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なんばー11 案件

高そうな机。

高そうな椅子。

高そうな照明に高い天井。


私、柊リダムは今、チロメ宅でカタカタとパソコンを打っていた。

チロメが毎週恒例の土曜日配信している間、今日は帰りを引き留められているため、暇つぶしもかねて色々と細かい仕事をしている。


チロメの配信活動用に作った箱に送られてくるメールのアレコレの確認である。


質問とかもここに送られてきていたりする。

私が今やっているのはその整理。

変な質問だったりは来ないようにしているが、それでもちょっとした検閲なんかは必要で、まあ送られてくる量も大したこともないため、私一人の人力で分別しているのである。



「……ん?」



そんな中、一ついつもと毛色が違う、変なメッセージを見つけた。



「これは……」



俗に言うところの――



「配信終わったー!!」



メッセージに気を取られていると。

チロメが配信から帰ってきたらしく、にこにこと楽し気に声を挙げながらリビングに入ってきた。



「お疲れ様です」


「リダムもお疲れ!」



いったんパソコンから視線を離す。

しかし都合のいいところで来たな。

チロメに挨拶を返されつつ、ちょいちょいと手招きしてチロメを呼ぶ。



「ちょっといいですか?」


「ん? どうしたのリダム」



こっちに来るチロメに、パソコンを傾けてそのメッセージを見せる。

するとチロメは最初は不思議そうな顔をしていたが、だんだん驚きの表情に変わっていった。




『件名:案件のお願い

宛名:株式会社 イ世界平和食糧品会社 くるる


いつも楽しく配信を見させてもらっております。

地球とイ世界の共存を目指す活動と、イ世界の食料品や文化を広めるために活動をしています。

株式会社 イ世界平和食糧品会社 くるるの社長のキキリカ・クルル・レイティストと申します。


本社の商品をチロメ様にご紹介していただければと思い、そのご依頼のため、連絡した次第でございます。


チロメ様のどんな人間のどんな悩みに対しても真摯に相談し、対応されている精神に、地球とイ世界の手の取りあえる世界を目指す我々くるるの社員一同、深く感銘を受けて感化されております。

そんなチロメ様に今回は、日本の皆様にイ世界の魅力を知っていただくため、我が社の商品をご紹介していただくことをご依頼したいと思っております。


ご多用のところ恐れ入りますが、

3月11日までにご連絡いただきたく思います。

また、承諾していただけるのなら一度4月10日~24日の間に、打ち合わせのため、一度本社にお越しいただきたいです。


ご協力いただけると大変助かります』



まさにこれは――




「こ、これって……いわゆる『案件』ってやつ?」


「そう、らしいですね……」


「お、おお~」



チロメが感嘆の声を上げた。

何やら感じる部分があったらしい。


報酬なんかや細かい部分もその後の文章につづられていた。



「わ、私案件なんて初めてもらっちゃった。結構嬉しいかも。なんかすっごい褒められてるし……というか私ただの恋愛相談の配信者なんだけど、すばらしい人格者みたいな扱いを受けてない?」


「株式会社くるる、ですか……3年前にできたベンチャー企業らしいです。主にはイ世界産の食品を扱っている、と。軽く業績を覗いてみましたけど、すごい頑張ってる会社ですね。かなり成功してますよこれは」



ホームページやら業績書やらを見てみると数字はかなり高かった。


イ世界の風変わりな食材で注目を集めているのだとか。

しかしそれだけで終わらず、その曲者ぞろいの食材の中から日本人の口に合うモノを選び出し、うまいこと調理しているらしい。

大企業のような規模でもないが、口コミなども評価が高い。



「メールで言ってましたけど、元はイ世界と地球の共存活動……主に獣人の差別解消運動の促進のために作られた会社らしいですね。獣人のことを知ってもらい、そこから社会を変えたいのだと」


「最近テレビでよく見るよね、人種差別とか……すごい頑張ってる会社なんだね」



ふむふむ、色々と調べてみたが特に変なところはなさそうだ。

メールに書かれてた報酬も相場より少し高いくらいだし。



「どうします? この案件、受けますか?」


「うん、もちろん! 私は受けたいと思ってるよ」


「そうですか。ではお父様に連絡しておきますね」



チロメは笑顔で快諾した。

チロメパパにポチポチと確認のメールを送りつつ、そういえば、と思い出した。



「メールの後の方に一度会社に来てほしいと言われていますがいつにしますか?」


「うーん、そうだねぇ……」



話し合いは配信内容の打ち合わせとかそこらだろう。

そこそこ時間を取るはず。

土日とか、時間がたくさんあるときが望ましい。



「あ、じゃあ12日の月曜日にしよっかな」


「え? 土日じゃなくていいんです? 結構時間を取ると思いますけど……」


「ほら、だって月曜日、()()()()()で高校休みじゃん」


「……ああー、そういえばそうでしたね」



そう言われて思い出した。

そうか、月曜日は()()()()()だったか。

私の人生、学校にはあまり行かなかったし祝日だろうと働く日は働いていたので、祝日という概念に疎いのである。



「もうそんな時期ですか。何というか、少し前まで冬でしたのに時の流れは早いですね」


「私もちょっと前まで高1だったんだけどね……気づけば高校2年生かぁ」



時の流れの速度を感じ、しみじみとした気分になる。

まあそんなことはどうでもいい。



「それでは、12日ということでメールを送っておきますね」


「うん! ありがとう」



そんな感じに話は終わった。






◇ ◇ ◇






はてさて、町を歩けば汚い耳を生やした人間や青髪赤髪緑髪、と大変キレイでバリエーション豊かな髪色がズラリと並ぶ、なんとも摩訶不思議なセカイがここにあるわけだけど。


元からセカイはこうだったわけではない。

そう。時は1961年。日本は国民所得倍増計画だの終戦からの復興に力を入れていたこの時代、入れる()()()()()この時代、唐突にそれは起こった。




二つのセカイがくっついた。




具体的には、地球と異世界の星が合成されて、新しい丸い星が一つできた。

訳が分からない表現だが、こう表現するしかないのである。


隕石が地球にぶつかったとか、そういう次元の話じゃない。

これはそんな物理的な現象ではなく、神秘的な現象というか、言葉で言い表せない神の所業の様なものだった。



何が起こったのかを言葉で説明するために、まず最初に『地球』と『異世界の星』を『布の二つのボール』に見立ててほしい。

そして、その『二つの布のボール』が引き裂かれて『いくつかの布切れ』になった後、それらが糸で縫い合わされて『一つの大きな布のボール』になったような、そんなイメージだ。



言いたいことは分かる。

今は中身が空洞の布で例えたが、地球はぎっしり中身の詰まった惑星だ。


そんなことが起これば考えきれないほど多くの問題が起きるに違いない。

例えば地球滅亡規模の地殻変動が起きたり、天候がガラリと変わって天変地異が起きたり、まあ具体的にどんなことが起こるのかは分からないけれど、とにかく酷いことがたくさん起きるはずだ。



だが、そんなことは起こらなかった。



というかこの『一つのボールになる』現象は、何の前触れも前兆もなく、唐突に、1961年1月6日の15時31分02秒に、()()()()()()()()起こったのである。


そして災害なんてものもほとんど起こらなかった。


『ボールを割く過程』で大陸が真っ二つになったりとか、日本が一刀両断されるとかそんなことも全くなかった。

既存の6つの大陸はキレイに『6つの布切れ』に納まってくれた。


起こった不便なことといえば、既存の大陸同士の距離がすごい遠くなり、一時的に混乱が起きたことくらいだろう。

例えば、昔日本と中国は海を跨いでそこそこ近くにあったらしいが、今となってはイ大陸を跨いだその先、星を半周しないといけないくらいの物凄い距離になっている。


まあ、二つのボールの『布切れ』を適当に一つに縫ったら、もともと隣接していた布切れ同士が遠くに離れてしまうこともあるだろう。


ちなみに海流の流れだとか気候だとか、そういうものはほとんど変わってないのだとか。


偉い学者さん達は『今我々がほとんど過去と変わりなく生き残れている現状は、天文学的な確率で成り立っているものだ』と言っているらしい。私はよく分からないけど。



50年、60年たった今でもこの摩訶不思議な『神の所業』は、どうして起こったのかは判明していない。



今の科学では理解できない天変地異が起きたのか、それとも別の何かなのか。

案外本当に『神の所業』だったりするのかもしれない。


ネットでもそんな陰謀論がゴロゴロある。

この災害は人為的なもので、作為的な何かが仕込まれている、とか。

本当に自然の意思による天変地異なら、今人類がこうして過去と変わりなく生活できている現状はおかしい、とか。

しかしそんなことをできる人間はイ世界にも地球にもいないので、結局その説は陰謀どまりなのだが。



まあ、そんなセカイの成り立ちなんてものは、私にとってはホトホトどうでもいいものだ。



今を生きるのが精いっぱいな私にセカイの真理を追究する余裕はない。

そんなものは偉くて賢い学者様方に任せていればいいのである。



この話の結論は『私達地球人はイ世界人と同じ星で生きることになった』ということである。



同じ星で生きる。

それが『共存』という形にせよ『闘争』という形にせよ。

とにかく同じ星で、同じ限られた資源の中、我々は生活しなければならなくなったのだ。



当然星が合成された当初に争いは起こった。



戦争。

わけの分からない戦争。

わけの分からない者同士の戦争。



お互い急に同棲することになった隣人のことを、当初は全く分かっていなかった。


地球人からすれば相手は『原理不明の技術で魔法を使うお伽噺の住人達』。

イ世界人からすれば相手は『原理不明の技術で鉄を従える未来人』。


喋る言語も文明も、化学も文化も価値観も人も何もかもが違う。

お互いがお互いのことを、自分たちでは理解できないものを使う恐ろしい化け物と認識していただろう。


最初に起こった戦争は、我らが地球のアメリカに対する、偶々大陸の距離が近かったイ世界の狂犬獣人種の国の上陸戦だった。



結果はアメリカの惨敗だった。

獣人種の()()()()()()()()に、当時最強の軍隊の防衛線が壊滅させられた。


当初この事実は大きな衝撃を世界に走らせた。

イ世界に地球の最強の軍力は叶わないのか。

たった二人に壊滅させられたが、本土に何千何万何億といる獣人たちは、それぞれが軍をたやすく壊滅させるほどの力を持っているのか。


2000年を迎えられずに人類は滅ぶのだろう、なんて終末論まで流行してしまう始末。



しかし次の戦いでは、驚くほど容易にアメリカが獣人たちを壊滅させた。



()()()()()()()()()()()()()()()

それで世界は「イ世界人は銃をものともしない防御力を持っているのでは?」とその二体の例から推測し、絶望したが、しかしそれは全く的外れの考えで。



実際のところ、その二人が『特別』だっただけだった。



第一回戦の敗戦から『本来の獣人相手なら足りていた戦力』でも2人の例外から『足りない』と勘違いしてしまったアメリカは、とりあえず用意できる全力の火力を用意した。

それにたいして『敵、弱くね?』と勘違いしてしまった獣人の国もまた、安易に大量の兵士を派遣してしまう。


結果は大量虐殺。

銃でハチの巣、手榴弾で体は吹き飛び、まあとにかく大量に死んだ。

英雄2人はいなかった。理由は知らないが、とにかくその時戦場に赴かなかったらしい。



このことはまた、お互いの国に大きな衝撃をもたらした。



お互い思う。

話が違う、と。


片や人類滅亡を、片やイージーゲームを想定していたのだからそう思った理由は言うまでもないはずだ。


まあ、そこから先は色々あった。

色々あって、色々分かった。



基本的にはイ世界人も銃で殺しきれること。

数は少ないが、銃が効かないレベルの『すごく強い』個体がいること。

だけどその極一部も、ナパーム弾とか強い爆弾とか、貫通力の高い銃とか、とにかく大きな火力を当てれば何とか殺しきれること。

敵の『魔術』は結局よく分からないこと。



そこからだいたい20年くらい、お互い戦争して失ったり失わせたりして、お互い嫌気が刺したころ、戦争は終わった。



別にどっちが勝ったとかではなかった。



戦争終結の理由事態も実ははっきりとは分かっていない。

戦争学者たちは今も考察と議論を続けている。


様々な理由と原因がそこには存在しているのだろうけど、一つ確かなことがある。



それは『お互いよく分からない相手と戦うのに辟易していたこと』と『お互いがお互いの技術を欲しがった』ということだ。

今から喋るのは後者のことだ。



地球は全く別の理屈で発動する『魔術』の化学が欲しい。

イ世界は自分たちより1歩2歩、3歩4歩と先に進んでいる優れた文明力が欲しい。


色々な要因がそこにはあった。

そしてぐるぐるとそれらが混ざり合った結果、二つのセカイは共存の道を歩み始めた。



お互いの発展のために手を取り合ったのである。



どちらのセカイも腹の内で何を考えているのかは分からない。

片手で握手をし、もう片方は背中の後ろで銃を握っているのかもしれない。


表面上は今もうまく行っている。


お互いのセカイは分かり合える、手を取り合えている。

相手の文化を尊重しよう。

私達は同じ人間だ。


セカイは明るい言葉に満ちた。

前向きな進化と共存を遂げた。そして、今も遂げている。



そう。

その『手を取り合うことを決めた』終戦記念日こそが、4月12日。


太平洋戦争終結の8月15日ともう一つ、この日なのである。




話が長くなってしまった。




ここまで長々と語ったが、この内容の9割方は私には関係のないことだ。

こうして時間を取った結論。


私の言いたいことは一つ。




「気味が悪い」




ぼそりと街の道で呟いた。


見渡せばイ世界人がいる街。

私達にない、頭に大きな耳や尻に尻尾を生やした奴らがいる街。

魔術なんていう、怪しい力が使える奴らがいる街。


ここは日本なのに。



「ン? ナンカいたカ? リダム」


「……いえ、何でもねぇですよ。『ヤギ』に言うことじゃねぇですし」



友人である『ヤギ』と私は2人で街を歩いていた。


私の不機嫌な顔を見て『ヤギ』が臼歯を見せつけ歪にニタリと笑う。



「オマエ、オレタチきらいダヨナ。ソンナニきらいカ? キズつくじゃネェカ」


「……聞こえてんじゃねーですか。というかなんで「気味の悪い」って言っただけであんたたちの話だって分かったんです?」


「ツウコウニンのミミみすぎ。イヤでもワカル」



分かっちゃうか。

私は一つ舌打ちをする。



「気持ち悪いんですよお前らって。体も汚ねぇし品もねぇですし、暴力的で存在してるだけで治安が悪くなりますからね。ここは平和主義かつ先進国の日本ですよ? 獣人は国に帰ってください」


「ブハハハハ!! ネットでエンジョウしそダナオマエは!」



自分のことを言われてるにも関わらずヤギは爆笑していた。

こいつはよく分からないところで器が広い。

しかしこの畜生が『エンジョウ』なんて言葉を使ってるのも違和感あるな。



「きゃっ!」



そんなことを話していたら、ヘッドホンを頭に付け、スマホを見ながら歩いていたネコかなんかの獣人のおっさんにぶつかられた。


相手の屈強な体に対し私の体はあまりにも弱い。

衝撃のままに後ろに倒れ尻もちをつく。



「アア!? アブネダロクソガキ!! マエミテアルケヤ! ゴラッッ!!」



怒鳴り。

いや、明らかに歩きスマホとヘッドホンしてるお前のせいだろ。


しかしそう言えるわけもなく。

呆然とした私を置いて、不機嫌そうな顔をしながらその獣人はどこかへ行った。


…………。



「――ギャハハハハ!! 『きゃっ!』ダッテヨ『きゃっ!』オマエマジサイコウだワ!」


「あああああああ!!! これだから!! これだからてめぇらはカスなんですよ! カス! 害虫!! ゴミ!!!」



というかこんなこと前にもあった気がするぞ!?

ムカつく野郎だ。ぶつかったのに謝りもしないどころか怒鳴ってくる。

ホントこういうところが……ヤギも笑ってるし! クソ!



「すげぇ不快な気分です今」


「マ、ソウキレンナ……『きゃっ!』」


「死ね!」



全くむかむかする! 気分が悪い!

イライラしながら街を歩く。

ああ、元々今日は『終戦記念日』なんて言葉を聞いて気分が悪かったところだったのに。


全く厄日だ今日は。


そんなこんなでイラついていると、ふと目に入るものがあった。



「あ? お前なに言ってんの?」


「ス、スマセ……」


「だーかーら。 なに言ってんのって言ってんの。ずっとわかんないよー僕。君の言いたいこと。『スマセ』ってなに『スマセ』って? 謝るんなら『すいません』でしょ? 誠意が無いよね誠意が」


「スマセ、スンマセ……」


「……はぁ。変わんないね。やる気ないならいいよ帰ってくれても。やっぱ僕もさ、やる気ない人と一緒に働きたくないんだよね。マジで、うん。分かってくれるでしょ?」


「! スマセ、スマセ……」



工場現場の光景だった。

小太りの作業服を着た中年に、明らかにパワハラ気味で獣人の少年が詰められている。


かなり悪質だった。

声帯的に「すみません」と発音できないのだろう。

それなのにああして絞られている。あれでは改善も何もないだろうに。


私は思わず頬を綻ばせてしまった。



「スゲェ シアワセソウナカオシテルケドサ、オマエヤッパカスダワ」


「ふぅ……さっきの溜飲が大分下がりましたよ。畜生にやられた分は畜生で返す! いいですね! 私、今日一日この後幸せに過ごせそうです!」


「ナチュラルニオレラノコト『チクショウ』ヨバワリスルヨナオマエ」



『ヤギ』が茶々を入れてくる。

カスとはなんだカスとは。



「ハッ、『ドレイアガリ』カ。アンナノは イマ イッパイイルゼ。ニホンジン、ジュウジンしたにミテ、こきツカテイイトオモテヤガル」


「まあ特許関連のあれこれも含めて日本も余裕がなくなってきてますしね。相手のことを思いやる余裕がなくなってきて、ポピュリズムの台頭を感じるこの頃です。しかし……へえ、たくさんいるんですあんな子が?」


「ウレシイカ?」


「まあそりゃ私あんたたち嫌いだから嬉しいですけど。獣人差別って進んでんです? 最近出た特許の法案も獣人の権利も認めることが書かれてましたし、差別ってなくなってるもんだとばかり思ってましたけど」


「マア、ススンデルゾ。ヨクわからんカツドウカドモがガンバッテルシ、オモテムキはナクナッテルカンジダガナ。ケッキョク、ココロノウチはワズラワシクテタマランノサ。オマエミタイニナ」


「はえー、そうなんですね」



表向きは差別解消に向けて進んでいる。

しかし、人々の心は追いついていない。獣人たちが嫌いで嫌いでたまらない。

『常識』が差別を悪いことと言っているので、口からそうは言えないけれど。


そんなところらしい。


何だか随分と陰湿だ。

私はそういうのは好みだけれど。



「……ソウカンガエルト、オマエノホウガ、ズット『マシ』カモシレナイナ」


「ん? どういうことです」



ヤギがよく分からないことを言ってくる。



「オマエ、カオニダサナイダロ。ギゼンシャぶりナガラオレタチニイヤナカオスルヤツヨリよっぽどマシダ」


「……そういうものですか? あんたの前だと顔に出し続けてると思いますけど」


「イツモのカワイイソトヅラのコトダヨ」



ふーん。

それ以外の感想は出なかった。


そういえば、と一つ思った。



「しかし、獣人のあんたはどう思ってるんです? 労働法でも獣人だけ勤務時間に制限が無かったり、その他色々嫌われてるこの時代に随分他人事で余裕そうに見えますけど。仲間が苦労してることとかあんた自身差別されてることに、なにか感想はないんです?」


「ン? オレカ? オレハ——」



後ろから『こらぁっ!! またかお前はホントによぉっ!!』という怒声が聞こえた後、『スマセ! スマセ!』という必死で痛切な謝罪の声が聞こえてきた。まださっきの獣人はパワハラを受けているらしい。可哀そう。

少し気を取られる。


私の質問にヤギは不気味な笑みを浮かべていた。



「オレハ『ケイエイシャ』ダカラナ。ヤスクツカエル『ハタラキモノ』ハダイスキダゼ」


「私よりよっぽどお前の方がカスじゃねぇですか」



私とヤギは街の中に消えていった。

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