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読者と作家のリセットマラソン  作者: 弓軸月子
終章 読者と作家のリセットマラソン

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15 確定した解は不確定要素を加えても不変


 エステルは椅子を担いだアマリリスと共に席に着いた。

 椅子が一脚足りない事に気が付いたのだろう。

 ロイドが運びそうなのにと視線を動かせば、頼まれたのか食料とお茶の追加に立ち寄っていた。

 話をしている内にすぐ戻ってくるだろう。


「面白い話は聞けていますか?」


 エステルのそんな質問に、スティはメモを見返しながら頷いた。


「はい。私が私の知らないところで暗躍している感じがとても面白いです。どちらの記憶もないので、精神が入れ替わっているという展開でも面白そうだと思うのですが、残念ながら私の様子がおかしかった話を耳にしたことが……」


 クロストに呆れた顔で見られてスティは言葉を選ぶ。


「私が別人のような振る舞いを……あら?」


 該当する心当たりは無いが、該当する奇行には思い当たる節があるらしい。

 自分も人の事は言えないがとクロストはため息を付いた。


「ふわっとしてるよな。こっちもそんな感じだし、案外入れ替わってるってのもアリなのかも」


 アマリリスが笑いながら、エステルに話を振る。


「そうですね、私の場合は……」


 魔獣騒動の中心となった洞窟で、魔獣と応戦していたエステルはかなり油断していた。

 長丁場になるだろうと予測も出来たために食料などの物資は大量に持ち込んでいたし、洞窟内であれば壁を作って一時的に休憩する事も容易に思えたと言う。

 波の様に押し寄せてくる魔獣に疲れてはいたが、一体ずつは驚異的な強さと言う訳でもなかった。


「普通のあの状態の魔獣は進んだら戻ってきません」


 エステルは後衛で、崖を挟んで一般冒険者が待機していたのも敗因だろうと自嘲気味に笑う。

 アマリリスも同意見で、後方から引き返して襲いかかってきた魔獣に気が付いた時、咄嗟に間に入ってしまったという。


「すぐに死ぬって感じでもなかったけど、まぁ結構な重症で、こいつったらプチンと頭がいっちまいやんの」


 エステルにはそこから先の記憶が暫くないと言う。

 魔力暴走を起こし、速度超過や視力強化、普段かけられたことも無いような魔法が現場で乱射され、その場にいた全員が被害を被ったと、またロイドが補足した。

 一瞬気絶していたアマリリスが気が付いた時には怪我は回復しており、背中に担がれて運ばれて、ロイドが守っていた行き止まりの通路前に連れて行かれた。


「転送魔法を使うのに確保してた場所だな。アタシはジギが家に迎えに来たんで王宮経由で向かってる頃だと思う」


 とはリリーの発言。

 どかりと座り込んで目を瞑って黙ったエステルを守るように、アマリリスもロイドも討伐を続けていた。


「魔法が目に入ったもんとか考えに寄るっつーの? 出来るだけ平静を装おうとしてくれたのは分かんだけど、まぁ、酷かった。なぁ、消音きつくなかった?」


 アマリリスがロイドに聞けば、ロイドも頷いて思い返している。


「その代わり視野の拡大ですか? あれが同時にかかりましたのでそれ程でも。それより背中が暖まる魔法が不快でした」


「謎だよな。まぁ攻撃系の魔法が乱射されなくて良かったよ」


 引き継いでリリーが言うには、そこにリリーとジギが到着し、リリーがエステルに接触する事で魔力暴走は収まったと言う。


「接触?」


 とジギが首を傾げたが、リリーは黙殺して続ける。


「その時点で言動が父上らしくなかったんだけどなぁ、聖女の特異体質は発動したし、前衛がわちゃわちゃしてたし、ジギと移動したんで最後に話したのはロイドだな」


 ロイドに顔を向ければロイドは言う。


「魔力補助の為の魔石をお渡ししながら聖女とはなにかという雑談をした覚えがありますが、途中からアマリリス様の動向を気にされて戦線へ戻られています」


 エステルが頷いて話をまとめた。


「気が付いたらアマリリスの声が聞こえましたので、すぐに移動したのです。魔力暴走中の記憶が無いのは普通の事ですし、こういう性分なもので、誰も疑問には思わなかったようですが、流石に性格までは変わらないのではないかと、個人的に気にはなっていたんですよ」


 ふーん、とスティはペンを置いて、


「これで不思議体験のお話は終わりなのよね?」


とリリーを見る。

 先に名前を上げていた人物分はすべて聞き終えたのだ。

 リリーは緩く首を振って、人差し指を立てる。


「もう一つある。これこそもやっとしてるんだけど……」


 今まで話をしていたエステルのその後に話は続く。

 ある程度の取りこぼしは許容範囲と、とにかくざっくりと中心部分の殲滅を続けた勇者パーティ―は、物凄い勢いで繁殖を繰り返している、人間で言う育児室のような空間を見つけて撃破した。

 その後、取りこぼしを殲滅するために分散して行動を開始。

 リリーはこの時点で離脱して、最終防衛ラインへ移動、体調不良のクロストと遭遇し、一度自宅へ連れ帰り、診療室で一時保護をし、手続きを終えたジギと王宮に運び込んだ。


「アタシも魔獣討伐に出張んなきゃなんなかったし、王宮なら人を借りれるからな。見かけて引き取ったからには最後まで面倒をみないと気持ちが悪ぃし。ってことだと思うけど、別に治安維持会に預ければそれで済んだ話ではあるよな」


 と、思い返してみれば少しおかしいかもしれないとリリーは言った。


「僕も寝たり起きたりの記憶が微妙にあるくらいです」


 クロストは頷く。


「こっちもお嬢を送り届けた後、王宮に報告に行って、ミュレーターさんを王宮に運んで、そこでガクッと来ちまってな。お嬢の家で寝かせて貰ってたか、王宮に行くかで、記憶は曖昧だな」


 ジギはバツが悪そうに言う。


「王宮でもなにか書き物をしていたような気がするのですけれど、何を書いていたのかしら……私も少し曖昧ですね」


 スティも首を傾げた。



「んで、ジギがそんなだったんで、ロイド借りて現場に出てたんだけど、ロイドはその辺曖昧なんだろ?」


 リリーが続きを話そうとしてロイドに尋ねれば、ロイドは嫌な顔をする。


「エステル様のところへ行って、薬屋に戻って再出動するまでの記憶がありません」


 不本意そうだ。


「まぁそれ以前に、なぜか現場のあちこちに転送魔方陣が書かれてるのとか普通に受け入れてたのも謎だけどな。書いたやつ全員もう一回書けっつっても書けねぇって言うし、聖女を呼ぶために書いたっつーし、後処理が大変だった」


 折角あるのだからと、転送魔方陣を活用しつつ、もう使用しないと思われる魔方陣は起動後に壊れるように魔法を追加し、方々で口止めもしなければならなかった。

 どこの現場にも魔方陣を書ける人物がいたようで、エステルがそれに掛かりきりになるような事態が避けられたのは幸いではあったが、それが誰だったのかは特定できていない。


「人の目についても良い事はないからね。証拠を消して歩いてしまった事にはなるのだけれど」


 あの時は仕方がなかったとエステルは言い、魔獣騒動が落ち着いてからは王宮で報告書をまとめなくてはと引き篭もっていた。

 戦利品として魔石や、出土した予言の書などはまとめてアスコルビンが王へ献上し、内容や保管方法についてもエステルに任されたために暫くは忙しかったという。


「誰にも予言の書を発見した記憶も、献上品の箱に入れた記憶もなかった訳ですが」


 それは後々に発覚したことで、何故か全員が、誰かが見つけ、誰かと内容を確認して本物であると納得し、誰かが献上しようと提案して、誰かが準備したと思っていた。


「どうです? 後半は広範囲に及んでいて面白いでしょう?」


 一連の、なんだか釈然としない曖昧な話を、エステルがそんな風に締めくくって、スティを見た。

 スティの手は止まらずにメモ帳を破いては机に並べ、時折矢印でメモ同志を繋ぎ、何事か書き足している。

 テーブル上で邪魔になりそうなカップや皿をロイドが避難させているが、気にした様子はなかった。

 クロストは立ち上がってスティの真後ろに立ち、文字を目で追う。

 他者が黙って見守る形になり、クロストが何度かメモを指でトントンと叩き、それを受けてスティが書き足したり塗りつぶしたりする、カリカリという音だけが響いた。

 暫くしてなにも書かれていない頁を破ったスティは、ペンを構えてエステルを見る。


「それで予言の書をお調べになった結果、私とクロストに辿り着いたのだと思いますが決め手は?」


 答えたのはアマリリスだ。


「ジギの件と、予言の書の隠蔽魔法を解いたら筆跡はスティちゃんの物だったし、魔方陣の魔力残滓、アタシがいくつか覚えてるのはスティちゃんと同じ魔力だったよ」


「クロストは?」


 食い気味に尋ねた問いに答えたのはエステルだ。


「セフトの件と、ああ、ゲンタもですね。それから魔方陣の魔力残滓は私が覚えていたものもある。クロスト君と同じ魔力でした」


 カツカツと強めに書き連ねてスティはペンを置く。


「本屋で私が魔法を使わなければ良かったのね」


 そんなスティの肩にそっと手を置いて、クロストは言った。


「遅かれ早かれ使わさせられたとは思うけどね」


 ついでにペンを取って最後のメモに一文を付け加えた。


『工程はどうあれ結果は変わらない。』

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