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読者と作家のリセットマラソン  作者: 弓軸月子
第一章 マグマダイブする勇者
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07 ある意味メンタルがダイヤモンド


 落ちる。


 クロストはそのまま体勢だけ整えて剣に魔力を通して大剣化し、壁に向かって剣を振った。

 遠心力を感じながら次に使う風魔法について考える。


(頭から上に向かって風が吹くって事は、頭皮から出てるんだよな? 髪を乾かすのに便利かもしれない)


 図書館で呟いている内容によく似た独白をスティも聞いていた。


(それって今考える事なのかしら?)


 スティの呆れたような声を聞きながら、剣が壁に刺さった手応えと、がくりと落下速度が落ちつつ削り始めた岩壁から飛んでくる破片に顔をしかめて、風魔法を発動する。


「っと」


 事前に速度を落としていなかった分壁は削ったようだが、剣も折れず無事に落下は止まった。


「ふぅ……」


 ため息をついて周囲を見渡し、先程よりも随分と上の方で止まる事が出来たと、クロストは安堵する。


(……そういえば昔は母親に風魔法で乾かしてもらってたかも)


 軽く岩壁を蹴って近くにあった小さくせり出した壁に片足を乗せて体制を整えた。

 片手は剣、片足は壁と、まだまだ不安定な体勢ではあるが、ぶら下がっているよりは少し安心する。


(今は乾かしていないのね。なにか複雑な事情でも?)


(普通に思春期に構うなと断ってからそういう事がないだけだよ。今はもう面倒で拭きっぱなし。スティは風魔法で乾かしてる?)


(概ね女子はそうじゃないかしら。さて、次はどうしましょうね。氷は止めた方が良いと思うわ)


 複雑な家庭の事情があるかもしれないフラグを折ったところで、先程の間抜けな死に方を思い浮かべながらスティは考える。


(この岩壁ってマグマが冷え固まったものよね?)


(……火魔法で岩壁を溶かしては固めとか?)


 物は試しと、クロストは少し離れた、けれど飛びつけそうな、自身の斜め上に溶かすイメージで火魔法を放った。

 岩壁は特に溶ける様子もなく、むしろ熱風が降り注いできて背中を汗が伝う。

 なるほど、確かに慣れてきたからか環境が気になってきた。


(駄目そうね。風魔法で浮き上がったりは出来ないの?)


(確か自分より重いものは浮かせられなかったはず)


 答えながら風魔法を発動してみるが、状態が多少楽になる程度で、体が浮く様な感覚はない。


(あー、なんだか飛行魔法と風魔法は違うって話を取材で聞いた気がするんだけど、なんだったかしら……)


 スティが考え込んでいるので、クロストは杭やナイフ、ロープがないか勇者装備を確認する。

 野営用だろうか、小さなナイフが一本、腰のベルトに引っかけてあった。耐久性はなさそうだがそれでも一応と壁に突き立ててみた。


「バキッ」


 折れた。

 剣で削った溝に指が入るかどうかも試したが、ザラザラとした断面に指先が細かく切れて地味に痛痒い。足も入りそうにないが、身体能力的には登れなくはない。多分。

 とは言え時間が持たないだろう。せめて安全な位置までは移動しておかないと、入れ替わった瞬間に死にそうだ。

 クロストは壁から手を引き抜いて振って手についた細かい岩壁の破片をなんとなく落とす。


(物語で決闘だとか言って手袋を脱いで投げるシーンがあるが、なんで騎士職の人が手袋なんてしているんだと思ったけど、確かにこういう事態に備えて滑り止めのついた手袋は装着しているのかもしれない。滑り止めのついた手袋で決闘を申し込むと言うのは些か無粋な気もするけど、実用性は大切だよな。そういえばこの間読んだ冒険小説の主人公は防具屋で装備を買う時に手袋は買ってなかったな。絶対必要だろ、手袋)


(ねぇ、だからそれって今考える事なの? 飛行魔法は物凄く飛べる位の短距離が限界だった気がするわ。岩壁登攀(とうはん)もちょっと難しそうだし、土魔法は使える?)


 町民が使う土魔法と言えば家庭菜園と家の修繕位だ。

 それだって材料ありきの使用で、やれゴーレムを生成するだの家を建てるだのは殆どおとぎ話の世界である。


(耕した事と埋め固めたことしかないから、全然イメージがわかないんだけど)


 クロストが岩壁を眺めながら思うと、スティは心得があるようで、そのまま指示を出してくれた。


(少しで良いから壁をつまんでみて? そうしたら魔力を流しながら引っ張るの。ちゃんと土魔法を発動しているつもりでね)


 言われたとおりに岩壁を指でつまみ、魔力を流して引っ張ってみると、確かに引っ張れるのだが、やり方が悪いのかつまんだ量が悪いのか、細く枝の様に伸びてパキリと折れた。

 今回は良く折れる。

 最終的に剣でも折れて死ぬかもしれない、などと考えても仕方のない事を思った。

 スティのフラグ折りでもうつったかな、と笑いながら、今度は手で掴むようにして岩壁を引っ張る。

 足場としては心許ないが、そこそこの太さで伸ばせた。

 一つだと心許ないならいくつか作ればよい話ではある。

 勇者と言うのは存外不器用なのか、それともクロスト(中の人)の不器用さ加減のせいか、思うように事が進まなかった。

 時間切れが怖かったので、ボコボコと何本か土魔法で伸ばした壁の足場は広く作る。

 剣を壁に差し直して両手で逆手持ちにし、壁に背をつけて足場に立つ。


(勇者死なないと良いんだけど)


 時間が分からないと言うのは不便なものである。

 どれくらい登れば良いのか、どこから落ちて来たのか、上を見上げてみても暗く光源なども見当たらなかった。

 落ちたのならば鼠返しの様になった場所かも知れない。

 本人が見て分かれば良いのだが。


(駄目でも土魔法ならわりと使えると思うから次はもう少し登れると思うわ)


 声に出しているわけではないが、そんな風に少しだけ落ち着いて話をする。


(終わったら図書館で目が覚めるんだろうか?)


(もう一回神様とご対面の可能性もあるんじゃない?)


(ああ、報酬も考えないといけなかったんだっけ。あれ? 二人でひとつ? 一人ひとつ?)


(二人でひとつっぽいわよね)


(分配で血の雨が降るやつ?)



 視界が暗転した後、二人は神様と話をした場所で再びテーブルについていた。

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