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読者と作家のリセットマラソン  作者: 弓軸月子
終章 読者と作家のリセットマラソン

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06 操作性の違いと使用者の違い


「予言書は分かりませんが、自分も気になることがあったんで確認はしましたよ」


 エステルとアマリリスに捕獲され、リリーの家に連れてこられたジギは、あっさりと答えた。

 ジギは職業柄、観察する能力に長けている。

 十分間記憶が抜け落ちた時、手元に残ったメモの筆跡も当然覚えていた。


「木炭で書かれたものだったし、色々あったんで現物は手元にありませんが、斜めに傾いた文字列なんでぱっと見で似てるなと思って」


 王宮に出入りするスティ・ミュレーターはよくメモ書きを床に捨てる女である。

 無意識に捨ててしまうようで、慌ててかき集めるのだが、紙を拾っている最中に何かを思いついては書き始めるので、気がつくと絶望的な量の紙屑が部屋中に広がっていた。

 彼女がゴミと称するそれらメモ書きにも、有用な情報が含まれていると、王宮勤めの魔道具師に頼まれて、引き取りに行った際に筆跡を見てすぐに気が付いたと言う。

 特徴的な書き順やトメハネを見るに、同一人物のように思え、しばらく護衛任務について確認した。


「偶然か、筆跡を真似られているかはわかりませんが、彼女自体がそういった魔法を使うそぶりはなかったです」


 一般人にしては器用に魔法を使う印象はあったが、一般人の域は出ない。

 顔立ちのせいで何かを企んでいるようにも見えたが、途中で訪ねてきた兄を見る限り、普通の顔がそう見えるだけの、普通のお嬢さんだった。


「その話は初めて伺いましたが?」


 エステルが穏やかに尋ねれば、


「捕獲が容易なのと、少なくとも自分が護衛中に怪しい所もなかったんで、もう少し様子を見てもと考えてました。もう一つ気になることもあったんで……」


バツが悪そうに頭をかく。


「変異種騒動の時に出現した魔法陣に似た筆跡があった気がするんですが、全部ではない」


 こちらは気にはなれど、ジギの立場では見て回れる時間も権限もなかった。

 ましてや疲労のため一時的にロイドに自分の仕事を肩代わりさせてしまった事もあり、復帰してからは意図的に密偵としての技術は抑えて行動している。

 魔法陣は迅速に痕跡を残さずに消したと聞いたのでと、言葉を濁すようにしながら説明するジギに、それまで黙って聞いていたリリーが言う。


「そういや親父が書く魔法陣みてぇにどれも整ってはなかったよな。父上、見てまわられませんでしたか?」


 エステルは比較して褒められたのが嬉しかったのか、頬を緩ませて頷いた。


「もちろん見ては回りましたが、書く時間も短く大きなものですから、慣れていなければあの程度の乱雑さであれば及第点でしょう。ただ、確かに複数の人物で書かれていたような印象はありましたね。憑依された人物の体格差や癖が出るのかと、憑依魔法が完成した後の研究予定には入れています」


 さらりと憑依魔法を研究中であると告げながら、エステルはアマリリスの顔を見る。

 魔力残滓を見る能力はアマリリスの方が上なのだ。


「魔力残滓は憑依された当人のもので間違いなかったよ。だからアタシにはどれも違う魔法陣に見えてる。分けるとすれば……魔力残滓の量か……うん、必要量で書かれたものと、全力で書かれたものって感じの差があったかな」


「ああ、魔力枯渇を起こしてたヤツもいたなぁ」


 リリーが思い出してつぶやけば、ロイドが片手をあげて発言の許可をとる。


「使い捨ての魔法陣を使用したとお伺いしたのですが、それはどなたが?」


 転送陣があると公言した後半戦では、使い捨ての魔法陣を乱用したと聞いた。

 使い捨てとはどういったものなのかも聞きたくはあったが、ロイドはその質問は口には出さない。

 それが分かったのだろう、エステルは簡単に説明を入れながら答える。


「使用後魔法陣上に人がいない事が確認できたら、半刻前の状態に戻すと言う術式を加えただけで、大層なものではありませんよ。土に書くという手段でしたから思いつきましたが……ああ、同行者が書いたという記憶はありますが、誰だったかは思い出せませんね」


「居合わせた冒険者に書かせたんじゃねぇの?」


 リリーが言うが、エステルは首を振る。


「そんなに誰彼構わず書けませんよ。密偵職、賢者職、魔道具師と、魔法学の教師などが書けると思いますが、そういった方々が書いていれば覚えているはずです」


 アマリリスはリリーの言葉に、考えたら分かりそうなことを考えずに納得してしまった自分の感覚に驚いた。記憶の改竄というか、捏造というものはいとも簡単に行われてしまうのだと、改めて注意深く思い出してみる。


「……アタシも同行者が魔法陣を書いてた記憶しかねぇなぁ。魔力残滓が少ない方で、うーん、目の前で魔法を使ってくれりゃ分かるかも」


 エステルは嬉しそうに頷いてアマリリスの手を取った。


「リリスは本当に女神様みたいだ」


 エステル以外が全員しょっぱい顔になったがその程度を気にするエステルではない。


「スティさんて友達の友達なんだよなぁ。別に仲は悪かねぇけど、呼びつけて魔法を使わせるっておかしくねぇ?」


 リリーがロイドに尋ねれば、ロイドは軽く首を振った。


「クロストと友人てだけで相当どうかしてんだろ。この間も普通に打ち上げに参加してたし、気にしないんじゃないか?」


 それもそうかと納得した時、パチリとアマリリスが指を鳴らした。


「そうそう、そのクロストくんなんだけど、スティさんとは恋仲じゃないの? 結婚間近レベルで」


 王宮絡みの面々にクロストについての情報は殆どない。

 ちょっと変わっていることと、リリーが薬に関する翻訳をお願いした人と言う程度の認識しかなかった。

 それはジギも同様で、スティの護衛中に見かけたことも、連絡をとっているところも見ていない。

 リリーやロイドはそれなりに付き合いも長く、スティとの友人関係も把握はしてはいるが、逆にスティの情報は少ない。図書館の彼女と揶揄った時期もあったが、その程度だ。

 結婚間近の恋仲という発言には全員が驚いた。

 なるほど、とエステルが頷いて、


「そういった雰囲気はないんだね? そしてクロスト君は簡単に呼び出せると言うことで良いかい?」


と聞けば何のこともなくリリーは言う。


「店に行きゃいるし、ここに来るのは明日だな」


 明日は定期的に購入している薬を取りに来る日だった。


「店って何屋さん?」


 アマリリスが聞く。


「冒険小説の新刊と、貸本と、貸本をその場で読める店。中古購入は応相談、買取応相談」


 リリーが簡潔に答えると、エステルが立ち上がった。


「それでは少々リリスと本屋デートをしてきます」


 当たり前に差し出された手をとってアマリリスも立ち上がる。


「貸本ってこたぁ古い本も、買うには躊躇する本もあるよな?」


 この二人も実はなかなかの本好きなのだ。

 意気揚々とリリーから蔵書情報を引き出しつつ、リジウム冒険本書店に向かって出て行った。

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