調理中にそうなったと思われるが、そんなことはどうでもいい。

何の血かは分からないがキレイなものでは絶対にない。口の中に入ったらどうなるかは考えるまでもないだろう。


圧倒的に、私たち日本人と彼とで、『衛生』に対する価値観が違った。


背中に嫌な汗が流れる。



「…………」


「あっ、ちょ、まっ!」



1人身勝手にこちらの思いを受けとらず、キルザルが鍋を持ちのそのそと歩いていく。


行き着く場所は当然、チロメのところである。



「キルザル、さん?」


「…………」



チロメが少し驚いたように、キルザルはどこまでもマイペースなまま数瞬の間見つめ合う。


その姿は配信にも当然映っている。

視聴者達も思うがままに困惑を口にする。



『なんだコイツ』

『すげー不気味な奴だな』

『僕のクルルちゃんは?』

『なんかめっちゃ手赤くね? 毛皮?』

『鍋がやばそうに見えるのは俺だけか?』



そして闇鍋をチロメの前に置くと、そのまま無言で去っていった。



「あっ、こ、こっちに来るんですね……」


「…………」



帰ってきたキルザルは私の横にドスンと座る。

愛想笑いを浮かべて話しかけてみたがみたが見向きもされなかった。


しかしそんなことはどうだっていい。


今は、チロメだ。

恐ろしいものが目の前に置かれている、チロメ。



「…………」


『これヤバくね?』

『ヤバイ感じのする食べ物な気がする』

『え?放送事故これ』

『チロメちゃんこれ美味しいの?』



チロメは静かに黒い瞳で『鍋』を見つめていた。

絹のように白い肌に湯気が当たっても微動だにしない。


視聴者達は『鍋』の脅威に勘づいたようでざわめいている。


すかさず私も隣の英二さんに確認を取ると、速攻でうんと頷いてくれた。



「『チロメさん、配信止めましょう』」



速攻でカンペを送る。

チロメは私達の方をゆっくり顔を上げて見た後、小さく目を閉じ――ふるふると首を振った。



「なっ!?」



英二さんが驚きの声をあげた束の間。

そこから先は一瞬だった。


チロメはスプーンを手に取って、



「あーんっ」



『鍋』を口に入れた。


あの恐ろしいこの世のものと思えないそれを、こうも簡単に、()()()()()()()()口に入れた。


口を上品に動かした後、喉元にするりと流す。


あまりにも呆気ない食事だった。


普通の人なら食べる前段階で臭いで嘔吐するかもしれないほど凶悪なものなのに。

反応が軽い。



「――うん! 美味しいね!」



そして花満開の笑みを浮かべて、チロメはそう言った。



「確かにちょっと見た目はアレだけど、うん! コレかなり美味しいよ! さっき紹介したスライム覚えてる? アレがお汁に入ってるんだけど、それがすごいよく煮えてて美味しいんだ!」


『マジ?』

『あの見た目で?』

『チロちゃん嘘ついてない?』

『そんなこと……あるのか?』


「いやいやホントだよみんな! この何かの……魚?の目も美味しいんだって! 全体的な味は酸っぱいかな。スライムの酸味な気がするけど……けどその酸味のおかげでお肉とか野菜に味が通ってる気がするんだよね」


『そう言われたら本当に美味しそうな気がしてきた』

『案外いけるのか?』

『まあ今までもゲテモノっぽいのはいくつかあったしな』

『ちょっと気になり始めたぜ』

『食べてみたいかもなー』

『美少女がゲテモノ食ってんの見ると興奮する』



本当に美味しいものを食べたかのようにチロメが鍋をパクパクと食べながら喋る。


あの鍋の邪気からして想像もできないことだった。


英二さんが隣で驚愕している。

私も同じくだけど。



「ま、まさか……本当に、美味しい鍋なのか? あの見た目と臭いだったが……」


「彼がちゃんと作ってくれたんですかね……?」



チラリと件の料理人、キルザルを見る。

しかし相変わらず不気味に無言で座っていた。


少なくともその表情から真相はわからない。



「『伝統』の味、だね! これは絶対いつか流行ると思うよ私は!」



そこからは今までの苦労が考えられないほどスムーズに配信は進んだ。

チロメもにこにこと楽しそうに配信をし、視聴者も相応盛り上がる。


最後。

チロメは食べ切って完食する。


このまま配信が終わるのかと思ったら、彼女は驚くべき行動に出た。



「――キルザルさん」



この鍋の料理人である、キルザルの名を呼ぶ。

呼ばれた本人はスッとチロメの方を向いた。



『ん?』

『キルザルって誰?』

『どうしたチロちゃん』

『あのめっちゃ手汚れてた人? 食料品の会社としてどう何アレは?』


「あ。えっとね、キルザルさんはこのお鍋を運んでくれたさっきも人だよ。手は……時間が押してると思って、料理をちょっと溢して汚れてたけどそのまま急いでくれたんじゃないかな? 近くで見たけど汚いものじゃなかったよ」


『そういえばクルルさんは?』


「クルルちゃん、ちょっと今手が離せないらしくて。だけど――獣人の皆さんに私、お礼が言いたいの」



視聴者に説明を入れつつ、まっすぐした目でキルザルを見つめる。

あの鍋を完食し、チロメは十分過ぎるほど『案件』をこなしたはずで、このまま終わってもいいはずのに。


キルザルはスッと立ち上がる。

あの何を考えているかわからない男も反応した。



「握手したいです!」


「…………」



正気か、と一瞬チロメの考えを疑った。


握手。

見てわかるくらい、キルザルの腕は赤黒い血でべっとり汚れている。


キルザルはチロメに近づく。

配信に握手のシーンが映るようにチロメがちょこちょこと位置調整をしつつ、2人が並んだ。


すっと右手を差し出す。



「伝統の味を教えてくれてありがとうございます! 料理からあなた達の強い思い、深く感じ入りました!」


「…………」



躊躇うことも全くなくすっと――チロメはキルザルと握手した。


数秒の握手は、体感数十分にも感じられた気がする。

それくらい強い握手だった。


意思、決意、何となくそういう『強いもの』が握手には混じっていた気がする。

チロメは笑顔、キルザルは眉ひとつ動かさない無表情なのであくまで何となくだけど。



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



手を離す瞬間、ねちゃ、とチロメとキルザルの手の間に赤い糸ができる。



変わらずにこにこしている。

無口無表情なキルザルと対照的だった。



「みんな! くるる株式会社の製品をよろしくね! 買いたい人は概要欄をチェック! それとクルルさんも活動してる獣人差別について少し考えを持ってくれると嬉しいかな!」



そんな締めの言葉を最後に配信は終了した。



「――お疲れ様です!」



配信を切り終わる。

チロメは開口一番そう言った。



「お疲れ様ですチロメさん! ……しかしすみません色々ごたついてしまって。私の責任です」


「全然大丈夫だよリダム! クルルさんが倒れちゃったのも昨日まで誰も予想できなかったんだから。リダムの責任じゃないよ」



チロメが優しくそう言ってくれる。

ホントいい子だなこの子は。


ジーンと暑いものが胸に込み上げてくる。



「――チロメさん! 私は、私英二は感動しました!!」



隣から爆音が聞こえてくる。

なんだ何だとと見ると、そこには顔全体が涙と鼻水でグシャグシャになった英二さんがいた。


うぉっと思わず横にそれてしまった。

チロメも驚いている。



「お、おお!? え、英二さん大丈夫!?」


「私は、私は! 今、人種の壁が確かに乗り越える瞬間を見た気がじまず! ええ、ええ! 本当に! 本当にあなたに依頼をしてよがっだ!!」


「え、えっと……それはよかったです?」


「ああ! そういえば手を汚されてしまってましたね! すみません! 拭かせてください!」


「あ、えっと……は、はい」



あの握手は確かに大きな『可能性』を孕んでいたと私も思った。

英二さんの感動も分かる。


チロメがされるがままに握手の際汚れた手を拭われる。


()()()()()()()()()()()()()()



「そういえばクルルさんは大丈夫ですか? 配信の途中で退出されてましたけど……」


「ああ、さっき確認してきたけど大丈夫そうだったよ。やっぱり体は丈夫でね。少し休んで元気になったみたいだ」



それはよかった。

そう思っていると、英二さんが少し神妙な顔つきになりチロメに話しかける。



「そういえば……マチャメカスープの味は本当に美味しかったんですか?」



配信だとチロメは満面の笑みで美味しいと言っていた。

が、臭いは明らかにまともなものではなかった。

あれでおいしいものとは想像できない。


申し訳なさそうな顔をしている。


もしかしたら本当は辛かったところを会社のために演技で嘘をつかせてしまったと。



「いえいえ! すごく美味しかったですよ! 少し見た目はアレでしたし味は違いましたけど、ちゃんと日本人向けのものでしたよ。それにキルザルさんの料理、クルルさんのと一緒で強い思いを感じました!」


「そ、そうですか?」


「はい! 英二さんもキルザルさんも今日は本当にありがとうございました!」



それを彼は聞き安心した表情を作った。


そしてチロメは英二さんと――少し離れたところにいるギョッとした目の獣人に頭を下げた。


英二さんが感極まったみたいでまた泣き出す。

案外涙脆いんだなあんた。



「……till ma」


「え?」



――キルザルがボソッと言葉を発した。


その後は何も言わず、いつもの無表情で扉を出て退出する。

あの人が喋っているところ、初めて見た気がする。



「あ、あのキルザルくんが喋った……!?」



英二さんが驚愕している。

チロメに私はちょいと呼ばれる。



「ねぇリダム、キルザルさんは最後なんて言ってたのかって分かる?」


「獣人の方ですが『中央』言語だったので分かりますよ。――“感謝する”って言ってました」



『中央』言語とはいえすごい訛りだったがな。

あんまりちゃんとした言葉は知らないんだろう。

母国語ではないと見た。声帯的に言葉を発せない人の訛りでもなかったし。



「そっか」


「そうらしいですね」



チロメが彼が去っていった扉を見つめていた。

何はともあれ。



色々あったけど、これで案件は終わった。




◇ ◇ ◇




チロメと2人並んで外を歩く。

東京の街並み。駅を目指して進む。


案件が終わり、病気で寝ていたが挨拶だけはと起き上がったクルルさんと英二さんに頭を下げられ、家に帰っているところである。


隣の少女はにこにこ気分が良さそうだった。



「いやー! 色々あったけど楽しかったね!」


「そうですね」


「色々と勉強になった気がするよ。あんな人達もいるんだなーって……私も将来、ああいう強い心を持ちたいかな」



あんたは今のままで十分強いと思うけど。



「チロメさん、少しそこのコンビニ寄ってきてもいいですか? すぐ終わりますので」


「全然オッケーだよ、私待ってるから。何か必要なものがあるの?」


「まあそんなところです」



先ほどから街を歩きつつ少し探していたのだ。

チロメは待ってくれているらしいので、パパーっとお目当てのものを買って外に出る。



「チロメさん、よろしければ使ってください」


「……? 私に?」



ガサゴソとレジ袋の中をあさってそれを取り出す。

いきなりものを渡してきたことに不思議そうな顔をしている。



「胃腸薬です」



瞬間、チロメが小さく目を開いた。



「……顔、出てた?」


「いえいえ、全く表情には出てませんでしたよ。英二さんも安心していましたし、おそらく誰にもバレてないかと」



――あの鍋が、本当に私たちにとって美味しいわけがないだろう。



つまりそういうことだ。

チロメの先ほどのアレは、全部演技である。



チロメは満面の笑みで美味しいと言った。

完璧な笑顔だった。何ひとつ含みのない、まっさらな。


チロメは結構賢い。

この配信で料理がまずいなんて言ったり、それから逃げるような行動を取れば会社がどうなるのか、を分かっての行動だったのだろう。


恐ろしい味だったろうに。

彼女は立派に責務を全うした。


本来は彼女の子守りを任されている私が止めなければならなかったんだよな。



「本当に申し訳ありません。本来は私が止めるべきでした。チロメさんのお父様にもシルフィア様にも面目が立ちません」


「いいよいいよ! それに私……キルザルさんの料理、食べて見たかったし」



少し信じられないことを言う。

あのこの世のものとは思えない料理を、食べたかった?


ギョッとしている私を見てか、チロメが口を開いた。



「見た目はちょっと関わりにくい人だったけど、クルルさんの会社に入ってるってことは、何か熱い思いがあるんじゃないかと思ってね」



話す。



「クルルさんたちが取り組んでる人種差別ってさ、いわゆる平和な国に住む私からすると、いまいち実感のわかないものだからさ。ああいう人たちの想いを、私はちゃんと知っておきたかった」



黒い髪が風に揺られる。

線の一本一本が綺麗に靡いていた。



「キルザルさんの料理、お汁の味はすごく酸っぱいきのこだった。ドロっとしてて他の具材にお汁の味がすごく染みてたけど……ちょっと喉が痛くなったかな。少し酸性が強いんだと思う」



言葉を濁しているが、多分酷いものだったのだろう。獣人用の濃い料理が日本人に受け付けるわけがない。



「でもね、クルルさんの料理みたいな、『想い』の味はちゃんとしたよ」



さりとて感じるものはあったらしい。



「キルザルさんはさ、日本人向けとかそういうアレンジはせずとも、元の伝統の味の力を信じてたんじゃないのかな。寡黙で何も言わないから伝わりにくいかもしれないけど……ちゃんとアレはキルザルさんなりの『答え』だったんだと思う」



そう言われればそうなのかもしれない。

そんなこと考えもしなかった私には分からないが、チロメが言うならきっとそうなのだろう。



「『答え』を貰ったんだよ。あの人の人生を表したような大きなものをね。今日あの料理を食べれて私はよかったと思う。ちょっとだけ実感できた。差別とかそういうのへの想いの大きさを」



黒い瞳で遠くを見つめている。



「だからね、そう……あ、あはは! 結構恥ずかしいこと言っちゃった気がするけど、何はともあれ! 私がしたくてしたことだからリダムは気にしなくていいってこと!」



そう言われてしまったら仕方ない。

「ありがとうございます」と返しつつ、もうひとつレジ袋から取り出してチロメに渡す。



「もう一個?」


「湿布です。チロメさん、キルザルさんと握手した時腕を痛めたでしょう?」


「あ、あはは……なんでもお見通しだね。バレちゃってたか……」



英二さんに手の血を拭ってもらっていた時に痛みが顔に出ていた。


獣人の力ってのは相当強い。

力加減を誤ったのだろう。チロメの細い腕なんて折ろうと思えば小枝のようにボキ、だ。



「……無理しないでくださいね?」


「む、無理するつもりはなかったんだけど……今日はお世話になったから、お礼を伝えたくてさ」



何気ない顔でそう言うチロメの顔を見て、



――いったいどれほどの人間があの手を握れるのだろうか、と。



ふとそう思った。


何のものかも分からない汚い血で濡れた手だった。

しかも本人は得体の知れない料理を作るギョッとした目の不気味な獣人。


触りたくない。

関わりたくない。


それが普通の感覚だ。


場の雰囲気や建前があって握ることになったとしても、あそこまで何も気にせず笑顔で握れるものなのだろうか。


チロメは笑顔が綺麗だ。



「ん? どうしたのリダム?」


「……いえ」




差別ってのはそう簡単には無くならない。


誰だってあんな汚い手は握りたくないんだし、あんな恐ろしい料理は口に入れたくない。

そしてそんな行為を当然の権利かのように押し付け、理解を強いてくる。


そんな奴らを、みんな好きになるわけがない。


野蛮な連中。治安が悪くなる。頭が悪い。香水が臭い。食生活が理解できない。力が強くて妬ましい。顔が違う。ナショナリティを感じられない。うざい。うるさい。


他にも理由は山ほどある。

差を感じるから別けたいのだ。


別けて、虐めて、視界に入らないようにしたい。


まるで狂気の沙汰だから。

料理も握手も何もかも、私たちから奴らを見ると。



でも、本当の狂気は、そんなところにはなく。



むしろ、目の前の少女にあるんじゃないか――と。



「帰ったら何しよっかな。リダムは何するの?」


「私ですか。そうですね、今日の配信を動画用に編集でもしましょうかね」


「仕事もいいけどちゃんと休んでね。今日は疲れたでしょ?」



こんな目にあっても屈託のない、チロメの笑みを見ていると、そう思わずにはいられなかった。

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