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異世界の神・動画に出演するのこと

 みなさん、こんにちは。もしくは、こんばんは! 皆様おなじみ、紅城直哉(あかぎなおや)です! 異世界から戻った魔法使いです! イエー!!(拍手)

 今日は、素敵なゲストをお呼びしています。こちら!(カメラがパン。貧相な三十代の男がソファに座っている)

 はい、紹介します。鏡行人(かがみゆきと)先生です!

 御存じ『異世界転生! 魔法使いだらけの世界で、俺が成り上がるまで』の作者でいらっしゃいます! イエー!!(拍手)


「あ、どど、どうも。かがみゆきとです(カメラを上目遣いでチラチラ見る)」


 はーい! よろしくお願いします!


 えー、今回、鏡先生においでいただきましたのは、あと三か月で、英修社さんから発売予定のぉ『異世界転生! 魔法使いだらけの世界で、俺が成り上がるまで』の書籍版について、お話をうかがうためです。

 鏡先生! あらためて、よろしくお願いします!


「あっ、はい、よろしくお願い、します」


 先生、まずは、書籍版の内容について、ざっと説明していただけますか?


「はい、えっと、内容は、ほぼWeb版の忠実な書籍化です。誤字脱字や文法の間違いなどが修正され、分かりにくかった部分が直されています。それ以外に、内容を削ったり書き足したりということは、やっていません。あと、イラストを井口ソノラさんにお願いしています!」


 はい、井口ソノラさんは、ライトノベル『イスフェリア戦記』や『あの子と見る月はいつも紅い』の挿絵担当、並びに、両作品のアニメ版のキャラクターデザイナーとしても有名ですね!

 どうでしょう鏡先生。今回の『異世界転生! 魔法使いだらけの世界で、俺が成り上がるまで』が、アニメ化する日も近いでしょうか?


「ええ~? ごめんなさい。これについては、まだお話していい段階じゃありませんので、話せません。英修社さんの方でも動きはあるんですが、まだ白紙に近い状態だと聞いています」


 そうですか! でも、書籍版の売れ行きが良ければ、その可能性は十分ありますね?


「ええ、そうですね。アニメ化の話は、まずは書籍版の売れ行きがわからないと進みそうにないですね」


 はい。視聴者のみなさん!

 そういうわけですので、もしよろしければ、書籍版のご予約をお願いします。もしもアニメ化したら、主人公・紅城直哉の声優も、当然のように本人である僕がやることになるかもしれません! そうですよね、先生!


「ええ……(微妙な顔)」


 先生! 笑ってくださいよ~。冗談ですってば!

 はい。では、次に行きましょう!

 鏡先生に、もう一つお聞きしたいことがあります!

『異世界転生! 魔法使いだらけの世界で、俺が成り上がるまで』の今後の展開について、教えられる範囲で結構ですから、教えて下さい!


「はい。えー、まずは紅城直哉君が、現世に戻ってくるばめんー……から、続きが始まります。これは、紅城くん本人に聞き取りをして書いています。ですからー、リアルそのものです!」


 はい! 僕の冒険の続きは、今この瞬間です! 僕が動画配信を始めたいきさつも、小説の中で語られます!

 現実と小説がリンクする、虚構が現実を凌駕する物語が、今後展開されます! 

 どうか、更新日を楽しみにして下さい!


 それでは、次のコーナーは、恒例の視聴者様参加企画! 魔法使い入門講座です!


(BGM 本チャンネルのテーマソング)


 ――ヘトヘトになって帰宅したあと、俺は、自分が出演した動画を恐る恐る観た。


 ああ、ヤだなぁ。

 まさか、俺が動画で自作について語ることになるとは思わなかったぞ。

 こうして観ると、ホントに酷い。話慣れしてる紅城に比べると俺は素人丸出しだ。頻繁にカメラをチラチラ見てるけど、これはカメラ脇に掲示されたカンニングペーパーを読んでいるのだ。


 以前、紅城は動画の中で、俺の小説が書籍化することを勝手に喋ってしまったことがあった。これを注意したところ、あいつは俺に、自分で動画に出演しろと言ってきた。

 動画で作者が自ら呼びかければ、作品の宣伝にもなるし、書籍版も売れること間違いなしって言われて、つい安請け負いしちゃったけど、やっぱり俺にはこんなの無理だわ。


 紅城の動画作成は本格的なものだった。紅城が一人で撮影してるわけじゃない。過去の活動で仲間にした(と、紅城は説明した)プロの撮影スタッフがいて、彼らがカメラもライトも出演者のメイクも、商業番組に近いやり方で撮影しているのだ。

 プロの仕事はプロに任せる。紅城はそう言って、撮影については全面的に彼らに任せて、従っているという。


 当然、スタッフもタダ働きってわけじゃないだろう。そのためのお金だって必要なはずだ。紅城はどうやってそれを工面しているんだ? 動画配信でそんなに稼げるものなのか?

 撮影が終わったあと、俺は紅城にそれとなく資金源を聞いてみたが、笑って教えてくれなかった。

 どこかに大口のスポンサーでもいるのだろうか。


 紅城の動画は続いている。今回の動画の後半は、俺が出演した部分とは別の日に収録したものだ。

 この「魔法使い入門講座」というコーナーは人気があるらしい。初期の動画では、単に魔法とはどうやって使うのかを紅城が一人で解説するだけだったが、最近は視聴者から代表を選んで、魔法の使い方をアドバイスするということをやっている。


 今のところは誰一人として魔法を使うことができていない。

 紅城が少し話してくれたけど、このコーナーの意図は、紅城以外の現代人が魔法を使えるかどうかを実験することらしい。

 万一を考えて攻撃魔法は教えない。植物の種子を準備して発芽させるとか、コップの水に沈めたコインを浮かべるとか、たとえ成功しても、害がなさそうな魔法を試しているのだ。

 今回の動画では、紙飛行機をテーブルの上に起き、これを魔法で飛ばそうとしている。恐らく紅城はこのコーナーを通じて、俺の小説に出てきた精霊を一通り試すつもりなんだろう。

 視聴者の代表だという、気の弱そうな若い男が映っている。

 彼はテーブルに座り、紅城に言われるままに印を切り、魔法の呪文を詠唱している。


「アルカ・アリル・ルパロス。 我が願いを叶えよ。ささやかな力で、白き鳥を舞い上がらせたまえ」


 テーブルの上の紙飛行機は、微動だにしない。


 その様子を紅城が見守っている。

 よく見ると紅城は汗をかいている。これは照明の熱のせいかもしれないけど、多分エアコンを切っているのが原因だろう。室内でエアコンを使っていると送風で紙飛行機が動き回るかもしれない。それでは魔法が発動したかどうかわからなくなる。

 だから、実験の妨げになりそうな機械はすべて切っているのだ。


 紅城が、若い男の背後に立って、同じ呪文を詠唱する。

 たちまち、紙飛行機はテーブルを滑走路にするかのように加速して宙に浮き、やがて壁にぶつかって落ちた。


「さあ、もう一度やってみようか」

 紅城は紙飛行機をテーブルに戻し、若い男に詠唱をうながした。

 男は深呼吸をしてから、また印を切った。

 紅城は小声で囁いた。

「風が吹いて、紙飛行機が動くところをイメージするんだ。普段の生活で、風が吹いて木の葉が舞うのを見たことがあるだろう。あれと同じ光景を想像して、君の手の先から、その風が巻き起こると思うんだ」


 男がこめかみに青筋を浮かべている。絞り出すように詠唱する。

「アルカ・アリル・ルパロス。 我が願いを叶えよ。ささやかな力で、白き鳥を舞い上がらせたまえ」


 テーブルの上の紙飛行機は、やはり、微動だにしなかった。


 渋い顔をして、紅城はカメラに顔を向け、視聴者に呼びかけた。

「そろそろお時間となりました。ご視聴の皆様も同じ呪文を唱えて風を起こして見て下さい。もしも成功しましたら、本動画にコメントをお願いします。本物と認定しましたら、金一封を差し上げますので、どうぞ奮ってお試し下さい」


 テーマソングが流れる。動画は終わりだ。また、今回も魔法は成功しなかった。

 原因はなんだろうか。異世界の魔法を現世で使うことは、やはり難しいのだろうか。

 俺はふと思いついて、手近なメモ帳から一枚紙をちぎり取った。

 何をするかって? もちろん、魔法を試してみるつもりだ。

 紙飛行機を手早く折って、作業机の上に雑然と置かれたペンや飲みさしのマグカップをどけてスペースを作り、その中央に置く。

 咳ばらいを一つして、印を切り、呪文の言葉を詠唱する。


「アルカ・アリル・ルパロス。 我が願いを叶えよ。ささやかな力で、白き鳥を舞い上がらせたまえ」


 もちろん、紙飛行機は微動だにしなかった。


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